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後日談 ステラナとリック

本編は終わりましたが、追加のエピソードを書きました。

読んでもらえたら嬉しいです。

 暑かった夏が和らぎ、肌寒くなってきた初秋、ルミとエリオは畑を両親にお願いして、新婚旅行へ向かった。行き先はステラナのいるアティベッドだ。

 ステラナに会うのは二人の結婚式以来、実に半年ぶりだ。


 ルミは目的地へ近づいていることを、頬を撫でる冷たい風で感じた。愛馬のユーリから降りて、あまりの寒さに自分の肩を抱いたルミに、エリオは鞄から厚手のストールを出した。


「これを持ってきて良かった、冷えるだろう」

「温かいわ。ありがとう」


 ステラナとの待ち合わせは、この町に唯一ある喫茶店だ。二人が手紙に書かれた地図を見ながら、何処だろうかと探していると、


「ルミー!」


 向こうから大きく手を振りながらステラナが走ってきた。相変わらず小柄なステラナだが、ガシッと抱き合うと、走ったからなのかとても温かい。


「久しぶりね、ステラナ」

「久しぶり、ルミ。会いたかったわ」


 ルミは再会の感動を込め、ステラナを力強く抱きしめた。


「元気そうだな、ステラナ」

 エリオが近づいてそう言ったので、ルミはステラナと離れた。


「お久しぶりですね。エリオ様」

 そう言って笑ったすぐ後に、ステラナの笑顔がわずかに曇った。


「あら? 元気そうじゃないわね? どうしたの?」

 ルミはステラナの顔を覗き込んで聞いた。


「あ、ごめん。二人に会えるのはとっても嬉しいのに」

 ステラナは隠し切れなかったことが恥ずかしいのか、苦笑いしながら頭を掻いた。

「今ちょっと、悩みがあるから……」


「悩み?」




 真新しい喫茶店に入った三人は、窓際の席に座り、それぞれに飲み物を注文した。


「ここのハーブティー、おすすめよ。ルミはお目が高いわ」

「本当? 良かった」

 ルミは向かい合ったステラナに微笑んだが、いつものように瞳が見えなくなるほどニッコリと微笑み返してはくれない。


「ねぇ、ステラナ。何があったの?」

 ルミは心配になって聞いた。


「我々に悩みを聞かせてくれないか?」

 ルミの横に座ったエリオもステラナの違いに気づいたのか、身を乗り出した。


「あ、うん……私ね、今、介護を必要としてるお婆様の元で住み込みの家政婦をさせてもらっているんだけど」

「うん」

「そのお婆様がね、私をとても気に入ってくださって、息子の嫁にならないかって言われたの」

 ステラナはテーブルを見つめたまま、ゆっくりと話し始めた。


「息子さんのお嫁さんに?」

「うん。でもご兄弟が七人いて」

「七人!?」

 勝手にひとりだと勘違いしていたルミは、驚いて目を丸くした。


「そのうち結婚されてない四人の方が、おばあさまの家にやって来て、それぞれとお話をして……」

 とても困ったようにステラナは眉を八の字にした。

「そのうち三人の方からプロポーズされたの」


「え! 三人⁉︎」

「でも、やっぱりどうしても、その方たちと結婚する気にはなれなくて……。私、まだリック殿下のことが……」

 言葉にするのを躊躇(ためら)っているステラナに、店員が紅茶を持ってきた。


「私、どうしたらいいかな? お婆様の期待には応えたいけど、どうしても首を縦に振れなくて」

 ステラナは切実な目でルミとエリオの目を交互に見た。


「正直に話して、お断りした方がいいと思うけど……」

 ルミはエリオの顔色を伺った。


「このことはリック殿下には話したのか?」

 エリオは事も無げに水を飲みつつ聞いた。


「いいえ、話せませんよ。話せる訳ないじゃないですか」

 頬を膨らませ、ステラナはカップを手に取った。

「リック殿下だって、まだ気持ちの整理はついてないと思いますよ。まだ半年だもん。きっとまだルミのことが好きなのよ。今日アティベッドに来るって話したら、とっても嬉しそうだったし……」


「あ! こんにちは。リック殿下」

 ルミは立ち上がった。たった今、店の扉を開けたのがリックだったからだ。


「あれ、こんにちは! ご無沙汰してます!」


 リックは相変わらず真っ白な肌とブロンドの髪をキラキラと輝かせ、ルミたちの元へやってきた。

「久しぶりです! ステラナさんから今日来ることは聞いてましたが、まさかここで会えるとは」


 ステラナに軽く会釈したリックは、空いていたステラナの横に席に座った。そこへ店員がルミが注文したハーブティーを持ってきた。リックは僕もそれと同じものがほしいと店員に注文した。


