第五十話「勇者様!?サイン下さい!」
こんばんは。
作者です。
タイトル通りです。
勇者が街にやって来たぞー、なぐごはいねぇがぁー(笑)
それでは本編どうぞ。
薔薇のような毎日だった。
特に予定も無い。
服を買ってからの一週間程、シルフィーとランデル家の家事のお手伝いをして過ごした。
シルフィーは家事が上手い。
基本俺は何もしてなかった。
というか、狩りでも、台所仕事でも、シルフィーは抜群の才能を発揮した。
天性の才能か?
魔物の位置を正解に把握して、風で狩る。
台所に立てば、ビッグスロープ名物の粉物や、うどんの様なものから、豆腐モドキまで、幅広くこなした。
俺は甲斐甲斐しく働くシルフィーの汗を邪な気持ちで拭いていただけだ。
「あんた、確実に尻に敷かれる運命だねえ」
とはローラの談だ。
それでもいいかと思えた。
ある日、シルフィーと街へ買い物に行く事になった。
二人で車に乗って、テッサへ向かった。
「久しぶりに二人きりやでー」
シルフィーは嬉しそうだった。
休みがいつまでなのか、敢えて聞いて無かった。
今俺に出来るのは、シルフィーのそばにいてあげること。
リーアムにも言われた。
門の順番待ちで止まった時、いきなりシルフィーを抱きしめた。
「オズ!?どないしたん?」
「な、なんでも無い」
「そ、そっか」
シルフィーから離れた。
いくら何でもな。
なんかな(苦笑)
シルフィーは俺をじっと見ていた。
???
やがて。
シルフィーは満面の笑みをたたえながら手を広げた。
「おいで!」
いやいや。
いやいやいや。
いやいやいやいや!
シルフィーは悲しそうな顔を作った。
作ったって分かった。
「やー、来てくれへんの?」
いやいや、プライドが。
シルフィーはじーっとその体制のまま動かない。
ちょっと小首を傾げて、優しい目で俺を見てくる。
シルフィーの広げた腕の先、手の指が、俺を手招きしているようだった。
いやいや、い、いや、い、い、行きますがな。
もはや贖え無かった。
俺はシルフィーの胸に飛び込んだ。
「ふふふ。来た来た」
シルフィーの悪戯っ子っぽい声が聞こえた。
しまった!
シルフィーに抱きしめられるような格好だ。
俺は身をよじり離れようとした。
シルフィーの両腕に力が加わった。
離れようと思えば離れられた。
力の差は歴然だ。
でも、離れられない。
いや、離れたく無かった。
「オズ。たまには甘えてええねんで」
シルフィーの声は、シルフィー、いや、シルクの様に優しかった。
あーあ。
やっちゃった。
逆の事をしようと思ったのに。
抱擁は、後ろの馬車から怒号がかかるまで続いた。
離れた俺達。
ギアをドライブに入れる俺の手に、シルフィーの手が重なった。
言葉にならない。
この時、俺は今まで1000年生きてきて、一番幸せだった。
「シルフィー」
「何?」
「ありがとう。大好きだよ」
「ふふ、知ってるでー!」
好きな事は知ってるか。
はは。
俺もだ!
テッサに入った。
街はいつも以上に賑やかだった。
何だ何だ?
「何これ?」
「何やろー?祭り?ハロウィンはまだ先やし」
大渋滞にはまっていると、対向車線に見覚えのある馬車が来た。
テッサのギルドエンブレム。
そう、ワイズマン。賢者。もしかして勇者。もしかしたら変人。
妖怪ぬらりひょんことカイロスの馬車だった。
カイロスが窓から顔を出した。
「ふもっ!お二人さん。仲良くやっとるかの?ふむ?オズ、変装しとるのか?車に乗ってたら意味無いのぉ?」
「ま、まあな、あ、変装?た、たしかに車は目立つな」
「甘えさせてもらってるでー!、、、オズが!」
シルフィーはニターっと笑った。
知らん!知らんぞー!
