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カイバラ峠(1)

転生したら転生してないの俺だけだった

〜レムリア大陸放浪記〜


2-10.カイバラ峠(1)


王の目はいい仕事をした様だ。全く姿は見えないが、刻々と近づいて来る野営の跡。そして夜間目撃される突風の様な何者かの通過。

タンランは勝利を確信した。

「ふははは。獲物から罠に近づいて来るとはのう」


俺たちがカイバラ峠で見たものは、封鎖された峠の入り口(想定内)と、日光いろは坂の様にヘヤピンカーブで構成されたS字道に、どんどん登って行く兵隊たち。腸詰ソーセージを作る様に、頂上の国境まで兵隊をびっちり詰め込む気だ。

ここまでやる?

と言いたくなった。


確かに俺たちの目的地は敵には丸わかりだ。

ただ多少敵がいても、S字にくねった登山道を真っ直ぐに登って行けば良いのだ。と思っていた。

しかしこれだけの兵が一斉に矢を放つと、流れ矢に当たってしまうかもしれない(味方の兵にも当たるのが気の毒過ぎるが、タンランは気にしないだろう)。流石のラン子もこれだけの傾斜を一気に登ると、トップギアでは登れないので70km/h程度に減速されてしまい、二、三発は食らう可能性が高い。


クルタン軍のすぐ隣で野宿しながら、俺たちは考えた。

「このままこの付近に潜伏して、クルタン軍の撤退を待つのはどうだろう?」

「食べるもんどうする気ぃや?食料専門の怪盗なんて目立つで」

「白虎もランも、空飛べるわよね。ラン子は出来ないの?」

ラン子は悲しそうに首を振った。年齢が若すぎて、せいぜい100m位しかまだ飛べない。と、コンコンが通訳した。

5子ちゃんは絶対に敵の手に渡せない。5子ちゃんの姿を見せるのもまずい。俺が魔法を十全に使うためにも、俺はツヅラには入れない。つまり5子ちゃんをツヅラに入れてオコが背負うしかない。コンコンは鞄の中からでも魔法が使える。俺たちは2人分の覆面を作った。後々しつこく指名手配されてもいい様に。


翌朝夜明けをもって、我々は作戦を開始した。

日中を選んだのは、ラン子が縞獅子の姿では木の葉隠れが効かないからだ。これが出来ればどんなに楽だっただろう。木の葉隠れは認識阻害の術なのだが、巨大な獣の圧倒的な存在感を隠す事は無理なのだ。

「何か身体強化の術はないの?」

「あるで。十割増しやから、メグルが普通の成人男子並みになるだけやけどな」

どんだけもやしっ子だよ俺。悪いけどここはオコの超絶体力に頼るしかない。


オコがコンコンの入った肩掛け鞄とツヅラを担当。ツヅラの中には5子ちゃんが入る。ラン子は帯に封じる。コンコンはオコに木の葉隠れをかける。

俺は手ぶらで自分に木の葉隠れをかける。

この状態で峠の頂上の国境まで約20kmを徒歩で登るのだ。

「メグル、疲れたらツヅラの上に座ってもいいよ。一緒に担ぐから」

とオコが言う。そうならない様に頑張ろう。

黙々と登って行く兵士達の横を、俺たちは追い越して行く。流石に俺(もやし)でも十割増しパワー の手ぶらなので、重装備の兵士達よりは速い。馬車がすれ違える幅の道なので、十分空きはあるが、兵士達は安全の為内側を歩く。ガードレールなど当然ないので、千尋の谷に落ちない様注意が必要だ。


世界の背骨たる大山脈の末端。尾骶骨位の山脈だが、最高峰は5000m位はある。しかしこのカイバラ峠は奇跡的に山頂の標高が1000m位しかない。麓の門が500m位の高原にあるので、この標高差500mを20kmのS字カーブで登って行く訳だ。4頭立ての馬車ならなんとか登るので、昔から交易と戦略の最重要拠点だった。

サンダル大王が南レムリアに侵攻したのも、アンゴルモア大王と"象に乗った王子"ジャルディンが死闘を繰り広げたのも、この峠だ。


俺たちは、悪魔の様に細心に・天使の様に大胆に

歩き始めた。

読んでいただきありがとうございます。

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