「あの、相談があるんですが……」

 店員が去ってすぐ、エリオはリックに声をかけた。

「相談ですか? 僕に?」

「ええ。ステラナに縁談話が出ていることはご存知ですか?」


 紅茶を飲んでいたステラナは思わずむせた。


「ああ、聞きましたよ。お隣の方が情報通なんです。国内外のことを、毎日何でも教えてくれるんです」

 リックはにこやかに微笑むと、ポンと手を打った。

「ああ! そうか。僕は今まで11人の方とのご縁談があって、全員からフラれてますからね。何度も経験してる僕からのアドバイスが欲しいと、そういうことですね?」


「あ、いえ」

 エリオは首を左右に振った。


「まず最初のアドバイスですが、なるべくお相手の目を見て話すといいと思います。僕は最初にお見合いした方に『目を見て話してください』と怒られたことがあるので」

 リックはステラナに向かって意気揚々と話し始めた。ルミは自分とのお見合いでもあまり目を見て話してなかったような……と、思いつつ、苦笑いした。


「後はお洋服に関してですが。僕は四回目のお見合いの時に、『今日の服はとても似合ってますね』とお話ししたら、『じゃあ、前回の服は似合っていませんでしたか』 と、ご機嫌を損ねてしまったことがあるので。特に何も言わないほうがいいのかなと思います」

「そうですか……」

 ステラナの顔がどんどん曇っていく。


「あとは……」

「ちょっと待ってください! アドバイス じゃなくて。ステラナは断りたいんです」

 ルミは慌ててリックの話を遮った。


「え?」

 リックは驚いてステラナを見た。

「そうなの?」


 ステラナは小さく頷いた。


「あの、リック殿下、ちなみにですが、ルミのことはまだ?」

 エリオは気まずそうにリックに聞いた。


「えっ! あ、いやっ! お会いするとまだ、ほーんの少しだけ胸は痛いですけど。幸せになってくれたらいいなって心の底から思ってますよ」


 リックはルミを見て、ニコッと笑顔になった、その時。


「私、ルミ達と一緒にスレイダンに帰る」

 ステラナが低い声でポツリと呟いた。


「え?」

「一生独身でもいいって思ってたけど、こうもハッキリ脈がないってわかるのはやっぱり苦しい。 耐えられない。悲しい……」


 ステラナは泣き出した。


「そんな! ステラナ、スレイダンに帰るって……本当に?」

 ルミは慌ててハンカチを取り出し、ステラナに手渡した。


「帰る! 絶対もう帰る!」

 ステラナはハンカチを受け取り、必死に涙を拭った。

 リックは何が起きたか分からないようで、ポカンと口を開けている。


「とりあえずお婆様から休暇をもらってきたら? 勢いで話を決めない方がいいわ」

 ルミが必死にステラナの肩をさすってなだめると、エリオも優しい口調でステラナをなだめた。

「そうだぞ、ステラナ。決断を早まるな。じっくり考えてから決めた方がいい」


「え? あれ? ステラナさんってスレイダンに帰るんですか?」

 リックは席を立ち、明らかな動揺を見せた。


「それは困るな。ステラナさんが来てから、アティベッドは見違えるように明るくなったんです。ヘアメイクに興味を持つ人も増えたし、みんなステラナさんのことが大好きですよ。悲しむと思います」


「……ぐすっ……本当ですか?」

「ええ」


「……それじゃあ、リック殿下も?」

 ステラナは期待を込めたような潤んだ瞳で、リックを見上げた。


「え? ええ……」

 リックはそう言った後、トマトのように顔を赤くした。


「僕もステラナさんのことが好きです……。ずっとアティベッドに居て欲しいです」

 誰かに言わされているかのような棒読み。でも肩を上げ、緊張しきった顔でリックはステラナを見つめた。


 ステラナはわんわん泣き出した。

「じゃあ、やっぱりアティベッドに残るー」


 泣くステラナと、その横で慌てるリック。ルミは彼らの様子に、ホッと胸を撫で下ろした。


「時間の問題かもしれないわね」

 ルミはエリオに近寄って囁いた。


「ああ。良かったよ。これで思い切り新婚旅行が楽しめそうだ」

読んでくださってありがとうございます!

これにて終わりとなります。


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