「ふぉっふぉっふぉっ、仲むつまじくて何よりじゃ」
「カイロス?この渋滞は何だ?」
「ふも!知らんのか?勇者ご一行がやって来とるんじゃ」
「ゆ、勇者?」
「まあ、街のどっかにおるじゃろう。わしはグランディアに用があってな。今から出かけるんじゃ」
「ちょ!勇者来るなら、いなきゃいけないんじゃ?」
「ふぉっふぉっふぉっ。鼻たれ小僧に興味は無いんじゃよ。ふも、車列が動きそうじゃ。ではな。アディオスアミーゴ!」
「カ、カイロス!」
あーあ、行っちゃった。
気楽なじーさんだな。
鼻たれ小僧ときたか。
ま、カイロスの前だと、俺さえ鼻たれ小僧呼ばわりされかねないからな。
とりあえず、車から降りた。
変装の意味ねーしな。
「勇者!勇者!」
シルフィーははしゃいでいた。
んだよ!そんなに勇者に会いたいのか!
《違うでー、勇者のサイン貰って、転売したいだけやでー。何度も言うけど、うちの心は、どこにいても、どんな時でも、貴男のもんやでー!》
思わずコートの裏地を見た。
そう、いつもシルフィーはそばにいる。
うへへ。
《うふふ。締まりの無い顔やなー!》
うっせ!
シルフィーは念話を返しつつ、笑っていた。
歩いてギルドに着いた。
ギルドにも人だかりだ。
勇者はどこにいるんだろう?
てか、勇者ってどうやって分かんの?
勇者って書いたTシャツ着てるとかじゃあるまいだろうし。
「アミタのとこ行こうやー」
シルフィーに急かされて、ギルドの受付まで来た。
「おはよう。あら?お二人さん。イメチェン?」
アミタは笑いながらも、ちょっとびっくりしていた。
「オズ目立つから。タニアの店行って来たでー!最初から教えてくれたら良かったのにー」
シルフィーが頬を膨らませた。
「あはは。たどり着いたのね。って最初から教えたらデートの醍醐味が無いじゃない?それに、、、」
チラッと俺を見た。
「俺に見られたくない物もあったからか!なあ!なあ!」
「な、何の事かしら」
アミタが明後日の方向を見て、鳴らない口笛を吹いていた。
「すっとぼけるな!」
俺はモッズコートの前を開けた。
ズダーン!
アミタが椅子ごとひっくり返った。
「き、着てるの!?」
「何だっけ?メイキング、バイ、アミタだっけ?アミター!!!」
「キャー!!ごめーん!」
笑いながら逃げ回るアミタを捕まえて、ゲンコツで頭グリグリの刑にしてやった。
「もう少し、マシな通り名にしろよな」
「はーぃ、、イタタタタ」
アミタは頭を抑えつつ答えた。
何故か隣でシルフィーも頭を抑えてガクブルしていた。
リーアム兄ちゃんのトラウマだな(笑)
その時だ。
「ちょっといいかな?」
振り向くと銀髪の青年が立っていた。
ん?誰だこれ?
あ、鏡じゃないよ。
俺はアッシュに染めてるからな。
所々に天使の羽を模したようなブルーの鎧を纏っている。
なかなかのイケメンな男。だが、
ズズズ。
「マジウケるんだけど、アーク!鼻!鼻出てるから」
鼻水がたれていた。
アークと呼ばれた青年の隣には、RPGの中の巫女の様な格好をした美少女が立っていた。
茶髪のふんわり巻き髪の女の子。
大きな瞳。何故かまつ毛とアイラインがバッチリ引かれている。高い鼻にキリッと上がった口元。
そして、巫女姿の上半身とは裏腹に、下はミニスカートみたいになってた。
コスプレみたいだな(苦笑)
「ああ、ごめんレイナ」
レイナってのか。
「あ、ちょっと、ギルドは禁煙ですが?」
アミタがレイナと呼ばれた女の子の隣にいる男に声をかけた。
男はタバコを口に加えていた。
ほぼ坊主頭と言ってもいいか、青い瞳のたれ目。
悪役、お人好し、どちらともとれるような顔付きだった。
ニールと同い年くらいかな?
「あー?堅いこと言うなって姉ちゃん」
苦笑いのその男は、軍服のようなものを着ていた。
胸ボタンは上まで留めておらず、はだけた感じになっている。
両肩、肘、膝に金属製の肩当て。
金属で出来た長い棍棒みたいなもんを腰に引っ掛けていた。
「中佐!規則は規則だ。貴様が破ってどうする?」
男を中佐と呼ぶ声、男の背中には、黒髪の女が見えた。
男勝りと言うか。綺麗な顔立ちだが、中性的でもある。
眼光鋭い女。しかもデケー。
かなり大柄な女だ。別に筋肉質ってわけでもないけど、強そうだな。
女は二の腕と太もも以外、全身を鎧で覆っていた。
鱗みたいなものを模した鎧だった。
てか、何故太ももは露出してんだ?
