61.バトルスタイル
竜の棲み処を捜索し始めて、四日が経った。
思ったよりも時間がかかってしまった。私自身はもう少し早く見つかると思っていたのだが。四日もかかった理由は気候にある。四日のうち、丸一日と半日分の時間は捜索自体が不可能な豪雪だった。
ノースガルムの気候は安定しない。今後の作戦行動に支障をきたさないよう、気候のことは念頭に置いておかなければならなかった。
そして四日目の夕方。私の耳に吉報が入ってきた。竜の棲み処がようやく見つかったという報せだ。
竜の棲み処を見つけたのはステファーとアリエスの二人組。その報せが入ると、セルゲイ組と私たちレッドチョーカーはすぐさま会議室に集まった。
発見された竜の棲み処の場所が、円卓の上に広げられた地図上に書き込まれていく。
砦からそう遠くない位置、およそ半日もあればたどり着ける場所だ。問題視していた地形だが、それも悪くない。ステファーによると竜たちは地面に大穴を開け、地下に洞窟を作って生活しているようだ。
ノースガルムの寒さはさすがの竜たちも堪えるのか、それはわからないが。ともかく入り口が一つしか無いような洞窟なら殲滅するこちらの有利だ。入り口から徐々に押し込んでいけば戦いも進めやすい。
「洞窟の入り口まで……見てきたけど……中がどれくらい広いかは、わからなかった……」
「竜の総数を考えるに、恐らく洞窟内の竜の数はさほど多くはないはずですわ。五十から百といったところでしょう」
アリエスとステファーからの情報はそれくらいだった。
洞窟内がどうなっているかは不明で、竜の数もステファーの勘でしかない。つまり、踏み込むにしても暗中模索。手探りになるのは必至だろう。
とはいえ、こちらも騎士団の中の精鋭が揃っているのだ。上位種が何匹いようが、それらを殲滅することにさほど苦労はしないはず、と私だけでなく全員が口にした。
私たちは早速、翌日の突入班を決める話をし始めた。
偵察のときと同じく、ここに集まった九人全員が砦を離れるわけにはいかない。かといって、少数で踏み込むのも危険だ。
竜の棲み処である洞窟へ突入する班の戦力と、砦に残る戦力を上手い具合に分ける必要がある。その組み分けを決めるのは、セルゲイと私に一任された。
セルゲイは砦の騎士たちの戦力を一番把握している責任者であり、私もレッドチョーカーをまとめる隊長だ。隊員の戦力や向き不向きを熟知している。どう組み分けるのが最適解なのか、情報を照らし合わせていけば自ずと答えは出てきた。
「戦力で言えば無論、吾輩がこの砦で一番ではあるが……吾輩がここを離れるわけにはいかん。戦闘に関してはステファー達にそう差はない、誰に行ってもらっても構わぬぞ」
「こちらは作戦の要であるアストが確定だ。隊のまとめ役として私も行くとして……ウェッジ以外ならこちらもそこまで差は無いな」
ウェッジは話の最中、自分は全く関係ないという風に目を伏せて黙っている。
戦闘に関してウェッジは専門外もいいところだ。精々後方支援くらいしか出来ないから、今回の殲滅戦に連れていくわけにはいかない。
そしてヴェインも連れて行くべきではないと私は思った。
戦力としては申し分ないが、今回の作戦はただ竜を殲滅するだけでなく二匹の竜を捕えなければいけないものだ。ヴェインが一度頭に血を上らせてしまうと、一匹残らず殺してしまうことが懸念される。
その事も踏まえ、私とセルゲイが出した結論がこれだ。
今回連れていくのは、ステファー、ドック、アスト、シュリアの四人。隊長の私も含め五人で竜の棲み処へと向かう。
他の騎士は砦に残り、竜の襲撃に備えることになった。
◆
竜の棲み処へ向かう前日。
私は突入班に選んだ者達を部屋へと呼び出した。
「ジゼル隊長! 四人全員揃いました!」
「急に呼び出して一体なんですの? 明日の作戦でしたら、もう既に話しているはずですけれど」
ステファーは機嫌が悪そうに言う。確かに、明日の動きについては既に全員と話して決めている。決めていると言っても特に作戦めいたことはない。竜の棲み処に入れば、各々全力で殲滅に当たるだけなのだから。
しかし私は、一度確認したいことがあった。
「お前たちの戦い方を共有しておきたかったんだ。誰がどんな武器を使い、どう戦うのかを知っておけば、いざという時にフォローもしやすいだろう」
「あぁ……なるほど、ジゼルさんの言う通りですね。明日は洞窟内で乱戦になるだろうし、お互いに連携する必要もありますね」
「そう言う事だ」
私は腰に提げた長剣の柄に手を置く。
もちろん、私自身の戦い方も共有しておかなければならないからな。
「見ての通り私の武器はこの剣だ。戦い方には特徴が無いと思っているが……剣の切れ味は恐らくこの中で一番だと自負している」
「切れ味が……? その剣、そんなに業物ですの?」
「違いますよステファー殿! 隊長は戦技によって、剣の切れ味を底上げしてるんです!」
「戦技で?」
私の口から説明しようとしたが、シュリアが興奮した様子ですべて話してくれる。
「隊長の戦技は、”振動”なんです! 刃を超高速で振動させることで、竜の硬い鱗ももろともせず切断できるんですよ!」
