第26話 王都に広がるふんわりした流行
王都の大通り。
朝の市場はいつも通り、賑やかだった。
パン屋の香ばしい匂い。
花屋の色とりどりの花。
行き交う人々の声。
その中で、ふと通りの人々の視線が、同じ方向に向いた。
「見て……」
小さな女の子が母親の手を引く。
「お母さま、あのドレス!」
通りを歩いていたのは、貴族の小さな令嬢だった。
ふんわり広がるスカート。
裾にはたっぷりのフリル。
胸元には大きなリボン。
そして――
頭には大きなリボンカチューシャ。
淡いピンクの布が、朝の光の中でやさしく揺れている。
「まあ……可愛いわね」
通りの女性が思わず微笑む。
「最近よく見かけるわね、あのドレス」
隣の女性も頷いた。
「ええ、侯爵家のお嬢様のドレスでしょう?」
小さな女の子が目を輝かせる。
「わたしも着たい!」
母親はくすりと笑った。
「そうね、とても可愛いものね」
そのとき、通りの向こうから別の令嬢が歩いてきた。
こちらのドレスは、少し雰囲気が違う。
落ち着いた色合い。
整ったシルエット。
胸元のリボン。
控えめで上品なフリル。
優雅で大人びた雰囲気のドレス。
「こちらも素敵ね」
「ええ、とても上品」
それは、フェリシアが最初に作ったドレス――
クラシカルロリータだった。
王都の街では今、二つの可愛いドレスが並んで歩いている。
落ち着いた優雅さのドレス――クラシカルロリータ。
そして――
淡い色の、フリルたっぷりの甘いドレス――スウィートロリータ。
通りを歩く人々は、自然と目を向けてしまう。
「可愛いわね」
「本当に」
「最近、ああいうドレスの令嬢をよく見るわ」
街のあちこちで、小さな令嬢たちがそのドレスを着て歩いている。
淡いピンク。
優しいミントグリーン。
クリーム色のスカート。
くるりと回れば、スカートがふわりと広がる。
「見て見て!」
小さな女の子が楽しそうに回る。
フリルが揺れる。
頭の大きなリボンも、ふわりと揺れる。
母親は微笑んだ。
「よく似合っているわ」
通りを歩く人々は、その様子をやさしく見守っていた。
王都の街に、少しずつ増えていく可愛いドレス。
フリル。
リボン。
ふんわり広がるスカート。
そして――
頭の大きなリボンカチューシャ。
侯爵家の庭で生まれたそのドレスは、
今、王都の街で静かに広がり始めていた。
クラシカルロリータ。
スウィートロリータ。
二つの可愛いドレスが並ぶ、新しい流行。
まだ誰も、その始まりをはっきりとは知らない。
だが確かに――
王都の街に、新しい「可愛い」が生まれ始めていた。




