11-15.第一階層
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
11-15.第一階層
「ハニー…」
師匠がまだメソメソしているのを、オコが叱り飛ばした。
「あんた、早くクリンさんに会いたいなら、どうすればいいの!」
「それは…引き返して…」
「そんな事今更無理よ。もう階段も跡形もないわ」
俺たちが降りきると、階段は跡形もなく消えており、階段があった事を示す敷石だけが残っていた。
「師匠!先に進んで、最下層で何かイベントをこなすしかないんですよ。それが社長を解放する早道です」
「そんな事分かってるよ。子供扱いするな!」
珍しく師匠が感情的になったが、さっきからメソメソしている様は子供にしか見えなかった。
それにしてもいつも冷静で飄々とした、バクロン第3王子にして、邪道に堕ちた魔術師を千人以上処刑した。と言われるノヅリが、妻(正式な式はまだだが)と別れたことで、こんなにも弱るのか。と意外だった。
だがこう言うデリケートな夫婦の事は、他人がとやかく言う事ではない。
と思ったら、やはり我が家の妻は容赦がない。
「あんた…。クリンさんをほったらかして、一人でナイラスに行って、何ヶ月も帰って来なかったわよね」
それ言っちゃうかぁ。さすがに俺もあの時は唖然としたね。
単身鎖国中のナイラスに潜入して、魔術師軍団を圧倒し、魔法大学の全ての魔法を習得してしまった師匠は凄い人だが、その間社長とは一切連絡を取らなかった。
それを詰問すると
「きっと心配して、ウラナ君に連絡してくれると思ったから」
と言う返事。ナイラスでの功績は大きいだけ、きっと大変だった事はわかるが、放置された社長の身にもなってほしい。
この時は流石に社長も激怒し、もう別れると言ったのだが、どう言う訳だか二人の仲は急接近し、ついに婚約から事実婚に向かった。
その辺はどうやったのか良くわからん。
ナイラスには時々超絶美女の女王が現れるが、男を骨抜きにする凄い魔法(秘法?)を使うとの事。そう言う術を学んだんだろうか?
ちょっと教えて欲しい気がするが、俺とオコには必要ない。ただ、足を蹴られるのは少なくなって欲しいな(※鈍感主人公系要素)。
「とにかく先に進むわよ!」
お約束の迷路だ。特に危なげなく進んだし迷うことも無かった。
やがて上階そっくりの広場に出た。
「上と同じなら、正面が階段の場所だな?」
しかし…。これはなんだ?
鈍い金属光沢の小さなネズミが多数ウロウロしている。
「鉄鼠やな」
古代の魔具で、鉄製のネズミらしい。
試みにオコが一匹蹴飛ばしてみた。
「痛ったあい!」
靴にネズミが噛み付いている。
ステルがガブッと噛みくだいだが
「これ硬くて美味しくない」
それはそうだろう。どう見ても金属製だからな。本体の鳥ジャガーに化身していれば容易いが、彪猫娘の姿では顎の力も知れていよう。
「厄介だな。増殖型だ」
興味のあるものが見つかって、多少元気になった師匠が呟く。
「増殖型?」
「どんどん増えるんだよ。元を塞がないと、多分止まらない」
ネズミが出てくる穴があるはず。と見回すと、右手の壁に小さな穴があり、そこからゾロゾロ出てくる。
「あれを塞げば」
「どうやって?」
とステルが聞く。ネズミはどんどん増え続けており、例え巨大化ステルでも容易に全滅出来ない。しかも絶え間なく増え続けている。
「まあ、昔からネズミ退治は猫の仕事やが」
コンコンが進み出る
「ステルにはこの後飛ぶ仕事か力仕事があるやろし」
「野ネズミ退治なら、狐も捨てたもんやないで」
「シャ〜〜ッ!」
とコンコンが威嚇すると
「キャ〜ッ」
とネズミたちが我先に穴に殺到する。
子狐一匹、数千匹の鉄鼠の方が強そうだが、先祖からの本能なのだろう。一目散にネズミは逃る。
コンコンは威嚇しながら、走り回り全てのネズミを穴に追い戻した。その余勢でさらに穴に近づいた時、
「スポン!」
とコンコンは穴に吸い込まれてしまった。
「あかん助けて!」
俺たちはコンコンの足を引っ張ったが、何かの魔法であるらしく、一向に抜けない。
「穴の向こうはどうだ?」
「大勢のネズミが遠巻きに見とる。わて(の魂)が抜けたら、この(狐の)子ぉが死んでまう。結界張ってるさかい、はよ先に行き。一昼夜くらいしか結界は持たへんよ」
幽霊のコンコンは子狐に憑依しているから、幽体離脱は出来るが、離れた途端子狐は多数の鉄鼠に食い殺されるだろう。
しかし、先に行けと言われても…
「メグル、見て!」
オコが指さす先に、下階に向かう階段が開いていた。




