8-38(終).再生
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
8-38(終).再生
師匠が三元さんに教わった通りに慎重に呪文を唱える。呪符が徐々に光り始め、
「あああっ!」
とパナが叫ぶ。
「深すぎた様だ」
光りが少し淡くなる。
「くくっ!」
聞きなれない声がする。
「レティアさんの声か。浅すぎて依代を傷付けたのだろう」
師匠が汗を拭う。気をとり直してもう一度呪文を唱え様にするが、
声が…出ない。
喉を掻きむしって苦しみ、跪く。
「あなた、どうしたの?」
社長がかけよって水を飲ませる。ポーションは逆に悪い作用も考えられる。師匠の生まれ故郷、バクロンの地下水だ。
「すまない。ウラナ君代わってくれないか?
そう言われても…。
これは極めて大雑把な比喩なのだが、護符は果物ナイフ。魂がりんごの実だとすると、依代がその皮の様に被って今のパナが出来ている。手順的には、キャーリーが依代内部の空洞に後からパナの魂を押し込んだイメージになる。
だから今回の初動作業はこの皮を慎重に剥がすのだが、りんごの皮を剥くように簡単ではない。場所によって全く皮の厚みが違うのだ。
間違えると、さっきの様に痛みを伴い、やりすぎると命に関わる。
失敗したら終わりと言うプレッシャーが、魔法の第一人者のノヅリ師をここまでビビらせている。俺だって怖い。
「オコ」
俺は手を組んで祈りを捧げていたオコに声をかける。
「何?」
「俺と感応してくれ」
周りはこの時、妻との感応によって支えられたいのだろう。と思ったと言う。しかし本当は違う。
「オコ。うさぎと鹿では皮の剝ぎ方が違うよな」
俺は念話で話しかける。
「勿論よ。同じうさぎでも前足と後ろ足では厚みが違うしね」
「今ここにパナの魂とレティアの依代の外郭がある。ちょっと探査針を1億本程刺してみた」
「うん。見えるわ」
「これ見ながら剥がす位置を指示できるか?」
「やって見ようかな」
俺やオコに見えるのは魂とかじゃなく、かつてクルタンの科学者達がタンランの命で検査のために五娘に差しこもうとした探査針の後端で、長さが同じなので、非常に凸凹している。
オコは狩りの達人であり、その後獲物を肉にする技術にも習熟している。二人なら…。
「すっすっと護符が入って行く」
オコが刃先に添えた指が示す微妙な強弱で、抵抗なく外殻と魂が離れて行く。
「ふうぅ。何とかなったな」
最後の部位が離れた途端に、護符は砕け散った。本当に使い捨て(ワンタイム)だったな。
パナの形をした魂はぼんやり立っていたが、やがて気が付いた様に、
「いやぁ〜っ!」
と逃げ去ろうとした。
しかしその刹那
「まあ、待ちゃあて」
しっかりパナの魂を受け止めたのはパーサだった。いやパーサ本体ではない。
「パーサ、もういいのか?」
「メグルさ、待たせてまったなぁ。これが今度のアシの能力だわ」
幽体離脱だという事だ。なぜシバヤンはこの能力を?
「メグルさ、アシが捕まえとるで次に進みゃあ」
パトゥニーがパー子の小さなフィギュアを取り出す。
「パー子!ここ入りゃあ」
上手く定着出来れば、後はキャーリーの仕事だ。魂の抜けたパナの体は既にパトゥニーが保全している。
しかしパー子の魂がフィギュアに入ろうとすると、ブルブル震えて入れない。
「嫌がってます」
レティアが囁く。
俺達が剥がした外殻は徐々に形を変え、ハーピーのフィギュアになっていた。確かにパナに似ている。
「フィギュアだって元いた所から離されたら嫌なんです」
「どうする?代わりはないぞ」
「アルディン、説得できないか?」
言ってみて無理だと判った。説得出来るのはパナの魂で、俺が作ったパー子のフィギュアではない。
「いかんて。あの子が泣きながら呼んどるで」
誰?
「ボンダイビーチジオラマのアシだがね」
対のパーサのフィギュアか。自分の作ったフィギュアにそこまで魂が篭るとは知らなかった。勉強になった。
とか言ってる場合じゃない。
「恥ずかしいのですが、これではどうでしょう?」
アルディンが懐から古びた紙を取り出す。
「これは…」
一人の少女が微笑む、稚拙な絵だった。
だがなかなかパナに似ている。
「パナにも見せた事ないのですが」
アルディンは恥ずかしそうに言った。
「ペンジクを去った時、パナの事が忘れられず、自分で書いたのです」
12歳のパナの肖像画だった。
毎晩話しかけていたと言う。思春期の少年だから、他にも色々したかも知れないが、それは武士の情け。
「パナ!帰ってこい」
アルディンが呼びかけると、パナの魂はその絵に入り、キャーリーが手際よく元のパナの体に融合させる。
その刹那、パナの体が縮んだ。
そう12歳のパナに。
「アルディン?随分大人になったわね」
看病疲れでやつれているが、確かにアルディンは今のパナとかなり歳の差が出来てしまった。
「すぐ追いつくさ」
「うん、頑張って大きくなる」
ちょっとアルディンってずるい。と思ったが、まあめでたしだ。
俺は小フィギュアのパー子をジオラマに戻す。
一瞬だがパー子とパーサが、俺にお辞儀した。
「俺は自分の趣味で箱庭を好きにいじっていたが、罪深い事であった」
シバヤンが呟く。
シバヤンの依頼で俺たちは再度箱庭世界に赴き、女王と姉王女とレティア王女は涙の再会を果たした。
「呪いが綺麗さっぱり消えてまっただわ」
パーサが宣言した。
今回の定期修理でパーサがシバヤンから授かったのは、幽体離脱を始めあらゆる霊的な事を知る力。シバヤン曰く、
「霊感少女」
と言う能力らしい。中二っぽい(汗)。
こうして、病もすっかり癒えたパナは、パー子と別れを交わし、アルディンとまた旅立っていった。
「縁が深まったわね。もっと気にかけてやらねば」
パトゥニーは何か考えているらしい。
ロクは一世一代の決心でサンディとシバヤンに留学の件を持ち出した。反対されるかと思いきや、例のケータリングの事を約束させられ、あっさり了承された。パーサが抱きついて喜んだ。なんだ、仲良いの?
シバヤン達は毎日のカレー攻めから解放されればOKだったらしい。サンディもさすがに毎日カレーを作るのは大変な様だったのだ。
その後シバヤンは
「娘の留学先への挨拶」
と言う名目で記録の神殿を訪れ、神官と意気投合した。
「好青年じゃないか。ロク、お嫁に行ってもいいぞ」
ロクはそんな気はない様だが、こればっかりはどうなるかは、レムリア様しかご存知ない。
(第8部終わり)
絆を結ぶためにマルモ屋の犬を訪問するはずが、途中で大変な廻り道になってしまいました。
第9部ではその後の話(箱庭世界の顛末含む)と、白銀丸が黄金丸・赤銅丸と出会う話もして行きたいと思います。
では、また明日お会いしましょう。




