旅は道連れ(2)
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
1-36.旅は道連れ(2)
「それは、お金をお持ちなら結構ですが」
狡猾そうな小男の商団長が答える。
「巡礼の皆様は乗り物には乗らないのでは?」
明らかに巡礼に化けた何者かを警戒している。
「ジョウザから歩いて来たが、新米の巡礼ゆえ足の豆を潰してしまった。怪しい者ではない」
男はフードをはねあげる。
「あなたは!タンジン様」
商団長が仰け反る。水戸黄門の印籠程の権威ではないが、この商会は宮殿とも取引があったから、タンジンとは面識がある。
一方俺たちは、粋がって盛り場に遊びに行ったら、生活指導の教師と鉢合わせした中学生みたいにビビった。
「侍従長をお辞めになったとか?」
「俺は主上の侍従だからな」
宮殿での慇懃な口調は止めたようだ。
「町の噂では、亡きボン様とヨウコ様の供養のため、巡礼の旅に出られるとか」
「そんな殊勝なものではない。元々田舎兵士だからな。もう宮仕えが嫌になったのだ」
ボンが死ぬと、ボンを支えてきたトップである侍従長の立場は微妙になる。代替わりで赤子が成人する15年もの間、空白期間が出来る。普通に考えれば、前のボンの侍従長なりが、新しいボンが成人するまで引き継ぎをするのが妥当だが、結果的にその人の長期政権になるのを大東が嫌うのだ。
殉死する事は、不殺の戒があるから出来ないのだが、主上を失って
「余りの傷心のため、薬石効なく病死」
する侍従長が歴代かなりいた。
絶対怪しいこの謎の死が自分に降りかかる事を恐れて、官職を捨て出家する侍従長も同じくらいいた。
タンジンもその口だろうと俺は思う。僧職は(建前上)政治に口出し出来ないので、ギンランなどは安全だが、タンジンが出家し、ギンランの庇護下に入るとなると話が変わって来る。
だから巡礼に出たのだろう。
「主上が亡くなられた2日後には辞表を書いて巡礼に出たのだが、長い役人暮しで、中々昔通りには歩けぬ」
俺たちの3日前にジョウザを発ったのか。いやいやどうして滅茶苦茶歩くの速いぞ。
「タンジン様には大変お世話になりました。お代は頂戴いたしません。どうぞ私どもの先頭車にお乗りください。夜は私どもの天幕に」
そうだぞタンジン、お言葉に甘えちゃえ!
「乗車代免除は巡礼への喜捨としてお受けしよう。ただそれ以上は巡礼には贅沢。空いている車で良い」
なんて事言うんだ!空いている車って、3号車しかないじゃん。
「夜も巡礼用の天幕を持参してきた」
ビニールハウスみたいな形で、カプセルホテル状態で寝る軽量の天幕だ。
せめて。と言う事で、食事は商団と共にするようだ。3号車の食料が減ってるのがバレないで良かった。
つまりオコがいびきをかいたり、寝言を言ったりせずに、このおっさんと一緒の荷馬車で日中を過ごせばいいのだ。
「ジョウザには木の葉隠れを見破れる者はいない」
先先代の言葉を信じるしかなかった。
すでにあの女魔術師は商団と食事を共にしていた。あの元家庭教師から金を渡され、商団長は良い待遇を頼まれていたらしい。まあいくら暴走女とは言え、色目人の美女と毎回食事を共にするのは、悪い気はしないだろう。
「気になるなあ。今晩は商団の夕食の席にお邪魔しようか。何か情報が得られるかも知れない」
タンジンが3号車に乗り込んでくる前に、オコと打ち合わせした。
木の葉隠れをかけているとは言え、物音を立てない様にするのは苦労したが、乗り込んで来たタンジンは安心した様にすぐ寝てしまった。
即位通過儀礼全般の苦労、事件後の心労、そしてここまで歩き野宿までして、疲労困ぱいだったのだろう。
その顔には、微笑みが浮かんでいる。
いい夢でも見ているのか…。
夕食の知らせが来て、タンジンがむっくり起きた。俺たちはタンジンの後をついて行った。
先に来ていた女魔術師、商団長、部下2人と言う面々。
「本当に侍従長様だ!」
この魔術師は火渡りの行の折に手伝いに来ていた様で、その折に侍従長に
「よろしく頼む」
位の事は言われたらしく、顔を覚えていた。
「はて…。ああ塾生の風魔法士か。あの時は世話になった」
「メルと申します」
多少の酒も入り口調が軽くなった商団長が
「しかし主上はなぜ亡くなられたのでしょうか?」
とタンジンに問いかけた。
「我々には判らぬ。天の思し召しとしか」
まあ守秘義務もあるし、模範的な回答だ。
「でも、でもヨウコ様まで道連れにしなくてもいいではありませんか!」
ちょっと酒が入った魔術師が言う。
「そなた、メルと言ったな。ヨウコ、様の事を好きだったのか?」
好きなんて段ではありませんよ!と、メルは凄い勢いで泉での体験を語る。
いかにヨウコ様が素敵な方か。語る語る。
タンジンは明らかに機嫌がいい。
「確かに、そう言う方であったな。わしは主上もヨウコ様も、赤ん坊の時からお世話してきた」
「え!色々教えて下さい。なんて素晴らしい出会いなんだろう」
その後も思い出話に花が咲いたが、次の日も日の出と共に支度をして出発なので、商団長からお開きの言葉が入った。
最後にタンジンがポツリと、
「わしはあのお二人が亡くなられたとは、どうしても思えんのだ」
と呟く。
これは、我が子を無くした嘆きの様な意味合いだったのだろうが、メルには別の思いがあった。
「タンジン様とは、もっと色々お話しとうございます」
やっかいなおっさんが…
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