原価計算
3部の登場人物
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。
オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。
コンコン…先先代妖狐。伎芸天女の童女に憑依中。
ラン子…翼獅子。ラン(獅子)とヘレン(白虎)のライガー。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
3-3.原価計算
「ミルク入り紅茶を、オコがロイヤルミルクティに進化させたやろ?」
以前は淹れた紅茶に直接牛乳を入れていたが、茶の温度が下がってしまうので、鍋に水と牛乳を半々に入れて沸かし、茶葉も入れて煮てしまう方法を思いついたのはオコで、これがナランダーで正式にラジャ・ドゥード・チャイの淹れ方とされている。味と香り高い紅茶でなければ出来ない淹れ方だ。
オコは二人が止めるのも構わず、ウキウキと実演を始める。
「沸騰致しましたら、茶葉と魔法の粉を…」
なんか南レムリアのご飯時の様な香りが。
「ひと煮立ちしたら濾し器で濾して、砂糖を加えます」
バクロン風のガラス器にちょっとだけトロリとしたお茶が。
「改良したんだから、コンコンもパーサも飲んでみてよ、さあさあメグルも」
俺も二人も恐る恐る鼻の下にコップを運ぶ。
うーん、紅茶とミルクともう一つ、鮮烈な香り!
飲んでみる。
「おお!これはいいな」
前世の俺がスパイスティと返答している。
「いける様になったやないの、別もんやわ」
「何に変えたの、前はシナモン※だったでしょう?」
「うん、私はあれはあれで嫌いじゃなかったけど、シナモンだとシナモンの匂いしかしないって不評だったからね。スパイス変えて見た。なんだと思う?」
※もちろん香料にはそれぞれ現地名がありますが、紛らわしいので翻訳しています。
「クミン?」
「コリアンダーじゃにゃあ?」
「ハズレ。メグルは?」
「正解だと思うが、答えたくない。オコお前まさか俺の秘蔵の…」
「当たりぃ!スパイスなんて使ってなんぼだよ。ケチケチしない」
くそっ!魔法薬の研究材料として大事にしてたのに。
「使ったのか?俺の秘蔵の」
もう涙声である。
「カルダモンを!」
独身の頃カレー作りに凝った事がある。市販のルーとは違う
「自宅で出来る本格的カレースパイスセット」
みたいのから始まって、自分でスパイスを買い集めて調合する様に。流石に薬研(石鉢)でゴリゴリ粉にするところまではやらなかったが。
中米で大規模な栽培が始まった現在でさえ、カルダモンは別格に高い。スーパーで売ってる小瓶入りので見ても他のスパイスが300円だと倍の600円。だからそもそも置いている店が少ない。
ペンジクでは南東部の湿地帯で自生しているこの草の種を、農民が採集して供給している。面白い事に採集される植物は何種類かあり、偶然のブレンドで香りが微妙に異なるらしい。
ナランダーではスパイスは国産輸入問わず何でも手に入ったが(胡椒は南方諸島から大東人が持ち込んでいる)、カルダモンだけは厳重に管理され、高価な取引だった。元々生産量が少ないのである。ジャルディンは農園で栽培する事を検討していたが、何度か失敗している。
「使ったのか…」
「ごめん泣く程大事とは思わなかった」
しかし美味いものは美味い。強いダルジーン高地紅茶の香気に、優しいミルクの香り。それを支配する鮮烈なカルダモンの香り。
流石にスパイスの女王だ。
「莢は?種だけ?莢だけでもしっかり煮込めば良い香りにはなる。そうやって節約すれば、一杯
銀貨1枚とかの超高級茶として採算は取れるだろうが、ジャルディンが出してくれるかなあ…」
紅茶欲しい?どうぞどうぞ。なにスパイス?どんどん売りますよ。のジャルディンが、カルダモンになると話をそらす。仕方ない。交渉してみるか。
「パーサ?」
「パー子から打診済みだて。戦略物資として、200gのカルダモンを提供する。失敗したらバクロンでの末端価格で買い取って貰う。との事だがや」
仕事早いな、ぱーにゃんズ。
ジャルディンとしては紅茶が大東茶やコーヒーに勝つための貿易戦争と捉えているのだろう。
カルダモンティをフラッグシップとすると、もう一つスパイスティが欲しいな。
「オコのスパイスティはなにが失敗だったんだい?」
「失敗じゃないわよ。美味しかったもん」
「あかすか。シナモンの匂いしかせんもん」
「じゃあ、クローブとショウガと、シナモン半分で」
「「十分の一!」」
すっかりへそを曲げたオコに
「一緒にシナモンの焼き菓子を出すってのはどうだろう?」
これで少しご機嫌が収まった。
紅茶舗ダルジーン商会
メニュー
<紅茶>
ダルジーン紅茶 ストレート…銅貨20フィル。
ダルジーン紅茶 砂糖入り…銅貨25フィル。
ダルジーン紅茶 砂糖ミルク入り…銅貨30フィル。
<ラジャ・ドゥード・チャイ(ナランダー王室風ミルクティ>砂糖入り。シナモン焼き菓子付き。
ミルクティ…銅貨50フィル。
スパイスミルクティ…銅貨100フィル。
"スパイスの女王"カルダモンミルクティ…1ディルハム銀貨。
「こんなもんかな?」
「ひゅう。お茶一杯で銀貨1枚とか、強気やなあ」
「カルダモンの末端価格を考えると、これでも余り利益はない」
「金持ち専用か?」
「いや、珍しがり用だな」
あの踊りと花火の芸の時、雨の様に注いだ投げ銭の中には銀貨も多かった。地域により違うが、銅貨が日本円で5-10円。その上に大銅貨とか白銅貨とかあるのは国で違うが、銅貨1000枚が銀貨1枚は共通だ。
「この世界の男たちは、後々の語り草の為なら銀貨1枚を平気で投げ銭する。そういう連中に『銀貨1枚の茶ってどんなのだろう?』と思って貰えたらしめたもんさ」
「なるほど、流石お代官さまは悪だぎゃあ」
「そういう尾張屋こそ」
ふっふっふとパーサと小芝居して
「それとな、モニター懸賞もやるぞ」
「モニター懸賞?」
「使った銅貨100枚で、カルダモンティ試飲券が当たる」
「確立は?」
「1:10」
「つまりカルダモンティ1回飲むと?」
「10回くじが引ける」
「銀貨1枚で2杯以上飲める」
「よっぽど運が悪くなければな」
初日、物珍しさに集まった客の中でミルクティを2杯飲んだ客が一発で試飲券を当てた。
皆の見守る中、カルダモンティを試飲した男はいきなり泣き出した。こんな美味い飲み物飲んだ事ないと。
それでそのあとは銀貨1枚払う奴。何杯も紅茶を飲んで試飲券ゲットに走る奴。
大成功だった。
そして翌日。格式の高そうな商人がやって来た。
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