第2章 その12 地の精霊ジオ
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『ジオか……地の属性を持つ妖精』
女神さまは、ジオを、その内奥にあるものを見透かすような水精石色の瞳で見つめた。
『世界の根源に還ることを拒み苦しみを抱えたままで現世を彷徨う幼き魂よ』
ジオに語りかけているときの女神さまは、このうえなく荘厳で近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
『地の妖精ジオ。そなたも確かにアイリスに縁の存在。なれどそなた、最も縁深き者は、他にいるであろう』
最も縁深き者が他に?
つまりジオには、大好きな人がいるってことよね。そしてそれは、あたしじゃなくて誰か他の人で。
ならば、なぜ?
なんで、あたしなの?
『そなたは、なにゆえアイリスの守護者とならんと欲するのか?』
『やだなあ女神さま』
ジオはくすくす笑う。
『何もかもすべてお見通しのくせに。あ、でも形式上、こんな問答も必要なの?』
蠱惑的な表情を浮かべて。
まだ、あどけない幼女……いや、幼少年なのよ!
それなのに反則なくらい、とってもセクシーで魅惑的。
……なんだけど、この場にいる女神さまも、あたしも、守護精霊のシルルとイルミナ、ディーネ、きっと誰も喜ばない。
残念だわ。セクシーさも発揮できるには時と場合があるのね。
思い出した。
ずっと昔、本で読んだ。
人を惑わす、いたずら者の小妖精、パック。
ジオは、あの子に似てる。
『承知しているならば応えよ。そなたは生命尽きる末期に何を願って、魂のまま彷徨っていたのか』
『あーあ、女神さまってば。もうすこし優しくしてくれてもいいと思うなあ』
パック、じゃないジオは、小さくため息をつく。
『確かに自分のためにアイリスみたいな強い子の縁者になりたいよ。でもそれは、ぼくのワガママだから。その分、彼女の力になってお返しをするつもりだよ。ギブアンドテイクにならないかな?』
ジオはきっぱり言い切った。
『なんですってぇ』
『なんてワガママなのですぅ!』
『ありえないわ。自分のためにアイリスの守護精霊になることを望むっていうの。あんたが割り込んできたから、火の妖精が出てこれなくなっちゃったわ』
あたしの守護精霊たちは憤懣やるかたないようす。
でもね。ジオってば。
『だって。千載一遇のチャンスなんだ。今を逃せば現世にとどまれなくなって、ぼくは、消えてしまうんだ。 ……を、助けることもできなくて』
末尾は消え入りそうにつぶやいた。
その顔が、せつなくて、かわいそうで。
「女神さま!」
思わず、あたしは声をあげる。
「お願いです。ジオをあたしの守護精霊にしてください。あたしが責任持つ!」
でもね。言ったとたんに、少し後悔しちゃった。
あたしの守護精霊たちが大騒ぎを始めちゃったの。
『アイリスアイリス!』
『だめよそんなの』
『こんな自分勝手な妖精と』
「ごっごめん、みんな! でも、なんか……かわいそうじゃない?」
小さい男の子なのよ。
誰かを助けたがってるのよ。
でも、あたしの力がないと消えてしまいそうなんだって。
『甘いわアイリス!』
『だめよだめだめ』
『男なんか信じちゃだめなのっ』
なんか雲行きが怪しいわ。
『あれ~っ。お姉さんたち男性不信だったの? でも、みんな立派に精霊になったんだし、もういいじゃない?』
そしてジオときたら、言わなくてもいい憎まれ口を叩いてしまうの。
『あんただけには言われたくないわっジオ』
『そうよそうよ。アイリスは女の子だけで守るのよっ』
『地の妖精の中でも、なんでよりによって、あんたが来ちゃったのかしら!』
いつ果てるとも知れない大げんか。
あんまりいつまでも続くから、あたしはだんだん、イヤになってきちゃった。
あたしは、まだ三歳児なの。
シルルたちはあたしの精神年齢のせいで、子供だってこと忘れてる気がするけど。
それに、二十歳すぎくらいまで生きていた前世の記憶を持っていることも、みんなにはまだ打ち明けてないのだから。
あたしに、大人の余裕なんて期待しないで欲しいのだ。
「やめて! けんかしないで。けんかばっかりするなら、あたし、誰とも契約しない!」
そう叫んだら、急に、みんなは静かになった。
『『『ごっ……ごめんなさいアイリス。悪かったわ。きらいにならないで』』』
全員が、声を合わせた。
『ごめん。楽しくて、からかいすぎたよ』
ジオまでも、謝った。
静まりかえった、真っ白な空間。
そう、気がついたらここは、それまでいた中庭じゃなくて、前に来たことのある気がする、何もない真っ白な空間になっていたの。
『アイリスの言う通り』
女神さまの声が、鐘の音のように高らかに響いた。
『そなたたちは今や皆が守護精霊である。力を合わせ、いずれ訪れる大いなる災いより、主を護れ。魂たちよ』
「あのう女神さま、いま、気になることをおっしゃいましたね?」
『気にしないでアイリス』
女神さまは、あたしの脇の下に手を入れて持ち上げ、ぎゅっと抱きしめてくれた。
繰り返すけど、あたしの身体は三歳児です。
こういうとき便利です。
『アイリス。あなたの守護者となった精霊たちとの縁を大切に。健やかに過ごしなさい。また会いましょう』
女神さまは、あたしを地面に降ろして、耳元で、ささやいた。
『何かあったら、わたくしの名前を呼んで』
いたずらっぽく。
『エステリオには言うのを忘れていたわね。わたくしの本当の名前はね、エイリアスというのよ』
「え」
エイリアス……?
それ……って?




