第51話 華やかな装いの憧れ
王都の大通り。
石畳の道に、いくつもの馬車が静かに並んでいた。
扉が開き、令嬢たちがゆっくりと降り立つ。
本日は、小規模ながらも華やかな舞踏会の日。
その入口近くで、二人の令嬢が足を止めた。
「……あの方」
一人が小さく声を落とす。
視線の先。
そこに立っていたのは――ひときわ華やかな装い。
大きく広がるスカート。
幾重にも重なるフリル。
繊細なレースが光を受け、やわらかく輝いている。
そして、髪には控えめに飾られた小さなティアラ。
「……本当に、お姫様のようですわね」
隣の令嬢も、思わず見入る。
「ええ……」
「物語の中の方のようです」
その装いに包まれているのは、公爵令嬢ミレーユ。
背筋は自然に伸び、歩みはゆったりとしている。
大きなスカートは動くたびに優雅に揺れ、空気を含むように広がった。
一つひとつの所作が、装いとよく調和している。
別の令嬢たちも、静かに視線を向けていた。
「ミレーユ様のドレスですわ」
「やはり素敵ですわね」
「可愛らしいドレスとも違いますし……」
「落ち着いた装いとも違います」
その違いを確かめるように、言葉が続く。
「でも、とても印象に残ります」
華やかで、豪華で。
それでいて、ただ派手なだけではない。
一人の令嬢が、小さく息をついた。
「見ているだけで、少し気持ちが高まりますわ」
その言葉に、周囲も頷く。
「ええ」
「特別な日に、着てみたくなります」
ふと、別の令嬢が言葉を添える。
「最近、このような装いの方を見かけるようになりました」
「舞踏会だけでなく――」
「お茶会などでも、少しずつ」
通りの向こうへ視線を向ける。
遠くに見える令嬢の中にも、控えめながら同じ雰囲気の装いがあった。
広がるスカート。
重ねられた装飾。
ほんの少しだけ日常に寄せた華やかさ。
完全な舞踏会用ではない。
だが、確かに“あの装い”を感じさせる。
一人の令嬢が、静かに言った。
「憧れ、なのかもしれませんね」
「ええ……」
「少しだけ、特別になれるような」
誰かに見せるためだけではなく。
自分の気持ちを高めるための装い。
華やかなドレスは――
その願いを、やさしく形にしていた。
その装いを見た者は、ふと足を止める。
華やかさだけではない。
そこには、“なりたい姿”が映っている。
ほんの少し、特別になれる気がする――
そんな想いを乗せて、
そのドレスは選ばれていく。
お姫様のような装いは、
憧れという形で、
静かに広がり始めていた。




