第五十三話「【風の恩返し亭】にて」
こんばんは、作者です。
今日のお話は、シルフィーが活躍します。
それでは、本編どうぞー。
それから数日後、シルフィーは一旦公国に帰って行った。
帰る前の日。
「明日でお休み終わりやねん」
朝食の時に、唐突に言い出したシルフィーだった。
「それで今日は自分が全部夕食作るって言ったのか?」
「そや。お世話になったお礼や!」
シルフィーはその日、そう宣言して、朝から仕込みをしていた。
俺達は昼過ぎからシルフィーに家を追い出された。
一体何をしているのやら、「準備中!入ったらあかん!」と書かれた紙が、玄関に貼ってあった。
なんつーか、可愛いな(苦笑)
夕方になり、19時を過ぎた頃かな。
村長の家でお腹を空かせて、暇をつぶしていた俺達に、紙飛行機が飛んで来た。
【風の恩返し亭】開店しました。
って書いてあった。
家に戻った。
玄関には、「貸し切り」と書いてあった。
玄関を開ける。
俺達は唖然とした。
着物姿のシルフィーが正座して座っていた。
「ようこそ、当料亭へお越しやすー、さあこちらへどうぞー」
かわい、いや、綺麗だー!シルフィーは美人若女将みたいだった。
シルフィーにいざなわれてダイニングに来た俺達はまたびっくりした。
ダイニングは紅葉が抜かれた置き行灯や、和紙。竹。掛け軸。などなど、和風の素材を使って、ドレスアップされてた。
三味線や琴、笛の音が聞こえる。
温かみがあるが、淡い室内灯に照らされたダイニング。
旅館みたいだー!
「ほな行くでー!」
高らかに叫んだシルフィーが、
バッ!
って着物を脱いだ。
お、お色気!?
違った(笑)
割烹着姿のシルフィーがいた。
「では、ごゆるりとお楽しみ下さい、ちなみに、お酒とお酌はセルフやでー、うちの店、人手不足やねん!」
ニヤリと笑ったシルフィーは、ぺこりとお辞儀をして、台所へ引っ込んだ。
【風の恩返し亭】渾身の夕食の始まりだった。
あ、ちなみにこれから出てくる料理の食材の一部は、俺がそう見えただけで、実際この世界で何と言うのかは知らないよー。
「お待たせー」
と、お盆を三つ器用に重ねてシルフィーが現れた。
お盆に盛られたお皿には?
鴨の薫製の薄切り。
アスパラと山菜のお浸し。豆腐の薫製を火であぶり、サワラみないな淡白な魚を載せたもの、銀杏、豆腐田楽の三種が串に刺さったもの。
これらが登場した。
すげー!凄すぎる!
これを肴にみんなで一杯やった。
あっという間に無くなったよ。
次は。
頭と両手に大きなお椀を載せたシルフィーが来た。
大道芸かよ!
何かなー?
パカッ!
鯛が丸ごと入ったお椀だった。
お麩とか三つ葉が浮いていた。
澄んだ汁に鮮やか鯛とお麩。
見た目も艶やかだ。
そして、旨い!旨すぎる!
味が染み込んで、やや茶色くなったお麩が特に気に入った。
次に来たのは、ガラガラと台車を押してくるシルフィー。
油が入った鉄鍋が、火にかかっていた。
蓮根餅でお肉を丸め込んだもの。
同じく、お肉を種に、山芋を短冊切りしたものを周りに張り付けたもの。
紫蘇の葉で鶏肉をまいたもの。
これらに衣を付けたものを目の前で、揚げてくれた。
「露草(抹茶かな?)塩かおつゆ。お好みのほうで食べてみてー!」
天ぷらじゃん!
マジ美味しかった!
サックサク!中の蓮根餅がもっちもち。
熱々の肉汁が口に広がる。あー、幸せ!
次はローストビーフが出た。
シルフィーが、曲芸みたいに、空中で切り分けた。
凄い!
てか、二人でお店やろう!
山椒みたいな木の実のペーストか柚木胡椒のどちらかで食べるそうだ。
味は。
たまんねー。肉ー!
王道でした。
次は何かなー?
「ここは、これしかないでー!」
両手で金ベラをクルクル回しながら、シルフィーが、鉄板と共に登場した。
出た!
お好み焼きだった(笑)
何でこのタイミングでお好み焼きなんだ?
途中まで懐石みたいだったのに!!
