女の子は誰でも
「ええっ、それだけ?」
「それだけって?」
「キスもしてくれなかったの?」
「連絡先は?」
「されなかったし、聞かなかったわ。教えて下さるはずがないのよ」
バルコニーのある喫茶処でネリーとセイランに報告会である。
サリラから譲られた気に入りの薄茶の街着のおかげで美女たちと並んでもそこまで見劣りしないはずだ。
あんなに頑張ったのに、と、二人は不満顔だが、これ以上を望んで何になるのだろう。
「騎士は王族と結婚することもあるのよ。私なんかおよびじゃないの」
「何を言うの、私たちは国の宝じゃないの!」
「……え?」
「文官様はまだ分かってないようね。いいわ、私たちの公演を見に来なさい。彼と来るのよ!」
チケットを2枚ずつ、4枚押し付けられてイズールはどうやって連絡を取ればいいのだろう、と悩んだ。
◇◇◇
朝一番でマリベルにチケットを見せると
「いいな!なかなか手に入らないやつだ!」
期限ギリギリの書類を届けに来ていたリーリシャリムがすごくうらやましそうに言った。
「リー、行きたいなら一緒に行く?」
「アドルに殺されちゃうよ!」
「いっそアドルを食堂に呼んでもらえば良いのよ」
「了解!」
ふわふわのはちみつ色の長い髪を揺らしながら、処理の終わった書類の束を持って騎士棟に帰っていく。
「女史は食堂で昼食なの?」
「そう。まだ私たちのことを知らない女の子もいるから、ちゃんと教えておかなくちゃと思って」
笑顔が不穏だ。
砂糖を吐くほど甘くてもマリベルはマリベルである。
「一緒に行きましょう。みんな来ているはずよ。アホほど強引な女もいるの。私のものよと言わなきゃアドルも取られてしまうわよ」
「取るも何も、連絡先も知りませんし……」
「もう、アドルったら案外へっぽこね」
黒いことを言いながら、手はすいすいと書類を仕分けしている。
朝の仕事を邪魔するのは悪い。
「時間になったら呼びに行くから」
という約束をしてもらって小さな部屋に帰った。
◇◇◇
ちょっと浮かれた気持ちをつぶすのはイヤな仕事だ。
下品に光る赤紫色の魔石をマリベルは押した。
「ドロゴロス様、ごきげんよう。今日は少し肌寒く感じますね。どなたにおつなぎしますか?」
不愉快を出すのは厳禁だ。
「ああ、今日はかわいい君に用があってつないでもらったんだ」
ニチャッとした口調で言うとドロゴロスはぐふぐふ、と笑う。
舐めるような視線を思い出して赤紫の魔石をにらむ。
「我が家においでいただけないかな?」
「私は文官ですので、お気持ちに添えかねます」
「サリラ様の家には行くのにかい?」
まずい、のかな?
「サリラ様?何のことでしょう?おつなぎ先がないなら魔石をお消しします」
すぐ叩き消してやりたいが、無礼にならない一呼吸をおいて赤紫の魔石を消す。
光が消えるとほっと息をついた。
不愉快と不安な気持ちはなかなか消えなかった。




