55.深層の真実
ロイが養生している部屋を後にしたエイジ達は、ヴェインの案内の元、ジゼルの待つ部屋へと戻ってきていた。
「戻ってきてくれて嬉しいよ、竜殺し」
「前々から思っていたが、その呼び名は堅苦しい。エイジでいい」
「ふむ……そうか。ならこれからはそう呼ばせてもらおう」
変わらずジゼルはテーブルの一番奥の席に座っており、レンティアの姿は無かった。常に近寄りがたい雰囲気を出しているジゼルと二人きりでいるのが辛かったのだろう。
エイジ、フォウ、ヴェインの三人はジゼルと同じように椅子に腰を下ろす。
「改めてようこそエイジ、我々は今から協力者となる」
「……その前に一つだけ確認しておきたいことがある」
「なんだ?」
「俺の目的は復讐だ。四王を全て殺し、この世の竜を全滅させることにある。……お前たちの目的はなんだ?」
張りつめた表情でそう問いかけるエイジ。
先ほどの狼狽は見る影もなく、出ていったフォウとエイジの間に何が起きたのかをジゼルはある程度把握する。
その上で、彼の鋭い眼光にも怯まずジゼルはすぐに答えた。
「言っただろう。最終的には君と同じく、竜を全滅させると」
「最終的、という言い方がどうも引っかかる。お前たちの目的はその過程にあるんじゃないのか?」
――鋭い所をついてくる。
ジゼルは目を細めそう思った。だが、エイジにはそれも含めた全てを話そうと考えていたため、言いよどむ素振りは見せなかった。
同席しているヴェインも同様に、慌てるような様子は無い。
「確かに、我々騎士の目的は竜を全滅させることではない。別の目的がある……が、どちらにせよ同じだ。順番に話していく」
「……随分と悠長じゃな。協力者とはいえ、主犯格はエイジとわしじゃぞ? エイジはせっかちな性格ゆえ、もたもたしておるとまたここを出ていきかねんぞ」
「焦らなくともいい。四王は近いうちにこっちに現れる」
ジゼルの言葉に、エイジとフォウの二人は思わず顔を見合わせた。
どういう意味かと、エイジの方から尋ねる。
「四王が現れるのか、ここに」
「ドルヤガでヴェインと会ったとき、地別線で竜が群れているのを見ただろう。東の四王ヴァスタークは間もなくサウスガルムへと攻め入ってくる」
「……竜は、四王は何をしようとしているんだ」
四王は戦争が終結して以降、それぞれが四つの地方を治める存在だった。
四王自らは動くことなく、支配下に置いた竜たちに命令を下す。絶対的な強者であるとともに、その実なにを求め何をしようとしているのかは不明だった。
贄の暦という制度を作り、人間を攫うその行為は四王が命じているものだと考えられている。しかし、贄の暦が何の目的で行われているかをエイジもフォウも知らない。
それに加え、東の四王ヴァスタークは地別線を越えて南の地に侵攻しようとしている。
しばらく考えていたフォウが、辿り着いた一つの可能性を口にした。
「もしや四王の奴ら……互いの領地すら欲し出したのか?」
「……竜同士で戦争をするとでもいうのか、フォウ」
「今まで各地方に分かれて干渉しあわなかったのが不思議なくらいじゃ。フォウ・ク・ピード全土を手中に収めようとするのも、強者の最たる望みじゃろ。……どうなんじゃ、ジゼル」
ジゼルは頷き、肯定を示した。
やはりそうか、とフォウが呟く。
「四王には服従意識が無く、互いに争い合うことも可能だ。奴らが潰し合うことを我々は知っていた……遊星限定と呼ばれる争いだ」
「……本当にお前たち騎士は色々と知っているな」
「……我々騎士が、この世界の歯車の中心だからな」
脚を組み直し、物憂い気にため息を吐いたジゼル。何故かヴェインも視線を落とし黙り込んでいる。
またも無言が続き、咳払い一つと憚られる重い空気が部屋を支配した。
エイジとフォウはその無言に従い、ジゼルの方から再び口を開くのを待つ。ジゼルもここまで来て、知っていることを隠すつもりは無いだろう。
無言で待つ時間は実際よりも長く感じられる。
体感でもう数分は経ったかというとき、実際は一分ほど口を噤んでいたジゼルが再び口を開いた。
「私が知っていることを全て話そう。騎士について、竜について、そして異界者について……長くなるが、聴いてくれ」
「……ああ」
そしてジゼルは騎士の過去を詳らかに話し始める。
竜と人間の戦争中、今となっては滅びたゲオルク騎士団に何があったのか。
エイジはもちろん、フォウでさえ知りえなかった数々の真実。
フォウ・ク・ピードを脅かした、竜の真相。
あまりにも長く濃密なジゼルの話は、それから数時間に及び語られていった。