「そ、そうですの。強力ですわね……」
シュリアは前のめりになり、ステファーの鼻先に息がかかるくらいの距離まで詰め寄りながら話している。そのせいでステファーは背中を少し反らしながら、シュリアの熱意に参っているようだ。
どういうワケかシュリアは私に心酔しており、私の話となるといつもこうだ。周りがその熱意についていけなくなる。
「そ、それで……そう言うあなたはどうなんですの、シュリアさん?」
「自分ですか? 自分は二刀流で戦います!」
シュリアの二刀流。実のところ、騎士団の中でも二刀流というのはかなり珍しいものだ。
騎士が扱う武器は千差万別と言ってもいいが、多いのはやはり剣。しかし剣の形状は違いあれど、ほとんどの騎士が一本の剣で戦う。私もその一人だ。
二刀流の騎士はそれこそ数えるほどしか居ない。シュリアが二刀流だという事を聞いて、今まで黙っていたドックが初めて口を開いた。
「お前たちはここに来る前……サウスガルムにいたらしいな」
「ええ、そうですよ」
「……砂漠の……二刀流の騎士。聞いたことがある……確か、お前のような女でなく老年の騎士のはずだが……」
「ああ! それは自分のお師匠様のことですよきっと!」
シュリアの師匠、それはサウスガルムのゲティスローツにいた騎士のことだ。
数少ない二刀流騎士の一人であり、ドックの言うようにサウスガルムで頭一つ抜きんでていた実力者だった。
シュリアの二刀流はその騎士によって仕込まれたものだ。
「お師匠様に比べたら自分なんてまだまだで……えへへ……」
「謙遜するなシュリア。竜でもないのに”飛び回りながら”戦える騎士なんてお前くらいだ」
「そ、そうですか隊長? 褒められちゃうなんて嬉しいですっ!」
「僕たちレッドチョーカーの中でも、シュリアは特別強いからねぇ。頼りになるよ、ホントに」
アストの言うように、シュリアは戦力として私たちの中でも突出したものを持っている。
ヴェインやアリエスも半竜としての能力があるが、それを加味してもシュリアには一歩程及ばない。実のところ、戦闘センスだけで言えば私よりも優れているだろう。
その身軽さと手先の器用さで、シュリアは独特な戦い方をする。
舞い上がるように跳躍したかと思えば、シュリアはそのまま空中で戦い続ける。二本の剣で竜を斬り裂くだけでなく時としてはあえて剣の腹で叩き、体勢を変えつつ反動を利用してさらに高く跳ぶ。
その事をステファー達に話したが、訝しがられてしまった。
シュリアの凄まじさは実際に目の当たりにしないとわからないだろうな。
私は、次はお前の番だと言う風にアストに視線を送った。
それに頷き続いてアストが話し始める。
「えっと、僕の武器はジゼルさんと同じく剣一本です。それと、こいつ。」
「っ!? なんですのそれ!?」
ステファーもドックも目を丸くして驚いている。
いまアストの手のひらからは、一本の鎖が伸びている。そう、手のひらから直接だ。
手のひらに空いた穴のような部分からじゃらりじゃらりと音を立てて、太めの鎖が際限なく伸びて床に重なっていく。
「僕の異界者としての能力ですよ。いくらでも出せますよ、この鎖」
「……そう言えば、アストさんは異界者でしたわね。ですけど、鎖がたくさん出てくるだけなんて、なんだかぱっとしませんわね?」
「……同感だ」
そう言われて、アストは苦笑いを浮かべながらすぐに訂正をした。
「ち、違いますよ、ただの鎖じゃないです」
「どういうことですの?」
「この鎖、竜の力を封じ込めることができるんです。鎖に触れるだけでも竜の力を半分は抑えられて、縛り付ければ完全に大人しくなりますよ」
「それは……!」
アストはレッドチョーカーの希望とも言える奴だ。竜に対してアスト以上に相性のいい能力を持った異界者もいないだろう。
その特殊能力を聞いたステファーは、私の方を流し目で見ながら不敵な笑みを浮かべた。
「ジゼルさん、どうやら貴方の隊……レッドチョーカーは騎士団きっての精鋭揃いらしいですわね」
「勿論だ。そうでなければ私たちだけで南へ北へと送られはしないさ」
「……頼りにしていますわよ」
私は「まかせろ」という言葉の代わりに、ゆっくりと瞬きをした。
頼りにしてもらわなければ困る。そうでなければ私たちがノースガルムに来た甲斐がないというものだ。
私はその後、ステファーとドックがどんな武器を使い、どんな風に戦うのかを聞いた。
二人ともセルゲイに信頼されているだけあって、ただの騎士とはまるで違う戦い方をするようだ。
二人の話も聞き、私は俄然この度の殲滅戦に確信を持った。必ず成功するという確信と、誰一人として斃れることは無いという確信を。
私たちは強い。
セルギウスグラードの騎士達と協力すれば、碧竜ツァラシスカラシカでさえも圧倒できるかもしれない。
そうだ。碧竜を討つことが出来れば、間違いなくレッドチョーカーの評価は上がるだろう。
そうすればきっと、騎士団を、『彼』を、見返してやることができるだろう。
シュリアたちがお互いのことについて雑談をする中で、私はそんな考えを巡らせていた。




