第九十七話「マックとマック」
こんばんは、作者です。
オズが意味不明な夜を過ごしている間。
仲間達は働いていました(笑)
マック登場です。
では、本編どうぞ。
よう。俺だ。
相変わらず毎日保安官の真似事をしているぜ!
今日はちと厄介な任務だ。
実はな、昼にビルと会議をして、決行が決まった任務さ。
先日港湾で見つかった麻薬の原液が、どこに運ばれる予定だったか分かったんだ。
御者役を務めていた男が自供したらしい。
それは、やはりというか、こないだカジノで財布を摺った男の勤め先だった。
ザナール製薬だ。
だが、ビルは険しい表情をしていてよ。
ザナール製薬は、ケン・ザナールという男が創業者で、現在は会長を務めている会社だそうだ。
一般的な薬を幅広く扱っている、アメリア有数の大企業だそうだ。
ザナールが一代で成長させたらしい。
ただ、捜査するにあたって、この男が問題だそうで、ビル曰わく、次期大統領選に出馬予定の大物だそうだ。
現在はアメリア連邦の経済担当大臣を務めているそうで、迂闊に手は出せないらしい。
つまりは変に藪をつつくと、大蛇どころか、こちらの身が危ないらしい。
結局、捜査を始めるにあたっても、確固たる証拠がいるとの事だった。
んで、俺達が今いるのがそのザナール製薬の本社ファクトリーなのさ。
アメリアの端に位置していた。
時刻は午前二時。
付近はシーンと静まり返っている。
繁華街から離れているので、人通りはほとんど無かった。
蒸し暑いが、月が綺麗で、夜風が心地よい夜だった。
虫の声がする。
月明かりに照らされた椰子の木が風に揺れていた。
何をするかって?
忍び込むのさ(苦笑)
証拠を集めに来たんだよ。
メンバーは俺とアークとトッドにアンジーだ。
ビルやスタンは、もし見つかった時に面倒な事になるから今回は正規メンバーだけだ。
俺達は建物の陰から様子をうかがっていた。
保安局ほど高くは無いが、高層ビルがある。
その裾野に合わせるようにして、ドーム状の建造物があった。
ビルが本社で、ドームが本工場らしい。
建物は塀で囲まれていて、門には守衛が立っていた。
さて、どうするかだな。
「不法侵入とか、ワクワクするぜー」
トッドが興奮していた。
「どうすっかね」
俺が誰にとも無く呟く。
「決まっているだろう?」
「え?何か策でも?」
口を開いたアンジーを見る。
「正々堂々、正面突破だ!」
アンジーは決然と言い放った。
どうだと言わんばかりの表情で!
「バカか!!そんなスパイいるかよ!考え無しか!この脳筋女!」
「アホか!?忍び込むって言ってるだろうが!大事になったら、ビルの作戦がパーだろうが!少しは頭を使え!」
トッドと俺のツッコミがアンジーに突き刺さった。
アンジーはしゃがみ込んで、地面をいじくっている。
「そんなに言わなくても、、、あ、アリさんだ。どこへ行くのだ?私も連れて行っておくれ。今日から君達の仲間になるとしよう」
完全にいじけたなこりゃ。
「と、とにかく、何か考えないと」
アークがフォローした。
「壁乗り越える?」
トッドが発言した。
見たところ壁に魔法は施されていない。
ここからなら侵入出来るかな?
「あのサーチライトはどうするのだ?」
アンジーが立ち直って、ここぞとばかりに、まともな意見を出した。
確かに、壁の四隅にはサーチライトが備え付けられていて、見張り所が見える。
人がいるかどうかは確認出来ない。
けどまあライトを目くらませるくらいなら、何とか出来る。
「俺にまかせろ!」
俺は水の精霊術を発動した。
「な!?」
みんなが驚いていた。
今の俺はよくわからない透明の何かに見えるはずだ。
俺は、身体を水の膜で覆っていたのさ。
もちろん術者の俺は濡れないよ。
原理は水による光の屈折を利用した技だ。
高等テクニックだ。
集中力が必要だから、戦闘中は無理だし、昼間の太陽の下など、光の乱反射の多い時は使えない。
が、纏って普通に歩いたり走ったりするくらいは出来るから、軍隊時代に夜戦で、隠密行動をする時などに、重宝したのさ。
俺は魔法を解除した。
「わっ!どこに行ってたんだ?」
トッドが驚いている。
「どこにも。ずっとここにいたよ。水の魔法さ」
「す、すごいな」
アンジーは感心してくれた。
「透明な水は澄んで中の魚まで見渡せる。逆に荒れた水面下は見えない。風の凪いだ水面には、景色が写るのと同じだね」
剣を握りながら、アークが言う。
さすがだ!
