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18-37.才蔵と呑む

転生したら転生してないの俺だけだった

~レムリア大陸放浪記~


18-37.才蔵と呑む


「久しぶりだねえ。仕事、忙しい?」

俺は羽鳥才蔵を夕食に招待した。

プライベートな会談なのでお酒も出る。

「はぁ人代様のせいではないが、行きがかり上、上警に引き込まれてしまい、寿命の半分は削ったよ」

なんか前よりげっそりやつれている。

やっぱり上警ってブラックなんだなあ。


「特に上司が厳しくてねえ」

疲れを知らず、眠る必要がないナンバーズの上司と言うのは大変だろう。

「それでさ。マルブの警備の事だけど、おおよその事は四娘さんに聞いている」

「よ、四娘様と会ったの?スゲー!流石に人代様だなあ」

「才蔵は、上司とどうやって意思疏通してんの?」

「なんか耳元に命令が聞こえて来る。後は交換日記」

「交換日記ぃ?」

「あんまりきついからそう呼んでるだけさ。初恋っぽくていいだろ?要は業務日誌。俺が二~三行で簡単にその日の業務を書くと、評価と改善点を二十行くらい朱筆で書いてくださる」

ちっとも有難くなさそうに才蔵は答える。


これは重い担任だわ。

よく新人教師でクラス全員と交換日記するとか熱血がいるけど、生徒の方があたり障りのない、いかにも教師が喜びそうな事を書くのに良心が耐えられなくなってきて、その教師の悪いとことか書き始めて、教師が病むんだよな。

まあ才蔵は四娘には心酔してるから、まだ保つんだろう。でもいっぺん四娘には言っとこう。


「それで今度は大御所は直接コンサートを狙わずに、直前にテロ行為を多発させて、コンサートを流れさそうとするだろう。と言うのが上警の意思らしいね」

「そこまで四娘様が話してるなら、俺には話す事は何もないさ。ただ爆弾テロって言うのは、いざやろうとするとなかなか難しい。爆薬には黒火薬を使うのだが、こいつはきちんと重い容れ物を使わないと大きな爆発はしねえんだ。よく忍者が煙玉を投げ付けてその隙に逃げるだろ?あの程度の騒ぎなら簡単に起こせるが、要人を暗殺したり、建物を壊したりするには、多量の火薬ときっちり閉じ込める筐体(ガワ)が必要で、あんまり分厚くすると音だけ凄くて爆発しないし、薄いと花火になっちまう」


木炭・硫黄・硝石からなる黒火薬(黒色火薬)は、大東では何百年も前に発明されたが、未だに花火などに使う用途が多く、レムリアでは銃は発達していない。

強い威力で弾丸を前に飛ばす爆発力と、暴発の危険性との兼ね合いが上手くいかない為だ。


前世では、種子島の刀工が自分の娘を始めて来航したポルトガル人のところへ送り込んで、デレデレしているポルトガル人商人から、巧妙に隠されたねじ込み式の末端部(銃口の反対側)の秘密を聞き出し、次にポルトガル人が来航した時には、日本各地で火縄銃の量産体制が整っていた。

日本の戦史を塗り替えた火縄銃の登場は、この女性の決死の接待から始まったのである。


西洋では爆発の威力より使い勝手の良さを追求して、木炭の質(含有炭素量)を抑えた褐色火薬(ココアパウダー)が使われる様になるまでは、現在の様な薬莢式の銃は作れなかった。そして更に進化した無煙火薬が登場する。


一方レムリアでは、物体を遠くに飛ばす為に火薬の力を借りると言う発想がそもそもない。

先が鋭利な矢の方が遥かに殺傷力があるし(毒も塗れる)、鉄砲以上に矢の飛距離を伸ばす付加魔法を使う魔術師はざらにいるからである。

だが爆発物(例えば攻城戦で爆弾をカタパルトで飛ばす)としての利用は研究されており、各地で材料を巡っての争奪戦も起こった。


木炭はどこでも作れるが、硫黄は火山の多い蓬莱の特産物、硝石は朱雀国の特産物である。

硝石は前世では南米のチリと南太平洋のナウルが有名で、どちらも海鳥が何千年も群生する地域で、海鳥の糞が堆積しその成分が変化したものだ。日本だと南蛮貿易でしか得られないもので、当時は糞尿の染み込んだ人畜の暮らす床下の土から、貴重な硝石を取り出していたと言う。

そう言う訳でレムリアでも火薬を作れるのは特殊技術だった。


「忍者はどこから火薬を買っているんだい?」

「今は商人から買ってるよ。鎖国中も硫黄を大東に輸出し、硝石を買う貿易だけはやっていた」

「今は、と言う事は昔は?」

「家伝の秘法で硝石を得、黒火薬が作れる一族がいた。もう滅んでしまったが」

「滅んだ?」

「いろいろゴタゴタしてさ。お取り潰しさ」

どうも太津京の朝廷に鎖国を強力に働きかけたのが、当時異我忍者の中でも羽ぶりの良かった津藝(つげい)と言う一族だったらしい。


安い輸入硝石(硫黄とバーターだし)が入って来ては家業が没落する。と言う事だろう。

結局上の方の貴族(貿易推進派)に睨まれ、あえなく異我の豪族津藝氏はお取り潰し。党首は自害したとの事。

「それで恨みを飲んで自害した津藝権太夫と言うのが、忍者界では有名な悪霊になっちゃってさ」

上質のヤクスチランワインを飲ませたせいか、今日の才蔵は口が軽い。


「それだ!それだよ。やあ今日は才蔵殿を招いて、本当に良かった!」

「何の事だ?」

俺は才蔵に半分の真実を話す。

「うちのノヅリ師匠が開発したものに"ノミくん"って言うのがあってね。前に清腹尋長宰相邸にも密偵させたんだがね」

実物を見せる。

「うわ!本当にノミサイズだな」

「これを君が追ってる大御所の草にくっつけたんだよ」

「なんだよ。上警出し抜きやがって。そんな情報は公開しやがれ」

「すまんすまん」

もちろん潜入させたのは、本当はもっと恐ろしい極超小型自立式脳外科医間諜

「ナノ姫007」

である事は上警にも言えない。


「それでな、そいつを一旦回収してさ。記録した音声を解析したところ、しゃべり方が実に蓬莱忍者ぽい。紅賀の雲谷斎爺さんにそっくりなのさ」

「古風で偉そうってか?俺みたいなナウなヤングとは違って」

いや才蔵、決定的に古いから。

「やつが憑依していたのが、最初はハマジと言う海賊の小悪党で、そのあと名前は判らんが若者だ」

「確かに(ターゲット)は若造だ。あいつにそんな大物がとりついていたのか」

「草の仕事が得意な異我か紅賀の忍者で、大物が大御所の手下になっている。と言えば、もちろん幽霊でも構わん訳だ。大御所だって生死不明だからな」


「そこへ飛び込む津藝権太夫」

と才蔵が芝居掛る。

「忍者界随一の大悪霊さ」

俺も調子に乗る。

「しかも火薬の専門家と聞いちゃあ」

「はまり役、十八番でござい。だぜい」


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