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可愛いは正義。

「――と言う訳で、ドンマイ!」

「それだけですか?」

「はい。それだけですね」

 職員室で、西澤先生に自信満々のスマイルで返答する。

「同じ不登校だから、なんて安直じゃないですかね?」

「成人君、先生に遠慮がなくなりましたね?」

 今さら人畜無害アピールした方が無理がある。

 呆れからか、ため息を吐かれた。

「仕方ありません。成果はじっくり待ちます」

「え、まさかの続行?」

「急がば回れ、先生の家訓です」

「……さてはただでは起きないタイプですね?」

「七転八起が家訓です」

「二行で家訓を変えないでくださいよ」

 今度は逆に、こっちがため息を吐く。

「それで、理由は?」

「理由?」

「不登校の理由ですよ」

 地雷の位置がどこにあるかくらいは、知っておきたい。

 不用意に踏んでドカンは勘弁願いたいところだ。

 そしたら急に、クスッと笑われた。

「いえ、すいません。やはり人は良いのですね」

訝しむが、微笑むだけで教えてくれない。

 喉に小骨が刺さったような、そんな不快感。

 しかし、打って変わって難色を示す。

「申し訳ありませんが、先生が言えることは何も」

「……そうですか」

 言えないのか、知らないのかはわからない。

 ただ、これ以上は聞いても無駄なのは理解できた。

「――学食の席取れてよかったねせーじん! 久しぶりにラーメン食える~!」

 髪の先をカールさせたお洒落な女の子。

……が、豪快にラーメンを机に置く。

 割り箸を割ることにさえ幸せを感じていそうだった。

「もぁに? わへないよ? こくいうおじ(何? 分けないよ? ここから解読不能)」

「口に物いれたまま喋るな。はしたない」

 なんか、この顔を見ていると考えすぎな気がしてきた。

 それに、こういう話はこいつにこそ訊くべきだ。

心美(みみ)。率直に訊くけど、学校行ってない時はどんな生活してた?」

「ふぇ? ずるっ――そうだなぁ……」

 一気に麵を啜り、顎に手を当てる。

 一瞬の戸惑いはあれど、合点がいったのか口にすることはない。

「やっぱ昼夜は逆転したね。朝起きるのしんどかったし」

「だよな、俺もそうだ」

 特にスケジュールないと、惰眠を貪ってしまう。

 そして朝寝てるから、夜は眠れなくなって……そんな悪循環。

「新波さんのこと? 会ってみてどう?」

「健康そうだった。下手すると俺より健康」

「あら珍しい。ボクの時は隈を落とすの大変だったなぁ」

 あの様子からするに、正しい生活習慣を送ってる感じだ。

 今日から学校にだって来れそうな感じだった。

「何か知ってるか?」

「うーん……可愛くて、真面目な子って印象かな?」

「大した情報じゃないな」

「だって、去年も君と同じクラスだよボク」

 そうなんだよな。かと言って、新波さんの知り合いと縁はない。

 やっぱり直接でも訊くか? 流石にデリカシーがないよな。

「でもやっぱり、可愛いというのはボクのセンサー的にも」

「そこ大事か?」

「大事だよ! 可愛いいずジャスティス! もはやジャスティスいず可愛い!」

 言いたいことはわかるが、それだと正義は可愛くなってしまう。

「あ、もしかしてワンチャン狙ってる?」

「まぁな」

「あ~、いやらしいんだ~」

 期待はしてなかったが、困って遠くを見る。

「――悪い、席外す」

「ぼうひょ~(どうぞ~)」

 カウンターの方で立ち止まっている女生徒を見つけた。

 お盆を持ったまま、しきりに辺りを見渡している。

 背はちょっとあるが、たぶん下級生の子だ。

 ヘッドホンを首に掛けている。しかも、結構値が張るやつ。

最近はファッションとして着ける子もいるって、心美が言ってたな。

 こういうのをボーイッシュと言うんだったか。

心美自身も割とお洒落してるし、その辺この学校は校則が緩い。

「ちょっといいか?」

「……何?」

 ビくりと肩を震わしてから、牽制する様に睨まれる。

「もしかして、席が無いか?」

「……そうだけど」

「なら、俺たちの席がそろそろ空くぞ」

「……? そう?」

 意図が伝わっていない。

 警戒心が先行して、あんまり話が入ってない感じだな。

「席、代わるよ」

「……はい? ……いいの?」

「いいよ。どうせすぐ空く――な?」

「な、じゃねぇよ。まだ半分あるんだよ?」

 困惑気味の下級生を半ば無理矢理だが連れて来た。

「いっき、いっき」

「それラーメンの為の掛け声じゃないよ?」

「ほら、可愛い後輩が見てるぞ」

「……いっき?」

「だぁー、もう! こなくそー!」

 器を持ち上げ麺ごと豪快に飲み込んでいく。

 飲み切った時には真っ白に燃え尽きていた。

「あ、あの!」

「あ、そうそう。席は荷物置いてでも先に確保した方がいいぞ?」

「でも、それ」

 確かに、あまり褒められた行動ではない。

 それがわかっているから、彼女もしなかったのだろう。

「大人数でやると怒られるが、一人二人なら問題ない。ソースは俺たち」

「やめて、うっぷ……今、食べ物の話しないで……」

「……頼むからここで吐くなよ?」

 肩を貸してる身にもなってほしい。

 学食から香る匂いにすら拒絶反応を示していた。

「……いつか必ず殺す」

教室の席に連れていくと、一瞬で突っ伏した。

「コーラやるから許せ」

「ボクにゲロインになれと?」

「俺は困らない」

 無意味だと諦めたのか、明後日向いて不貞腐れた。

「このお人好しがよう」

「いや、ただの気まぐれ」

 昼休み始まったばかりだから、席もそう簡単には空かないだろう。

 一言で言うと可哀想だと思った。

「君は、何というか……」

 哀れな者でも見るみたいな目をされる。

 しかし、諦めたように視線を机に戻した。

「……女の子同士でしかできない話もあると思うから……困ったら言ってよ」

 諦めて、協力の申し出をしてくれた。

「あ、もうダメ、ギブ。バイバイ」

 白旗を上げるように手を振り、バタンキューした。


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