黒い翼と出合いと別れ 8
――私は知らない。何も知らない。何も知らなかったし、今更知りたくもない。
頭の中で何度も繰り返し、女性は歩き続けた。
途中、見覚えのある公園の前に出たので、中に入り、ベンチに座った。
いつもより速い鼓動は歩いた為か。
……それとも。
『……お姉さんは、生きる事を諦めていた、ように、見えた』
脳裏に、先程の少年二人の姿が浮かぶ。
自分を殺そうとしたという黒髪の少年。もう一人、若干目つきの悪い茶髪の少年の方は友人なのだろう。
「……『黒い翼』、か」
黒髪の少年が言った言葉。
もしも自分の予想が正しければ、『彼女』と同じ病に少年は罹っているのだろう。
助けられる術はない。
「……関係ない。私には、どうしようも、ない」
言い聞かせる様に呟くと、女性は立ち上がった。
公園から、住んでいるアパートまでは近い。
自分の部屋に着き、ドアを開けようとして気付いた。
「……鍵が、ない」
上着のポケットに入れていた筈なのに。
一応左手に持っていたコンビニの袋の中を確認する。
少年達の部屋でも確認済みなのだが、やはり、財布と買った物以外は見当たらない。
(まさか、あのアパートに忘れてきた……!?)
焦りが浮かんだが、事態はそれよりも絶望的だった。
「――忘れ物」
聞き覚えのある声に、身体が硬直した。
叫びそうになったが堪え、ゆっくりと振り返る。
そこには、先程の少年二人が、立っていた。
付けられていた事に気付かなかった。
ぐっ、と悔しさに歯を噛み締める女性とは逆に、
「この部屋でいいのかな?」
と黒髪の少年がドアの鍵穴に鍵を差し込み、開けた。
「……返して」
声が震える。
少年は素直に鍵を渡すと、
「おやすみなさい」
と笑顔で言い、もう一人の少年と去って行った。
見送る事はせず、すぐさま部屋に入りドアの鍵を閉める。
暫くそのままの体勢で、女性は固く目を瞑った。
サブタイトルの番号表記を若干変更しました。