「という訳だ。今から全員にこれをかける。それで壁の向こうまで行くぞ!」
「おー!」
仲間達が賛同した。
血が騒ぐ、よく部下達にこの魔法をかけて、敵のアジトに奇襲をかけたな。
現場には戻れないと思っていたが、こんな所で同じ事をする羽目になるとはな。
しかも、今回も、部下では無いが、部下達と同じように、信頼して背中を預けられる仲間がいる。
やれやれ、ジジイめ、旅に出された訳が、少し分かったぜ。
そして、俺は全員に魔法をかけた。
全員が消える。
「う、うわ!」
「ちょ!アーク、ぶつかるなよ!」
「きゃ!だ、誰だ!私のお尻を触ったのは!」
三者三様の驚きようだ。
ちなみにどさくさに紛れてアンジーのお尻を触ったのは俺だ!!
「さあさあ、静かにしろ!互いの魔力を感じて、ぶつからないように距離を取れ!行くぞ!」
向かいのビルの陰から出た。
月光の中をゆっくり進む。
途中で一台の馬車が通って行った。
危うくハネられそうになる。
焦ったが、こちらが見えていない証拠だな。
壁際まで来ると、せーの、で壁を飛び越えた。
それくらいの脚力はあるぜー。
一応勇者御一行だからな。
芝生に着地した。
きちんと整えられた遊歩道や花壇が見えた。
地面には薄い照明灯が埋め込まれている。
金かかってるな。
やはり大企業は儲かってるんだな。
アーク達を小突き、そのままソロソロとドームまで前進した。
と、ドームの角を守衛が回って来るのが見えた。
魔道具であろう手持ちのライトを持って、各所を照らしながら歩いて来る。
全員息を潜めた。
ライトの光が俺達の方を向いた。
しかし、それは俺達を何の躊躇も無く通過していく。
見えて無い!
やがて、守衛は欠伸をかみ殺しながら、退屈そうに歩いて行った。
ドームまで到着した。
本社ビルを見上げる。
まだ働いている人もいるようで、数ヶ所だけ、部屋の明かりがついていた。
一方ドームは人気は無かった。
一階は角張った建物部分が存在しており、ガラス貼りのエントランスからは中が見えた。
建物内は、壁の下部に設けられた室内灯があり、薄ぼんやりとした緑色のライトが点々と内部を照らしていた。
飾り気も何にも無いな。
ザナール製薬はアメリア連邦各地に工場を抱えている。
本社ファクトリーは生産拠点では無い。
ここは、新薬の開発や試作をする場所だそうだ。
ファクトリーの名を冠しているのは、試作用の生産ラインを擁しているからだ。
何故連邦内に数ある生産拠点から、ここへ侵入する事を選択したのか?
それは、原液がここへ運ばれる予定になっていたからだ。
名目は新薬開発の為の原料をベネーリアから取り寄せたという事にする予定だったと御者が吐いた。
しかし、それ以上は何も知らなかったようだ。
ちなみに御者は射殺されて死亡した事になっている。
敵側に余計な警戒をさせないためだ。
記者発表では、港湾に不法侵入し、コンテナを運び出そうとした賊が、警備隊と撃ち合いになり、賊は全員死亡とされた。
コンテナの中身は、調査の結果、用途不明の染料として、保安局に廃棄処分にされた事になっている。
ちなみに、廃棄処分も嘘だ。
現在原液は保安局の証拠品保管庫に安置されていて、この事を知っているのは、一部の保安官と上層部、俺達しかいない。
という訳で、俺達は証拠を集める為にも、是が非でもこのドームに入らなくてはいけないのさ。
さて、敷地内には入れたな。
次はこのファクトリーの中だ。
入口は正面に一ヶ所のようだ。
ガラスを見た。
恐らくはマジックグラス、防御力に優れたガラスだ。
壊せなくは無いが、そんな事をしたら大騒ぎになる。
窓も多分マジックグラスだろう。
窓から入るのも無理だ。
それは一階部分だけでは無い、ドーム状の部分には開けられそうな窓は無い。
軽く一周してみたが、他の入口は中から鍵がかかっていた。
やはり正面入口からしか手段が無いな。
「どうやって中に入るんだ?」
アンジーの声が聞こえた。ま、手段は用意してある。
これで駄目ならガラスを破るしかないんだがな。
「任せとけ」
