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旅立ち(3)

お詫び2


第2部に続ける展開を考えるうちに、ヒロインの呼称が

「ヨウコ」

のままでは今後色々支障がある事が判明しました。

「オコ」

にヒロインの今後の呼称を変更させていただきます。

ヨウコと言う響きが好きでこの小説を読んでくださった方も

おられたかと存じますが、いずれ次世代のボンとヨウコの事も

かけたらいいなと思っております。

なにとぞご理解お願い申し上げます。

転生したら転生してないの俺だけだった

〜レムリア大陸放浪記〜


1-34.旅立ち(3)


「ヨウコは侍女たちや孤児院の子たちに、あんなにも慕われていたのだな。俺にはヨウコだけが友達だった…」

俺はちょっとしょんぼりした。

「珍しいわね。俺様偉い!の猊下が」

「俺の14年間は何だったんだろ?」

かなり凹んだ感性は中2の俺を、ヨウコはじっと見つめた。


「私は大好きな主上様に仕えたから、みんなにも優しくできただけだよ。メグルはみんなの希望の星だった。宮殿、門前町の皆も、神童のボン様を自慢してた」

「遠い大東でも噂になって、ジョウザが注目された」

「大東の醍醐僧はジョウザに巡礼することこそ生涯の夢。くらいに思っていた遠い秘境が、メグルが次々に高名な魔術師や学者を招いたから学問の都の様になって、定期的に商人も訪れる様になった」

「メグルはこのジョウザを開国したんだよ」

「そしてこれからは悲劇のボンの遺徳を慕って、多くの巡礼もやってくる筈」

ヨウコは畳み掛ける様に語った。


「いやいや、ヨウコ様人気の方が人を集めるだろう」

なんだか小さい頃みたいに、俺を励ましてくれるヨウコがお姉さんに見えた。



「さてそろそろ時間だ」

商会の前には4台の幌付き荷馬車が並んでいた。商団としては小規模だが、ジョウザは消費都市。宗教と学問の町で何か産業がある訳ではないので、規模はせいぜいこんなものであろう。

各地の王侯貴族、富豪から捧げられた宝物の一部を商団の運んでくる食料品、香辛料、衣類などの対価として、交易が成り立っているのだ。


先頭が団長や団員と貴重な商品。後の2つは一般商品。最後の馬車には用心棒的な護衛が乗る。護衛は正式な職業ではなく、腕のたつ者が雇われるが、山賊と紙一重なところがあり、周辺の山賊のボスとあらかじめ話を付けておき部下を雇う事で、通行の安全を保障する場合が多かった。

必要悪という訳だ。遠方からの商品が法外な値段になってしまうのは、そういうコストがあるのだ。


「では、お世話になりました」

あの女魔術師(風魔法士)の声がする。

「達者でな。お前の力は暴走すると危険だ。制御をしっかり老師に学ぶのだぞ」

「心得ました。先生の名を汚す魔術師にはならない様、精進致します」

そんなにあの金髪は危ない奴だったのか。俺に嘉門を教えてくれた元家庭教師は、名残惜しい様な、ほっとした様な微妙な顔をしていた。


「よおっ、たまには変わった毛色も良いもんだ。ねえちゃん、今夜俺たちと酒を…」

典型的な台詞を言い終わる前に、典型的に粗暴な護衛は、軽く5m程吹き飛ばされていた。


「あれやばい道具だ」

「うん、あの女には近寄らない様にしよう」

女の手には双頭剣が握られ、それがあっという間に縮んで独鈷杵に戻ったのもやばすぎる。


「ははは…。すっかり手に馴染んだな」

と、引きつった顔で元家庭教師が言う。

「はい。元々剣術は好きでしたので。今もあの男達のどの首から落としていくか、脳内演習(シミュレーション)しておりました」

声をかけた男の近くの木の枝がバサッと落ちる。

「ひいっ!」と言う声が護衛たちから漏れた。

これで今回の旅は安全に目的地に着くだろう。


女は2台目の荷馬車に乗り込んだので、俺たちはそっと3台目の荷馬車に乗り込んだ。商談は成功したらしく、荷台は半分位しか荷がなく、野営用の天幕などの道具が中心だった。