「え?うちの国じゃあ普通やで?」
「ま?マジで?」
「料理は愛嬌!」
シルフィーはめっちゃ笑顔だった。
愛嬌?何かもの凄く間違ってる気がするけど。
実際、作務衣みたいな割烹着を着込んで、黒い三角巾を被ったシルフィーは愛嬌たっぷりだったからいいや。
そして。
お好み焼きは美味しかった。
ベーシックな具と共にカボチャが入っていたよ。
季節感を出したんだってさ。
カボチャがホクホクして、最高だった。
チン!チン!
めーし、めーし。
次はー?
お刺身が出てきた。
ムーンリバーって言う魚のお造りだった。
おっちゃんがびっくりしていた。満月の夜しか穫れない川魚なんだってさ。
フグみたいな味がした。
もっと欲しかったけど、沢山は穫れへんかってん!とシルフィーが悲しそうな顔をしたから我慢した。
おっちゃん曰わく、穫るのは大変難しいんだとさ。
シルフィー。
わざわざ頑張ってくれたんだ。
ウルウルした。
最後は、七輪を持ったシルフィーが、何かの肉を持って登場した。
雉?鴨?
下ごしらえはしてあったようだ。
よくわからない肉を、シルフィーが俺達の目の前で網で焼きだした。
やがて、脂の落ちる音、徐々に焼けていく肉。
官能的とも言える程いい匂いが部屋に満ちた。
結構食べたはずなのに、唾が出まくる。
気が遠くなる。
な、なんだこれ?
またもおっちゃんがびっくりした。
「シルフィー、これってまさか?」
「ロックやでー!」
シルフィーの答えを聞いたおっちゃんはひっくり返った。
ロックはA級モンスターらしい。鳥というには、あまりにもデカい鳥だそうだ。鳥の王とも呼ばれ、鳥の中でも一番美味しく、しかも魔力を持った肉なんだそうだ。
確かに。気が遠くなりかけたしな。
「これは、うちでは無理やで。リーアム兄ちゃんに送ってもらってん!」
そういえば、昨日、シルフィー宛ての大きな荷物が届いていた。
シルフィーはそそくさとどこかへ持ち去ったんだけど、これだったんだ。
あとは着物とか、小道具だったのかなー。
その肉を、小さい土鍋に入った、おこげが沢山出たご飯に載せて、漬け物を載せ、熱々の出し汁を掛けて食べた。
こんなに美味しいの、初めて食べた。
まさに気絶しそうな味だった。
肉を焼くときにちょっと火傷して、半ベソになりつつも、満足気な俺達を見て、手を前で合わせて、身をよじって嬉しそうにしているシルフィーがなんともいじらしかった。
締めはあっさり味の椀うどんだった。
デザートは梨みたいなシャーベット。
サーブし終えたシルフィーも加わって、みんなで美味しく頂きました。
ごちそうさまでした。
お礼を言うのももどかしいくらい感激した俺は、真っ先に、思いっきりシルフィーを抱きしめた。
シルフィーは猫みたいにゴロゴロと俺の腕の中で満足そうにしていた。
シルフィーの火傷は俺が精霊術で治した。
「シルフィー。とても美味しかったよー。感激だった。ありがとう!」
「へへー。嬉しいー!いいお嫁さんになれるやろー?」
そう言って笑ったシルフィーは俺の腕の中で、俺の胸に顔を押し付けて、愛おしむように、グリグリと顔を動かしていた。
おっちゃんとローラは、優しそうに見てくれていたよ。
次の日の朝。
ベルグまで見送りに行こうかと言ったが、いいと言って断られた。
名残惜しくなるからだとさ。
可愛いやつめ!
その代わり、俺達一家にリクエストをして来た。
玄関で、ある言葉で見送って欲しいと言われたんだ。それは、、、。
「シルフィー!行ってらっしゃーい!!」
「うん。行ってきまーす!」
シルフィーは俺に、タコみたいに吸い付きまくるキスをすると、笑顔で出かけて行った。
家族、だからな。
けど、寂しーーい!
あーあ、また遠距離恋愛か。
いきなりやって来て、いきなり帰るとか、風みたいだな。
シルフィーらしいや。
ま、いつ帰るのか怖くて聞けなかった俺がダメなんだけどさ。
だって、聞いたら、その日が近づくにつれて、どんどん寂しくなるじゃんか!
