プロローグ「Fランクの選択」
冒険者ギルド「銀の鈴亭」の掲示板には、無数の依頼書が貼られている。
討伐、採取、護衛、雑用――冒険者たちは己の実力と相談しながら、それぞれに合った依頼を選ぶ。ランク、報酬、難易度、期限。プロならば、当然そうした要素を吟味するものだ。
レオ・ヴァンディスは、違った。
彼はここ数日、掲示板の前で悩み続けていた。理由は単純明快。
「俺は今、変わらなければならない」
筋トレを始めて三日目。自分の中で、何かが変わりつつある――そんな確信めいた予感があった。だからこそ、依頼選びにも「変化」が必要だと思っていた。
「今までの俺は、ただ闇雲に突っ込んでいただけだ。だが、これからは違う。俺は考える冒険者になる」
そう呟きながら、彼が指を止めたのは、こんな依頼書だった。
『【緊急】森の外れに出没する暴走イノシシを討伐せよ。報酬:銀貨5枚。難易度:F』
「……ふっ。決めたぞ」
通りがかった受付嬢のエルザが、思わず声をかけた。
「レオさん、また随分考え込んでましたね。何か特別な依頼でも?」
「いや、これだ。イノシシ討伐」
「……いつも選んでる系統の依頼ですね」
「違う。今回は『考えて』選んだ」
「考えた結果、いつもと同じ依頼になったんですか」
「そう、それこそが成長の証だ。同じ結論に至っても、そこに至る過程が違う」
エルザは何とも言えない顔で、小さく笑うだけにとどめた。
この時、レオ自身も、ミレイも、ガレスも――そしてエルザでさえも、まだ知らなかった。この「いつも通り」に見える依頼が、後に町を巻き込む長い旅の始まりになることを。
レオは依頼書を手に、腕を組み、深く頷いた。
「うむ。これだ。俺にぴったりの依頼だ」




