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エピローグ

「結局、呪いのことは公にはしないんだね」


 サンクタ伯爵邸の温室で、鋼鉄の椅子に腰かけたコンラートが言った。


 結局、ペクーニア侯爵家とクラトール伯爵家はどんぐり豚事業を中止した。テレーズ様はエロー家から除籍され、遠く離れた北部の修道院に身を寄せることになった。もちろん、ペクーニア侯爵家三男のオーガスト様との婚約も破棄された。


「公にしたら被害者であるウェンディ様の評判に傷がつきますもの」


 優雅に紅茶を飲みながらシルヴィアは返した。


 グラトニー侯爵家はこの件については最初からなかったこととしてふるまっている。呪いが解けたことで、ウェンディ様も晴れて社交界に復帰し、婚約者のクラトール伯爵家のハロルド様とも変わらず仲睦まじくしているという。


 ただ、彼女はハロルド様に呪いのことを自ら明かしたとか。


「もともとはわたくしの不用意な発言が元ですし、婚約者とちゃんと向き合わなければ、きっと第二、第三のテレーズ様を生みだすことになります」


 ウェンディ様は間接的にだがテレーズ様の体質のことをご存知だったようで、自分の発言が巡り巡って彼女を追いつめてしまったと後悔なさっているようだった。


「ああ、そういえばペクーニア侯爵家のオーガスト君だけど、爵位継承を蹴ったみたいだよ。北で商会を興すんだってさ」


「そうなの」


 コンラートのお喋りに素っ気ない相槌を返す。そのことも、すでにヴァネッサ様から聞いて知っているのだ。


(オーガスト様はテレーズ様を追いかけて行かれたのね)


 オーガスト様がどんぐり豚事業に手を出したのは、他ならぬテレーズ様のためだったらしい。ただ、いくつか誤解があって、彼はテレーズ様とシャロン様の間に家督継承をめぐる確執があると思い込んでいたらしいのだ。だから、どんぐり豚事業でテレーズ様に実績を作ろうとした、のだそう。


 もし、彼が早い段階でそれをテレーズ様に伝えていたら、今回の呪い騒動は起きなかったのかもしれない。


(対話って大事ねぇー)


 家督や体質――いずれもデリケートでセンシティブな話題だ。あえて触れないのも優しさかもしれないが、踏み込む勇気も時には大切なのかもしれない。


 シルヴィアがそんなことを考えていると、向かいに座る駄犬がガタガタと鋼鉄の椅子を揺さぶった。なお、ヤツはドジ防止のため鋼鉄の椅子に縛りつけて不用意に動けないようにしてある。そんなわけで、ヤツには手を使わなくても飲めるよう、長めのストローを差したアイスティーを出してある。


「……ねぇ、シル。さっきからなんか素っ気ないけど、もしかして怒ってる?」


「……別に?」


 別に怒ってはいない。やめろと言うのに相も変わらず奇声をあげて突っ走り、いつものようにテーブルに特攻して靴をすっ飛ばし、蕾をつけたばかりのハイブリッドティーローズに靴の花を咲かせたことになんて。


「え? え? 俺何かマズいことやった?」


 慌てふためく駄犬には教えてやらない。


(……アンタは尻尾がふわっふわな猫ちゃんを家で七匹も飼っているんですってね! モフモフを独り占めして癒されているのですってね!)


 なんで黙っていたのか。シルヴィアは猫ちゃん大好きなのに。七匹もいるならモフモフしたいのに!

 つまりシルヴィアが怒っているのは、そういう所だ。駄犬は自分にまつわる話をまったくというほどしてくれない。

  

(幼馴染みのウェンディ様が知っていて、婚約者の私が知らないことがとぉーってもたくさんあるんだもの!)


 だからせいぜい焦りまくればいいのだ。


「シル、ごめん。ごめんって!」


 泣き声を出す駄犬を尻目に飲んだ紅茶の味は、気のせいか少ししょっぱかった。

ここまでおつきあいいただき、ありがとうございました!

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