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ウッディン商会

転生したら転生してないの俺だけだった

〜レムリア大陸放浪記〜


3-4.ウッディン商会。


伝統的な西南レムリアの衣装。白い足まで覆う服を着て、頭にはカフィアと呼ばれる布を乗せ、輪で止めている。

「わたくし、ウッディン商会の代表で、ジャハドと申します。お見知り置きを」

「ダルジーン商会のウラナです。今日はどの様なご用件で?」

「まずはお茶をいただけますでしょうか?」

「承りました。開店には間がございますが、構いません。オコ」

オコはメニューを差し出す。

「どれになさいますか?」


「おお、朝早くから申し訳ございません。昨日大変なご盛況だったとお聞きし、心が急いてしましまして」

「城内にまで評判が?」

「昨日お店に詰めかけたお客のうち、お茶一杯に銀貨1枚を投じた方の多くは城内にお住いの方です。おそらく今日も評判を聞きつけて、沢山いらっしゃると思います」

「そうなのですね。しかしなんと情報がお早い」

「みな、面白そうな事に飢えているのです。大きな声では申せませんが、その…自粛で」

ああ、察し。というやつだな。しかしこの商人、ただの面白好きなおじさんではあるまい。


「ご注文は何に致しましょう」

「ああ、これは失礼致しました。このメニューにあるお茶を全て一杯ずつ頂けますかな」

ああ、同業の人確定だな。

オコが安い方から運んでくる。

「ダルジーン紅茶です」

男は目をつぶってお茶を含む。飲んで鼻から息を吐き出す。

「ああ…強いお茶ですね。これなら徹夜の多い魔術師の先生方もお気に召すでしょう」


聞香杯(もんこうはい)をお持ちしましょうか?」

「なんと大東茶の作法をご存知ですか?」

ジョウザの食文化は大東の影響を受けているので、聞香杯は勿論持っている。

オコが改めて聞香杯に紅茶を淹れて持ってきた。

男はこの細長い陶器の茶を先ほど飲み干したガラスの杯に注ぎ、空になった聞香杯に鼻を突っ込んで嗅ぐ。

「香りも素晴らしい。ダルジーンの茶は猿が見つけたと言われていますが、余程の高地で採れたものですか?」

パーサがかなりムッとしていたので、本当の事を言った。

「いえペンジクで最初に茶の原木を見つけたのは、これなる私の従者です。確かに彼女は猿並みに身が軽いのです」

「おお!これはお嬢さんに失礼を申しました。今後バクロンでは正しい情報が伝わるでしょう」

つまりバクロンの経済界で、自分は大きな影響力を持つ存在である。と言ってるのだ。


「しかし、ナランダー王宮では、ジャルディンII世陛下が、大々的に茶の栽培を始めていると聞きましたが、茶の原木を発見するとはウラナ殿はペンジクの恩人という事になりますな」

「いえいえそれ程では」

バクロンで紅茶の商売をする以上、多少ジャルディンが後ろ盾に付いている事は匂わせた方がいいと思ってパーサの事を持ち出したのだが、思いの外鋭い男だ。


オコが次々とお茶を持ってくる。

「こちらが砂糖入り。そして砂糖とミルク入りです」

「おお!私は大東の茶に慣れていますので、何も入れないものを好ましく思いましたが、こちらの方がお客様には好まれましょう」

西南アジアで茶やコーヒーを喫する時は、基本砂糖は入れなかった。甘味が欲しい人は、お菓子を食べたのである。


続いてラジャ・ドゥード・チャイ。

「おお!これは美味しい。先ほどのミルクティはミルクのために茶の温度が下がっていましたが、これは熱々ですね。そしてミルクで煎じるために茶葉が多い。贅沢なお茶です。この小さな菓子も美味しいですね」

オコは携帯食の乾餅にヒントを得て、薄く伸ばした丸い生地を竃で焼く、一種のクッキーを考案していた。特に俺の好みを入れて卵を生地に練りこんでから、味が本当にクッキー?ラングドシャ?みたいになった。オコ好みのシナモンを使ったクッキーである。これも評判が良く、これだけ売ってくれないか?と言う要望もあった。


そしていよいよスパイスティの出番だ。

「お茶とスパイス!珍妙な組み合わせと思いましたが、飲む菓子というか。素晴らしい」

真打ちのカルダモンティ。

「ああ…高価なカルダモンを惜しみなく。だけの話題作りかと思っておりましたが、これはお茶の女王ですね。銀貨1枚払うのは当然かと」

「お褒めに預かり恐縮です。ジャハドさんは本日は噂のお茶の品定めに?」

「はい、勿論です。そして満足行く結果でしたので次のお話も」

「次の?」


「ウラナ様はこの喫茶店の成功で今日明日には商会主として、入場が認められましょう。そこで当然場内でもお店を構えられると思いますが、実は城内で営業するには商業組合の発行するマフ(株)と言うものが必要でして、只今新規の発行がございません。

私どもは現在城内で大東茶の販売と"シーキョウ"と言う喫茶店を経営しております。よろしければ城内でこの素晴らしいダルジーン茶の喫茶店を、私どもと共同経営されませんか?」

なるほど競合店からの平和的ジョイントベンチャーのお誘いと言う訳か。


「ご趣旨は分かりました。城内への入場がかなうのは願ってもない事ですが、まだどれ位当地に滞在するかも決めかねている状態です。慎重に検討のうえ、ご返答させていただきたいとおもいます」

「なんと!ウラナさんはバクロンにダルジーン茶を根付かせるために来られたのではないのですか?」

ジャハドはちょっと驚いた様な顔をした。

「はい。勿論将来的には素晴らしいダルジーン茶を広くこの地域の皆様にも飲んで頂こうと思っておりますが、今回はバクロンの皆さんの好みを調査。と言いますか」


「成る程…。では良いお返事をお待ちしております」

ジャハドはきちっと定額を払い

「領収書を」

と請求して帰って行った。

「怪しいなあ」

「そうなんですか?あの男が?」

「まああの男とウッディン商会がだな」

「早すぎだがね」

「そして詳しすぎる。パーサの発見以来かなりの原木が発見されているが、本格的な収穫は来年だ。

他国はまだ『ペンジクで茶の原木が見つかった!』と言うニュースがようやく届いた頃で、やれ猿が見つけただの、国王が生産に力を入れているだの、ちょっと詳しすぎる」


「せやな。ウッディン商会とかご当地っぽい名前なのに、喫茶店の名前がシーキョウとか大東風なのもおかしい。勿論大東茶を手広く扱うのなら、より安いダルジーン茶に脅威を感じるのも分かるけどな」

「なんかマフ?がないと営業出来ないとか、自由貿易都市なのに変よね?」

「いやまあそこはそう言うもんかも知れんけどな」

自由貿易都市と言うのは、国王や領主から営業権を勝ち取っていると言う意味で、信長や秀吉の

「楽市楽座」

程度のものと考えた方がいい。信長に負ける前の堺の様な本物の自由貿易都市に国王がいるのも変だし、もし堺の会合衆の様な商人の有力者が国王を差し置いて国政をやっていたとしても、中小の商人が抑圧される可能性はある。


「とりあえず、パーサ。ちょっと潜入して街の声を聞いてきてくれ」

「任しときゃあて」

「方言は目立つぞ」

「お任せください」

やれば出来る子であった。


読んでいただきありがとうございます。

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