夏空
たった2週間。
その間に、自分の中で1つの物語が始まって。
そして終わって。
短かったようで、長かったようでもあり。
2週間前の俺は、これから待ち受ける困難を、怖がっているだけだった。でもそれから、いろんな事があって、自分なりに必死に向かい合って。
今の俺は、まったく別人になれたような気がする。
「成長した」と、言って良いのだろうか?
自惚れなのかもしれないけれど。
教育実習が終わって数日。
クラス宛に、青晴さんから手紙が届いた。
拝啓
皆さん、お元気ですか。
私は今、京都の大学に戻り、教員採用試験の勉強に入ろうとしています。これからいろいろと大変になりますが、皆さんと過ごした日々を思い出しながら、頑張って行こうと思います。
こちらで就職する予定ですので、皆さんとまた会う事は難しくなるかもしれません。でももし、京都に来ることがあって、バッタリ顔を合わせるような事があったら、その時は遠慮なく声をかけてください。
時々、私と同じように教育実習から戻った友達と、どんな実習だったか話したりします。そんな時は、私はいつも皆さんの事を、自慢しています。楽しい事ばかりで、教えられた事もたくさんあって、本当に最高の2週間でした。
皆さんは私の初めての、そして自慢の生徒です。
遠くからですが、いつも皆さんを応援しています。
皆さんの未来が、眩しい希望に溢れていますように。
それでは、またどこかで……
敬具
「修学旅行って、京都に行くんですよね?」
「じゃあ、会えるじゃん!」
なんて、早速言っている奴がいる。
もし、本当に行くことができたとしても、おそらく会うことなんてできないだろう。その頃には、新人教師として、忙しい日々を送っているだろうし。
「岩佐先生、頑張ってるんだよな……」
「想空だって、めちゃくちゃ頑張ってたじゃん」
「いろいろあったしな」
練習からの帰り道。
コンビニの駐車場に、いつもの3人。
「何ていうかさ、2人ともありがとな」
「え、何?」
「どうした、急に」
それは、自然に出た言葉だった。
いろんな事がどんどん変わって行くけれど、この3人は、これからもきっと変わらない。苦しい事があった時、いつでもここに戻って来る事ができる。
そういう安心感、こんなに大切だと思わなかった。
「2人がいてくれて、本当に良かったと思ってるよ。慧介は、俺の目標みたいなもんだし」
「おだてんなって」
「ふーん、じゃあ、あたしは?」
おだてなんかじゃない、本気でそう思っている。慧介のように、周りから信頼されるくらい、強くなりたい。
もちろん、実夢にも感謝している。俺が一番苦しかった時、覚悟を決めることができたのはきっと……
「実夢だってさ、あの時ここで……」
「ちょっと想空! 言わなくていいって!」
実夢が慌てて、俺の言葉を遮る。
「実夢? 何、そんな真っ赤になるような事?」
「慧介くん、何でもないって! じゃ、あたしそろそろ行くね! また明日!」
手を振りながら、逃げるように駆けていく実夢を、慧介と2人で見送った。
あいつが聞かれたくないなら、別に言うつもりもない。
慧介も、無理には聞いてこないだろうし。
「やっぱさ…… 寂しい?」
慧介が、おもむろに呟いた。
「え、何の事?」
「ん…… 何つうかさ…… 実夢がいたんじゃ、話せない事だってあるんじゃね?」
ああ、やっぱりか。
何でもお見通しなんだよ、こいつは。肝心な事は、何一つ話していないはずなのに、全部バレてる。
「話したくなかったら、無理には聞かないけどさ」
いつも通り、慧介は無理には話を聞いてこない。
でも、俺だって、全部吐き出してしまいたい時もある。
「話したいんだけどさ…… いい?」
「いいよ」
「めちゃくちゃ愚痴るかもしれないけど」
「いくらでも聞くぞぉ……」
優しい風が、頬を撫でていく。
宵の空に、一番星が光っていた。
「じゃ、アップは武道場の周りを10周! しっかり声出して行こう!」
主将として練習を仕切るのも、ようやく慣れてきた。
まだまだ、分からない事だらけ。笹本先輩に助けてもらう事も、多いけれど。
頭上には、眩しい夏空。
気がつけば、季節は移り変わっていた。
「すっかり主将っぽくなったな、想空」
「慧介くん、あんまりおだてたら、想空さんの教育上、良くないよ」
「はぁ? 実夢、何だよそれ。あと10周追加!」
「おいおい、スパルタかよ」
「え!? まさか赤井先輩目指してんの!?」
「冗談! 冗談だって!」
1つの物語の終わりは、きっと次の物語の始まり。
この先、どんな事が俺たちを待っているのだろう。
それはまだ分からないけれど。
眩しいくらい、希望に溢れていますように。
そんな事を考えながら。
青く晴れた空を見上げた。
この作品を見つけていただいた皆様へ。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。今回が初めての投稿でしたが、毎日ハラハラしながらPVを確認したり、とても楽しい2週間でした。
もしまた作品を書く事があれば、また皆様に見つけてもらえる事を、またこんな楽しい気持ちになれる事を願っています。
それでは、またどこかで……




