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ネリーは竜使いの騎士たちにもらったピンを、7個全部髪に飾って慰問をした。
危険な辺境では魔術具として使えると思ったし、ネリーなりの気配りというか
「それぞれ特に相手は決まってはいないけれど好意は受け取りました」
という意思表示だったのだ。
ネリーは幼いころから美しく、身体の発達も早かった。
自分の外見をよく知っている。
街を歩く自分が男たちにどんな目で見られるのかということを良く分かっている。
だから本当は男が大嫌いだ。
もちろん自分は国の宝だし、笑顔はいつでも忘れない。
けれど、一生できれば男と暮らしたくなどない。
だから、人気のない森の奥に7人の竜使いの騎士に連れてこられて、囲まれたのにビックリしたのだ。
この人たちは自分に求婚したのではないのか。
「俺たちをバカにしやがって」
「元々は孤児のくせに」
殺気だった男たちにネリーは恐怖する。
「剣はまずい。ピンに血がついたら大事だ」
「殴り殺してやればいいか」
「その前に相手をさせようか?」
戦の日々は人の感覚を麻痺させてしまうらしい。
物騒な言葉を吐き続ける男たちを、ネリーはにらみつけた。
「慰問になんか来るんじゃなかった。国王も竜使いの騎士もバカばっかりだ!」
なんだと、と、男たちがこぶしを振り上げる。
その時。
目の前に暗い朱色が広がった。
「魔獣だ!狼だ!」
「大きいぞ!」
竜の3倍ほどある大きな狼が男たちをなぎ払う。
ネリーをいたぶるだけだと油断して、竜を連れてきていなかった騎士たちは慌てて逃げだした。
竜がいなくては魔獣に対抗などできないのだ。
残されたネリーを魔獣がふり向いた。
大きい。
うなる声が恐ろしい。
自分は食べられてしまうのだろうか。
「キヤイル!……大丈夫かい?お嬢さん」
後ろから落ち着いた声が聞こえてびっくりする。
ふり向くと、魔獣の民の服を着たメーユの男が別の魔獣に乗って駆けつけたところだった。
男は若くない。
自分に父がいたらこれくらいの年頃だっただろうか。
魔獣はうなり、男はふんふんとうなずく。
「確かに弱き者を守るのは族長の務めだけれど、急に飛び出してはみんながびっくりするよ」
ポンポン、と狼の頭をなでて、男がネリーに向き直った。
「僕はボルフというよ。大丈夫?怪我はない?」