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かわいいひと:2

大きな狼はひょいとネリーを咥え、ポンと背中に乗せた。


「キヤイルに気に入られたねぇ」


ボルフと名乗った男はのんきにネリーに語りかける。


「ここは敵地だから、一度うちの村に帰ろう」


メドジェ族は確か野蛮な抵抗を続けている魔獣たちだったはずだ。

目の前の温かい背中の狼と、のんきな中年の男とは結びつかない。

魔獣たちは森の木々が茂った道のない場所を、軽々と飛ぶように走ってゆく。

冬の辺境はしびれる寒さで、ネリーの舞台衣装は薄い。

ぺとっと狼に抱きつくとほかほかと温かかった。


(温石を入れた毛布みたい……)


慣れない移動と公演の連続の日々で疲れていたネリーはうとうとと眠ってしまったらしい。

ふっと目を開けると、そこには大きな焚き火を囲む人々がいた。

狼が自分を包んでくれている。

聴きなれない楽器の音と歌声、踊る人々の気配にネリーは狼から頭を出した。


「ああ、目が覚めた」


ボルフが微笑み、寒いだろう?と服を渡してくれる。

羽毛が贅沢に入っているらしいその服を着ると、ネリーの身体のラインを隠してしまった。

これでは魅力が半減である。


「お腹がすいただろう?粥しかないけど食べるかい?」


ありがたく碗を受け取る。

食べたことのない雑穀の粥は、あたたかくてとても美味しかった。


「ありがとう、ボルフ。あたしはネリーというわ。一応国一番の踊り子なの」


そして、今日の出来事について話をした。

狼は賢そうな瞳を光らせて時々うなずいている。

ボルフが、ピンが7個とはすごいなぁ、と、感心していた。


「僕がもらってもいいかい?」


もう見たくもない、ありがたく受け取ってもらう。

ボルフは小さな袋に大事そうにピンを入れていた。

捨ててやりたいが、売れば金になるだろう。

宿代である。

焚き火を囲んだ歌と踊りはずっと続いていた。

初めてみる踊りであるが、なんだか楽しそうである。

ネリーはひょいと人の中に入った。

人々はちょっとびっくりして、ネリーに微笑みかける。

ギラギラした男たちか、妬むような女たちに見られ続ける慰問の旅をしていたネリーには嬉しい、他意のない微笑みだった。

自然と体が動き出す。

国の宝と言われた自分の踊りとは少し違うけれど、合わせて踊れば拍手が起こった。

老若男女が歌い、踊り、楽器を演奏して楽しむ。

メドジェ族の民は、案外自分に合いそうだ。


「……本当に、見事な舞だね」


息を切らせて帰ってきたネリーにボルフは湯気の立った良い匂いのする飲み物をくれた。

口に含めばほのかに苦く、美味しかった。


「辺境は土と水に恵まれているから、食べ物は何でも美味しいと思うよ。王都に帰りたくなくなるくらい」


狼がネリーにまつわりついてくる。

暗い朱色の毛をなでてやると、嬉しそうにうなった。

情がわきそうである。

ネリーは動物が好きなのだ。


「一緒に寝ようか?」


言葉は伝わったのであろう。狼が顔をネリーにすり寄せる。


「えっ、キヤイル、だめだよ」


慌てたボルフの声が聞こえないふりをして、狼がネリーを咥えて一番大きな建物に入っていった。

小さな敷物にネリーを寝かせて包み込む。


「……いい子ね」


首元を掻いてやるとくすぐったそうにするのがかわいい。

程よい体温が心地よい。

一度少し眠ったが、お腹も満ちて、踊り疲れたネリーは、すうっと眠りに落ちた。


◇◇◇



(……あら?)


夜中に目を覚ましたネリーは、自分の横で眠る幼い少年にびっくりした。

自分には暗い朱色の毛皮が掛けてある。

しかし、その少年は床にそのまま寝ていた。


(どこの子かしら、凍えちゃうわ)


ネリーは少年に身を寄せ、自分の半分くらいの身長の少年を抱きしめた。

ネリーは子どもが大好きなのだ。

子どもは良く眠っている。

温かさを求めたのか、少年もネリーに抱きついてくる。

毛皮が温かい。

ネリーはまた目を閉じた。


◇◇◇


「キヤイル!式の前に何てことを!」


ボルフの怒鳴り声でネリーは目覚めた。

自分と同じくらいの年頃の魔獣の民のお嬢さんと、ボルフが怒っている。

少年は目を開けると、フン、とそっぽを向いた。

お嬢さんが分からない言葉で叫びながら、少年をバンバン殴っている。

一体何が起こっているのか。


「何もなかったかい?ネリー」


ボルフが真剣な顔で聞いてくるので、思わずネリーはぷっと吹き出した。


「こんな子どもと何をするって言うの?」

「いや、それならいいんだが、でも……」


二人が話していると、お嬢さんはネリーをにらみつけ、何か叫んで、泣きながら部屋を飛び出していった。


「どうするつもりだい?キヤイル。ネリーには魔力がほとんどないのに」

「俺は大丈夫。今までと一緒でいいだろう?」


少年は幼い声で大人のように話す。

発音がちょっとおかしいが、確かにメーユの言葉だった。


「一晩を一緒に過ごした。ネリーはもう俺の妻だ」


(……え?!)


ネリーは混乱した。

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