隠れて荷馬車に乗るのは気苦労が多いが、歩いて行くよりは生存率が高い。


木の葉隠れは、隠密の旅にはこの上なく有効な術だが、俺が寝ていたり、気を失っていると術が解ける。そのため日中は俺が起きていて術をかけ、ヨウコが眠る。夜は俺が眠って、ヨウコが結界を張って見張りをする。何かあったらすぐ起こす。と言う手段をとる。

「なんかすれ違いで、寂しい」

「日中ずっと手繋いでて、寂しいもないだろ」


食料は馬車のどれかを失った時の用心に、各馬車に水甕と旅行食の干し肉、乾餅が積んであるので、旅程中は保つだろう。

旅が終わって旅装を解くとき、なんで3号車の食料が減っているか、不審がられるだろうが、多分護衛たちのせいになるだろう。

特に良心は痛まない。商会は山賊のボスがバックにいる護衛を咎めないだろうし、代金として降りるとき水瓶に銀貨を一枚沈めていくつもりだ。


目的地の一番近いオアシスの町ダラまで2週間。ここで、商会は荷を降ろし、新しい商品を買い込んで、2か月後にはジョウザに戻る。そこまで行くと、流石に俺やヨウコの顔を見た事がある者はおるまい。買い物位は出来るだろう。馬や荷馬車も調達出来るかもしれない。ただ噂はすぐ伝わるので、長居は危険。情報を集めて次の移動先を決めなければ。


夜は商会の人も護衛の連中もそれぞれ天幕で寝るので、荷馬車で寝る俺たちは比較的安心だ。魔術師の女も小さな天幕を持っている。

俺が寝る前に、ヨウコが一旦荷馬車を降りた。なんで付いて行って木の葉隠れで守ってやらないんだって?

一人で行きたい所があるからだよ。これ以上言わせるな!


戻って来たヨウコがクスクス笑っていた。

「あの女魔術師な」

「あの天災級危険人物がどうした?」

「存外いい奴かも知れん。天幕の横を通ったら、"ああ…ヨウコ様…かっこいい…大好き"と寝言が聞こえた」

ヨウコちょろすぎる。


でも、ヨウコ様の異常人気は、これからちょっと困った事になるかも知れない。

宮殿にも新しいボンとヨウコが迎えられる頃だし、そろそろヨウコ(妖狐)の名をジョウザにお返しすべきか。


「ヨウコあのな」

「なに?」

「真面目な話ししていいか?」

「結婚?」

「そう言うのはもっと落ち着いてからな。お前さ。人気者過ぎる」

「いやいやボン様こそ」

「いや。いつの時代も、女神ってのは大人気なんだよ。あの魔術師も、侍女達も、ジョウザの町の人たちも、みんなヨウコの名前を知ってる。俺の本名はタンジン位しか知らない」


「妬いてんの?」

「逆だよ心配なんだ。これから聖狐なんて冠がついて、ヨウコの名前は、どんどん広まって行く」

「困るわね」

「そんなところに、噂どおりの容姿の娘がヨウコって名乗ったら?」

「まずいか…。名前変えた方がいい?」


「体も生まれた体じゃなくなって、名前までなくして、いいか?」

「いいよ。私は私。それにヨウコなんて元々職名で名前じゃないよ。歴代のボン様の専属侍従はみんなヨウコだもん」

「じゃあ俺が名前をあげるね」

俺は跪いてヨウコの腰を抱きしめる。


「オコちゃん」

それはまだボンだったり専属侍従だったりする前の、幼い思い出。俺はヨウコが言えずにオコちゃんと言っていた。

「まだ私が私だった頃の名前…。メグちゃんが返してくれた」

ヨウコ改めオコは、俺の頭を優しく抱きしめる。

「その、メグちゃんは2人の時だけな」

2人がジョウザの影響から脱するまで、もう少し話が続きます。


読んでいただきありがとうございます。

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