しょんぼりです。
けど、いっぱいシルフィーと過ごせたのはいい思い出だった。
モッズコートを見ながらそう思った。
ウヘヘ。
今日は特に予定も無かったので、ある人を探していた。
おっちゃんに聞いて、その人が居そうな場所を教えてもらった。
知ってる場所だった。
そう。俺はあの丘に来ていた。
快晴の丘。
気温こそ違えど、景色はあのままだった。
いや、ちょっとだけ精霊達が元気になっていた。
そして、その人は居た。
丘の上の石に、座禅を組むように座っていた。
拳神レグルスもとい、村長。
「ふむ。オズか?」
俺に気付いて目を開ける村長。
俺は村長が着ている物に目を奪われた。
ぶっ!
吹き出した。
「そ、村長!」
「ん?これか?カッコいいじゃろ?」
茶色のTシャツ。
胸に【ノーバディ、キャン、ビート、ミー】って書かれていた。
誰も俺をのせないぜー!か?
そして、若い頃か?武道着を来て、あの技の構えをしているレグルスが描いてあった。
うわー!
今と全然違うー!
そんな俺に村長は、得意気に後ろを向いて見せた。
背中には、叶わなかった村長の夢が詰まっていた。
若い村長と、小さなアンジー、そして今のアンジーに似た綺麗な女性。ジュリアだろう。
三人が仲良そうに寄り添っていた。
タニアが特別に作ってくれたらしい。
ちょっと感動した。
アンジーも持っているらしいが、大事過ぎて着られないと言っているそうだ。
親子関係は、まだぎこちないものの、おおむね良好で、文通しとるんだとさ。
ちなみに、村長の過去は今では誰も知らない。
唯一、おっちゃんとローラだけが、カイロスからそれを聞いていた。
一応口止めされた。
腕試しのバカとかが、噂を聞きつけてやって来ると困るんだとさ。
「村長?」
「レグルスでいい。兄のこともギルド長とは呼んでおらんじゃろ?」
「ま、まあな」
「んで、どうしたのじゃ?」
「あ、ああ。頼みがある」
「断る」
ぬおっ!
いつもと逆パターン!
「ふぉっふぉっふぉっ。兄の代わりに言ってみただけじゃ!」
くっそー!
兄弟揃ってこいつらは。
「言うだけ言ってみるとよい、こないだの礼もあるしのぉ」
レグルスはちょっと恥ずかしそうな顔をした。
ま、こないだは、俺は何もしてないけどさ。
「俺に拳法を教えてください」
「ふもっ!何を言い出すかと思えば。お主に教えられる事など無いように思うが?」
レグルスの言いたい事は分かる。
俺は強い。
けど、基本の動きが全然なって無いのは自覚している。
剣術はそれなりだ。が、剣術は今のところ使えない。パワー不足なんだ。
夜以外、戦う術が無い。
幸い、風牙(俺の剣ね)は剣としてだけが用途じゃない。
こないだのレグルスの戦いを見て、色々思う所があった。
ジョニーを殴った時の能力と、俺が思い描く能力が合わされば、昼でも戦えるはずだ。
だいたい掻い摘んでレグルスに話した。
「ふむ。確かにモズなら、剣を持ち歩かんほうがリアリティーあるしの!」
レグルスはニヤニヤしていた。
モズはやめれ!
こないだも、ちょいちょいオズって呼んでたくせに。
とはいえ、オズは銀髪に三本差しの剣士で通っていた。この際、頑張って変装してみるか?
「レグルス。よろしく頼む」
「ふもっ!誰も受けるとは言っとらんがの!まあよい、わしも暇じゃからの」
その日から、レグルスの修行が始まった。
修行と言っても、厳しいもんじゃなかった。
突きなら突きを繰り返すだけ。
延々とだけど(苦笑)
より早く、より正確に。
肩を入れない、肘を真っ直ぐ伸ばすように、そんな突きを繰り返した。
時々レグルスがアドバイスをくれる。
それ以外はレグルスは寝て、、いや、瞑想していた。
こんな事続けてて、強くなるのかって?
俺が聞きたいよ(笑)
でも、レグルスの強さはこないだ見たし。
俺のしたい事も理解してくれてるはずだし。
今はやるしか無かった。
シルフィーを守れるようにもっと強くなりたかった。
にしても、シルフィー!
また手料理食べたいよー!
読んで頂きまして、ありがとうございました。
シルフィー、帰っちゃいました。
寂しいですね。
けどシルフィーの意外な特技もわかりましたね。
果たして、またシルフィーの手料理にありつけるのか?
ご期待下さい。