俺はある物を取り出して、魔法の範囲外に置いた。
「こ、これは!」
アンジーが反応した。
そう、これは例のカジノの男、ドイエ・ドナヒューの社員証だ。
これだけは財布をスタンに預けた時に、一緒に渡さないで拝借しておいた。
いつか何かに使えるかと思い、返却しなかったんだが、まさか本当に役に立つかもしれない時が来るとはな。
これは魔紋認証用の、独特のラインが引いてあった。
つまり、これが無いと入れない場所や、使えない物があるという事だ。
正面入口には、これの認証システムが設置されていた。
またもやアンジーの声がした。
「まさか、持っていたのか?」
「ガキの頃から、手癖が悪くてな」
「ふふ。そうだったな」
「何?何?社員証の話は知ってるけど、マックのガキの頃?アンジー、何でそんな話知ってんだ?」
トッドの不思議そうな声がした。
あ、こいつはあのバーでの事は知らないんだよな。
「い、いや、ちょっと」
アンジーの声は焦りを含んでいた。
「んだよ!イチャイチャしやがって!」
「そ、そういう事では!」
アンジーはより焦っていた。
ははは。
「お、おいマック!お前も何か言え!」
アンジーは俺に助けを求めて来た。
「ま、ちょっとな。大人の話さ」
「ずりーよ!」
「な!?マック!余計にややこしくなるじゃないか!」
トッドは拗ね、アンジーは狼狽えていた。
面白いヤツらだ。
「お楽しみ中悪いが、ぐずぐずしている暇は無いんじゃないかマック?」
剣を握っているであろうアークの、しっかりした声が聞こえた。
鼻水は垂れていないようだ。
確かに若きリーダーの言う通りだな。
俺は社員証を片手に、正面入口へ向かった。
上手く行ってくれよ。
認証システムに社員証をかざした。
走査線が走った。
認証システムに青のランプが付いた。
ガチャとドアの内部の留め金が外れた。
よし!
「開いたぞ!来い!」
俺は低い声で仲間を呼んだ。
三人の魔力が通り過ぎたのを確認すると、俺は静かにドアを締めた。
それと同時にファクトリーの角を先ほどの守衛が曲がって来るのが見えた。
あぶねー、ギリギリセーフだったな。
いくら姿が見えていないからといっても、ドアが開いていたら怪しまれること受け合いだからな。
守衛はやがて、何事も無かったかのように通り過ぎて行った。
俺達はぞろぞろと暗い廊下を進む。
行き先は決まっていた。
研究室だ。
原液は、そこの室長宛てになっていたからだ。
マック・ケイン。
縁起でも無いが、俺と同じ名前だった。
フロアーの案内図に従って、ひっそりと静まり返ったファクトリーを歩く。
一階は来客用のスペースのようだ、テーブルや、薬などがディスプレイされていた。
ゴミ一つ落ちていない。
二階、三階へと上がって行く。
誰ともすれ違わない。
不気味だな。
飾り気の無い建物内に靴音だけが響いていた。
四階からドーム部分だった。
フロアは六階まであった。六階が研究室・試作ファクトリーと書いてあったな。
目的地は六階。
恐らくはマックとか言う男の部屋もあるだろう。
研究室まで無事たどり着いた。
また認証システムだ。
カードをかざしてドアを開いた。
薄暗い研究室だ。
試験管や、金属で出来た箱にガラス窓がついていて、そこから青い光がもれていた。
よくわからない薬品が沢山並んでいる。
ふいに薬品の瓶が二個、宙に浮いた。
「トッド!触るなよ!何の薬品かわからない。下手したら死ぬぞ!アンジーもな!」
トッドとアンジーに言った。
絶対こいつらだ。
「な!?、見えて無いのに何で!?俺って!?」
「え?わ、私は別に、、トッドと一緒にするな!」
予想通りの反応が返って来た。
まったく、油断も隙もないんだから。
「ズズズ、鼻水治らないかな」
アークは締めに、派手に天然ボケをかましていた。
頼りになる仲間だ(苦笑)
読んで頂きまして、ありがとうございました。
まあ、権力者の足元をすくうにはこれしかありませんね。
さて、ちゃんと証拠を集められるのか?
頑張れマック!
アンジーのケツを触っている場合じゃないぞ!




