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第1章 その7 家族の肖像


 ええ、うちはお金持ちです。

 どうも、そのようね。


 新生児だったあたしの目は、やがて、だんだん周囲のことも見えるようになってきていた。

 あたしのまわりには、お世話をしてくれる人がいつも誰かしらついている。

 お部屋も大きいし家具も頑丈そうで綺麗で、りっぱだ。


 おとうさまは娘に甘い。

 娘のあたしが言うのもなんだけれども。

 それだけじゃない。

 おかあさまも、おじさまも、小間使いさんや執事さんたちも、みんな、あたしには甘い、と思う。

 あたしが、おとうさまの初めての子どもだからかな。


 あたし、アイリスは現在、三歳。


 新生児からの三年間は、考えることはともかく、身体が小さくて動きも思うようにまかせなくて、もどかしかった。


 それでも少しずつ、両親や使用人たちの会話から、この世界や国、住んでいるところの情報を集めていた、あたしです。

 もちろん言葉も覚えていってます。

 そういえば、元の世界の言葉とちょっと似ているみたい。

 ふしぎ。

 妖精達があたしのまわりを飛んでいることも、最初に見つけたのは侍女だった。騒ぎになってしまった。


 この世界のことを知ろうと努力してきた、あたしは。自分でも気づかないうちに、いろいろな事が、どうでも良くなってきていた。

 前の世界のこと、あまり記憶に残っていないことに、いつしかあたしは気づいた。

 それすらも、やがて、どうでもいいこと、に、なっていくんだけれど。



 日常って、だいじだわ~。

 日々のささやかな幸せ。

 実感はないし、ほんとはよくわからないんだけど、優しい甘々な両親や家族に囲まれてこんな幸せを感じているのって、あたしの人生で、初めてじゃないかな?


 え? 初めて? なんで、そう思ったのかな?

 ……まあ、いいや。


『そうよ。アイリス。あなたの人生は始まったばかり』

 あたしの右肩あたりが定位置になっている、風の妖精シルルが甘くささやく。

『なんにも気にしないでいいのよぅ』

 あたしの頭の上がお気に入りらしい妖精は、光のイルミナ。彼女の声はクリアで、心臓のあたりでキラキラと響いてくる。


 最初に出会った時には、ぼうっとした光にしか感じられなかったけど、だんだん目が見えるようになってくると、金髪と赤毛のくるくるカールした、小さな可愛い女の子の姿だってことがわかった。

 いつも、あたしの傍らにいて、2人でおしゃべりをしたり笑ったり、光の粉をまき散らしながら飛び回ったりして、気持ちを明るくしてくれる。


『そろそろ、這ってみせてあげるといいわよ』

『何か言葉をしゃべってみるといいわ。ご両親はきっと大喜びよ』


 そうか。両親へのアピールなんて考えてなかったわ。

 こんな、あたしみたいないっぷう変わった子、甘やかして可愛がってとっても優しくしてくれる。おとうさまもおかあさまも、大好き!

 よし、シルルたちの助言に従ってみようかな。


 初めてはいはいしたり立ったり、「おとしゃま」「おかしゃま」と言葉を発したときの両親の喜びようときたら相当なものだった。


「アイリス! おまえは天才だね」

「うれしいわ~! もっと言って。もっと」


 娘に甘甘のおとうさまの名前はマウリシオ・マルティン・ヒューゴ・ラゼル。

 とっても綺麗で可憐なおかあさまの名前はアイリアーナ。


 もともとラゼル家は人の歴史の始まりからある(ってどういうことかよくわからないけど)「はじまりの千家族」の一つ。豪商として、名だたる家だったそうなのだけれど。

 代々受け継がれてきた事業を更に発展させたのが、おとうさまの功績。

 今ではエルレーン公国首都シ・イル・リリヤを中心に、国を超え、エナンデリア大陸全土に支店を展開しているというのだ。


 そして、エステリオおじさん。

 あたしのお父さまの、弟である。

 この人も、あたしに、すっごく弱いのだ。


 あたしも家族のみんなが大好き。



「魔眼の王」と同じ世界ですが、あちらの作品ではあまり出てこない国を舞台にしていきます。

アイリスの叔父さんは、数十年後に、「魔眼の王」に登場するジークリートの師匠になります。

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