第3話 魔力枯渇の嘘と、隠された資源の発見
カスピアンの屋敷の地下深く、かつて魔力炉として使われていた天井の高い部屋で、アウレリアは真実を目の当たりにして驚愕した。
王都において、辺境の地は「魔力が枯渇した呪われた土地」として宣伝され、資源を吸い上げられる対象として扱われていた。しかし、その認識が何者かによる意図的な歪曲であることを、アウレリアは自身の魔力で確信した。
彼女が地下の壁に触れると、壁面に埋め込まれた古代の回路が反応し、青白い光を放ち始めたのだ。それは、魔力を吸い出すのではなく、むしろ大地から溢れ出る過剰な魔力を中継し、無害化するための巨大な「調整弁」だった。
カスピアンは傍らで、その光景を呆然と見つめていた。彼が長年、どれほど力を行使しようとしても制御できず、暴走に悩まされていた魔力の正体が、実はこの調整弁が機能を停止させられていたことによる二次被害だったと知ったためだ。
「……ずっと、私の力が未熟なせいだと聞かされていた。父も、祖父も、その前の代も、この場所をただの廃墟だとしか見ていなかった」
カスピアンの悔恨のこもった声が、地下室の静寂に響く。彼は軍人として、この地を魔物から守るために身を粉にしてきた。
しかし、その守るべき対象であるはずの土地そのものが、王都によって「資源を食い尽くされた後のゴミ捨て場」として封印されていたのだ。
アウレリアは床に指をあて、地脈の中で複雑に絡み合った魔力の糸を一つずつ解いていく。精霊の声が、彼女の意識の中に再び響く。それは、この土地の記憶だった。
『――かつて、ここは帝国の心臓部であった。今はただ、忘れ去られた過去の残骸に過ぎない』
アウレリアは唇を噛み締めた。王族たちは、この地の豊穣を知っていながら、あえて呪いと称して自分たちの支配下に置き続けたのだ。
彼らが聖女に求めていたのは、この国の結界を維持させることだけではなく、この辺境の地に眠る「古の技術」を隠蔽し続けるための門番としての役割だった。
「カスピアン様、聞いてください。この地は呪われているのではありません。むしろ、この国で最も豊かな資源が眠る『宝庫』なのです。王都は、貴方様がこの力の真実に気付くことを恐れ、私をここに送り込んで監視させようとしていたのかもしれません」
アウレリアは冷徹な視線を入口へと向けた。彼女の直感は、王都からの使者がすぐ近くまで迫っていることを告げていた。今回の「聖女交代」という芝居の裏で、妹のカーリンとシリル王子は、この地の魔力資源を完全に自分たちのものにするための「回収作業」を計画しているはずだ。
アウレリアがかつて利用されていたように、今度はこの土地が、彼女の妹と王族たちによって搾取され、枯らされようとしている。
「許しません。もう二度と、私の力を、そして貴方の守ってきたこの土地を、彼らの欲望のために汚させはしない」
カスピアンはアウレリアの言葉に、かつてないほどの熱を帯びた瞳で応えた。彼の魔力が、もはや暴走することなく、アウレリアの精緻な魔力と溶け合い、地下室全体を優しく包み込む。それは、二人の絆が真の意味で結ばれた証だった。
「アウレリア、君が望むなら、私は剣を振るおう。たとえ相手が王家であっても、この領地の誇りを汚す者は一人として通さない」
カスピアンの屋敷に通じる地脈が完全な調和を取り戻し、眠っていた古代の力が目覚め始めた。灰色の空の下で、かすかな地響きと共に大地が脈動した。
王都の使者たちがこの門を叩くとき、彼らが目にするのは、荒廃した辺境ではなく、静かに反撃の牙を研ぐ鋼鉄の要塞であることを、アウレリアは確信していた。
二人の視線が交差する。そこには、かつての聖女の哀れな姿はなかった。あるのは、理不尽な運命を書き換えるために立ち上がった、二人の共犯者の冷徹な決意だけであった。




