55-28.運命の神
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
55-28.運命の神
「朕が、運命神に選ばれた?なぜ?」
新帝は呆然としている。
「理由は判りません。おそらく運命神さえも知らないでしょう」
俺は答える。
「運命神も誰かの命で動いているのか?」
「少し説明させていただきます」
師匠が穏やかに始める。
「頼む。朕の頭脳では理解が追いつかない」
こういう事をさらりと吐く11歳は末恐ろしい。
権力の頂点についた者はとかく独断に走りやすいからだ。
「この世は幅・高さ・奥行きの立体から構成されております」
「三次元というのだったな?」
「よく学習されておられますね。二次元は奥行きのない平面の世界を指しますが、平面の世界の住人がもしいれば、彼らは三次元世界の事を理解できません。例えばレムリア世界でも、かつては戦争は二次元的戦略で行われ、伏兵を物陰に隠して奇襲を掛ければ、大軍でも崩すことができました」
「盤面遊技の世界だな?」
「御意。ところが飛行魔法や飛竜兵団の発達により、物影に隠れた伏兵は簡単に発見できますし、空から槍を投げて敵を倒す事も可能です」
幸いな事にレムリアでは火薬の用途が限定されているので、空から爆弾を落とす発想はない。
「うむ」
「我々は三次元人ですので『上から見られる。物が落ちてくる』事を理解できますが、二次元人には理解できないのです」
「盤面遊技の駒たちが、なぜ敵兵が陣に入ると自分が突然つまみ出されて、盤外に打ち捨てられるか分からぬ様に、か」
「御意。そしてもし仮に、我々の三次元に、もう一つの次元が加わって四次元となり、そこにも住人が居て我々を見つめているとしたら?」
「もう一つの次元とはなんだ?」
「古代アトランティスの哲学者ペレキュデスは、それは時間の流れだと考え、その世界に住む者達をクロノスと名付けました」
「一人ではないのか?」
「わかりません。個と複との違いがあるのかさえも。激流の様に書き換えられていく我々の立体世界を、全て把握できる存在でしょうね」
「その神々に祈れば運命が変わるのか?」
「無理でしょう。盤面遊技の駒たちが『お願いだ、俺を殺さないでくれ。俺が倒されたら、我が王は命が危ないのだ』と競技者に呼びかけて、局面が変わったりはしないでしょう?」
「だがそれでは、なんのためにその神々は我らの世界に干渉するのだ?」
「それもわかりません。人代はラグナロクの戦いも、人類やレムリアの神々を超越した存在のゲームの様なものだ。と推論しています」
「かつてのラグナロクは、そのゲームのせいで一度文明が滅びた。というのか?」
「おそらくは」
「そのゲームプレイヤーが、時間神なのか?」
「違います。その超越存在でさえも、時間の流れには逆らえない。だから時間神はゲームをしない。彼らが何か三次元世界を変えようとしたら、簡単にできますからね」
「赤子だった時に朕を殺す事もできたし、兄上たちの誰かを生かしておく事もできた」
「御意。ですから兄王子殿下達が生き残れなかったのも、陛下が生き残ったのも、全て運命神の配剤だと言えます。その理由を我々三次元人が、あれこれ類推することはできないのですよ」
「だがそれでは朕が選ばれたのは、ただの部品だった。という事にならないか?」
「陛下、蓬莱将棋という盤面遊技をご存知ですか?」
と俺は問う。
「大東の将棋とは違うのか?」
「ルールはほぼ同じですが、蓬莱では取った駒を自軍の駒として打つことができます」
「なんと!蓬莱人には忠誠心というものはないのか?」
「現実の彼らは主君のために死ぬことを恐れない忠義の民ですが、盤面遊戯では一旦死して転生した以上、前世に囚われず適材適所として働く。という思想の様です」
「それは道理だな。朕という駒もなんの因果かここに置かれてしまった以上、最善を尽くさねばならん。という事か」
「御意。俺も運命神によって異世界から召喚され、ここに配剤されました」
「そうであったな。卿は運命神を祀っているのか?」
「いえ、運命神はどんなに三次元の民が祈ろうと、応えてはくれません。その点ではレムリア神に似ていますが、もっと冷淡で彼らの思った様に駒を置きます」
「精巧な歯車を組み合わせて機械時計を作る職人のようなものだな」
「御意。俺たちビッグセブンは精巧な動きをする歯車として集められたのです。良く働くしかありません」
「朕にも他にそういう歯車があればいいのだが」
「既に一枚加わっておりますぞ。人代殿が運んでくださいました」
太公望が述べる。
「五香だな?」
「御意。彼の者は側近として生涯陛下に仕えます。有能な秘書、最高の侍女、宮宰としての実務能力。そして毒味も出来る無敵のSP。今後は陛下の代理、宰相としても働きが期待できます」
「妃としては、どうであろう?」
これには全員が手を横にふり
「ないない」
と意思表示したが、パーサだけは同調しなかった。




