4-7(四)
泉水ちゃんの動きが怪しかった。
さっきから携帯を気にしている。窓の外に視線が向かいがちだ。
「あの、少し外に出てきます」
泉水ちゃんはそう言った。
「うん、どうぞ」
怪しすぎると思った。
これまでの泉水ちゃんであれば、どこかに行くときにわざわざそれを私に告げるなんてことは、しない。いや、どうだろう。さすがに今日は、二人でこの展示の管理をしているという意識があるはずだ。それだったら一声かけるだろうか?
いや……かけないと思う。
相当に、怪しい。
これ、謎じゃないか!
この状況。いつも平然としている出雲泉水ちゃんが不自然な動きで教室を出てどこかへ行く。どこへ? なぜ?
謎じゃないか!
私も謎班としてこの謎を解く必要があるだろうと思う!
泉水ちゃんは携帯電話をチェックしていた。それはもうやたらとチェックしていた。
さすがに何の画面だったかまでは見ない。けれど画面を頻繁にチェックし、時折するすると文字を打ち込んでいた。
相手は誰か。
私が泉水ちゃんの交友関係について多くを知っているとは言えない。けれど、クラスの誰かと泉水ちゃんが話しているのを見たことはない。一度としてない。他のクラスや学年の生徒と、というのもおそらく関係があるとは思えない。
今日は流鶯祭である。
連絡を取り合ってどこかへその相手と待ち合わせるとするならば、その相手はなにもうちの生徒とは限らない。しかし、泉水ちゃんは前の高校の友達で連絡を取っている人はいないと言っていた。中学時代の友達……にしても、前の高校は中高一貫校だったというのだから、やはり考えにくい。たとえば小学校だけ一緒だった幼馴染みとか……。可能性として排除することはできない。けれど、ちょっと無理がないだろうか。
そうすると、素直に考えて一番あり得る連絡を取っている相手は。そしていま、泉水ちゃんがこっそりと会いに行こうとする相手は。
当然ながら。
六花先輩だ。
勢いよく立ち上がると、思ったより大きな音を立てて椅子が後ろに倒れた。慌てて椅子を起こして、けれどそのままの勢いで、私は教室を出る。廊下の端、行き交う人の合間に金髪が消えるのを認め、私はそれを追いかけていく。
泉水ちゃんはどうやら3棟に向かっている。渡り廊下を抜けると一気に人通りがなくなる。3棟は流鶯祭の開催エリアから外れているからだ。私たちは初日に地学準備室から展示を運んだ。そういった搬入出が終われば基本的に用のない場所だ。
追いかける金髪がやけに輝いている。
私はスキップして駆け出したくなる足を必死に抑えて、その後を歩いた。