最終話 二つの世界、その先へ
王都の庭園。
お茶会は、静かに終わりへと向かっていた。
夕暮れの光が、庭園をやわらかく包み込む。
昼間の華やかさとは違う、落ち着いた余韻がそこにあった。
令嬢たちは、それぞれ帰り支度を始めている。
「本当に楽しいお茶会でしたわ」
「ええ……こんなにも多くの装いを見られるなんて」
名残を惜しむような声が、あちこちで交わされる。
落ち着いた装い。
可愛らしい装い。
黒を基調とした装い。
そして、華やかに広がる装い。
それぞれが自然に受け入れられ、語られ、楽しまれていた。
もはや特別なものではない。
王都の中で――
当たり前のように存在している。
その光景を、少し離れた場所から見つめる三人がいた。
フェリシア。
ヴィオレッタ。
ミレーユ。
言葉はない。
ただ、それぞれが同じ景色を見ている。
やがて、ミレーユが静かに口を開いた。
「……変わりましたわね」
フェリシアは小さく頷く。
「はい」
ヴィオレッタが、穏やかに続ける。
「ですが、不思議ではありません」
「美しいものは、自然と広がるものですから」
庭園では、令嬢たちが最後まで装いを楽しんでいる。
笑い合い、語り合い、互いを認め合う。
そこにあるのは、競い合いではない。
違いを、そのまま楽しむ空気だった。
ミレーユが、わずかに微笑む。
「これからは、“選ぶ”時代ですわね」
「どの装いを選ぶか」
「どのように自分を見せるか」
フェリシアは、その言葉を静かに受け止める。
かつては――
“着られるもの”と、“そうでないもの”。
どこかで分けられていた世界。
けれど今は違う。
どの装いも、選ばれるものとして並び立っている。
(……二つだった世界が、ひとつに繋がっている)
胸の奥で、その実感が静かに形になる。
しばらくの沈黙。
風が吹き抜け、花が揺れる。
その中で――
フェリシアが、ゆっくりと口を開いた。
「……もっと、作りたくなりますね」
ヴィオレッタが、わずかに目を細める。
「まだ先があるのですね」
「ええ」
フェリシアは、はっきりと頷いた。
「きっと、まだ知らない装いがあります」
一度、庭園を見渡す。
それぞれの“好き”を選んだ人々。
それぞれの形で輝く装い。
その光景を胸に刻み――
静かに、しかし確かな声で言った。
「……まだ誰も見たことのないドレスを、作りましょうか」
一瞬、空気が止まる。
そして――
ミレーユが、楽しそうに微笑んだ。
「それは……素敵ですわね」
ヴィオレッタも、小さく頷く。
「ええ。見てみたいものです」
その言葉に、フェリシアも微笑み返す。
風が、やわらかく吹き抜ける。
庭園の花が揺れ、ドレスの裾が静かに動く。
その光景は穏やかで――
そして、確かな未来を感じさせた。
やがて、最後の馬車が庭園を後にする。
静けさが戻る。
だがそれは、終わりではない。
次へと続く、始まりの静けさだった。
王都に生まれた、新しい装いの世界。
それはこれからも広がり、変わり、重なり合っていく。
フェリシアは、空を見上げた。
夕焼けが、やさしく広がっている。
まだ見ぬ装い。
まだ知らない美しさ。
そのすべてが、これから生まれていく。
三人は、ゆっくりと歩き出す。
それぞれの道へ。
けれど――
その先でまた交わることを、どこかで知りながら。
王都の物語は、まだ終わらない。
装いとともに。
選ばれる美しさとともに。
そして――
新しい可能性とともに。
その先へ。
本編は一旦これで完結です。
数話、後日談的な話を考えています。




