うれしはずかし朝帰り
「さて、キリキリ片付けてもらいましょうかね!」
マリベルがパン!と手をたたく音に起こされる。
目を開けると、アドルの顔がすぐそばにあってびっくりした。
肩に手が添えられている。
動けなくなってしまったイズールを見て、微笑みながら
「素顔もきれいだ」
というので顔を洗ってから自分は寝たんだな、ということだけは分かった。
「失礼しました!」
と言いながら離れると、不満そうだ。
「掃除が終わったらお風呂に入って帰りなさいよ。うち、風呂が大きいのよ」
「二人で入りたくて奮発したんだ」
「余計なことはいいの!……人前ではやめてと言ったじゃないの」
掃除中もルルファスとマリベルの声が甘い。
確かに砂糖を吐いてしまいそうだ。
「私、着替えて帰ります。お風呂は大丈夫なので」
「ぐっちゃぐちゃの髪で、そのえらく高そうなドレスで?」
確かに悪目立ちしてしまうだろう。
「このドレス、一体どうしたの」
「魔石交換をするうちに、その、サリラ様と親しくさせて頂くようになって」
「本当にサリラ様のドレスだったのね」
「電話交換手って、すごい人とつながりができるんだな」
マリベルとグノンが感心している。
嘘は言っていない。
「まあ、お風呂に入ってきなさい」
大人しく従うことにした。
「一緒に入りたいな」
アドルが耳元でささやく。
「アドル、からかうのはよせよ」
「からかってないよ」
「よそでやってちょうだい。がっつく男は嫌われるわよ」
相手は百戦錬磨、全てが社交辞令、とにかく無心になるのだ。
髪と身体を洗い、許可を取って化粧水と香油を少しもらって顔と髪につけ、さっぱりした身体にドレスをまとった。
ドレスだが、街着としても使えるデザインに仕立て直してある。
サリラの気遣いを感じた。
「あなたは地味好みだけど、もっとこういう服を着るといいと思う」
マリベルが感心したように言う。
「男が群がるわよ」
「地味でいいじゃないか」
アドルが慌てて言う。
「独占欲の強い男は嫌われるよ!」
リーリシャリムの言葉におかしくなってイズールはふふっと笑う。
「アドルにはお相手がたくさんいらっしゃるでしょう?……昨夜はありがとうございました、いい経験をさせてもらいました」
そして一人で家に帰ったのである。