「中佐って呼ぶなよアンジー。マックって名前がある」
男は、タバコを携帯灰皿に落としつつ、大柄な女をアンジーと呼んだ。
アンジーね。
そんな感じだな(笑)
「貴様こそ私をアンジーと呼ぶな。アンジェリーナと呼べ、マクナイト」
マクナイトだからマックか。
アンジェリーナだからアンジーなのね。
「マックでいいよ。堅いこと言うなアンジー」
マックがひらひらと手を振った。
「ちっ!グダグダ言ってんじゃねーよ。どーでもいいけど、立ってんのしんどいんだけど?」
めんどくさそうに吐き捨てる声。
アンジーの後ろから金髪の青年が現れた。
シーフみたいな服装だな。ブーメランのような武器を背中に差している。
腕には、金属製で、綺麗な装飾が施されたボウガン?みたいなのが取り付けられていた。
何故か、頭には帽子と、バイクに乗るときみたいなゴーグルをおでこの上にしていた。
涼しげと言えば聞こえはいいが、冷めた目つき。
それを抜きにしたら、美少年と言えない事もないけど、不遜な態度、昔のルースやジョニーみたいだな。
「静かにしないかトッド」
アークが声をかけた。
「そうよそうよ!チャラチャラしないの!」
レイナが続く。
「けっ!知るか!俺達は勇者様ご一行なんだろ?もっと偉そうにしていいだろうが!」
トッドが喚いた。
うわー。
出た!勇者!
サ、サイン下さい!
「お?姉ちゃん可愛いじゃん。俺勇者!俺の女にならねえ?」
「え?うち?」
トッドがシルフィーに声を掛けた。
何でそうなるんだ?
「いやいや、この子は俺の嫁だから」
ムカついたから大きく出てやったぜー!
「ちょ!何て言うた?今、何て言うた?」
「し、知らん!」
シルフィーが目をキラキラさせながらまとまりついてきた。
「あ?けっ!んだよ!そんな冴えない男より、俺のほうがいいぜ!」
トッドは不遜に続けた。
ムカつく奴だな。
だんだんイライラして来た。
「こらトッドやめないか!」
「そうよそうよ!馬鹿トッド!だから彼女出来ないのよ!」
アークとレイナが仲良くトッドを諭したが、逆に火に油になったようだ。
特にレイナの一言にトッドは一瞬狼狽し、激昂した。
「あー?んだとコラ!てめえらにウダウダ言われたくねーよ」
めんどくせー!
よし!ぶん殴ってやる!
俺はパワーを解放しようとした。
アンジーが僅かにまゆ毛を上げた。
その時。
「なんじゃ!騒がしいのぉ」
毎回このパターンだなって、あれ?さっき?
階段からカイロスが降りて来た。
長い白髪を後ろで束ねていた。珍しいな。
「カイロス!」
「ふもっ!モズとシルフィーか?イメチェンしたのかの?おはよう」
「おはよう、って、あれ?」
「カイロス殿ですか?」
アークが姿勢を正し、声をかけた。
ズズズ。
「アーク!鼻水!大事な場面よ今!」
レイナが叫ぶ。
「ぶはははは」
トッドが吹いた。
「笑うなよートッド」
鼻をすすりつつ、手でゴシゴシやる勇者?
「ぶはは。昔からお前はダッセーな。ワリイワリイ、いや色々ワリイ」
トッドの怒りは収まったようだ。
「いかにも、わしがカイロスじゃ。お主らがバレンシアから来た勇者達かの?」
「そうです。カイロス殿のご高名は王より伺っております。お初にお目にかかります。バレンシア王国、第68代勇者、アークでございます」
「あたしレイナ!神官よー。ヨロー」
一昔前にニホンで流行ったようにピースをするレイナ。ノリ軽いな(笑)
「トッドだ!召喚士だ。ドラゴンライダー様だぜ!」
ドラゴンライダー?
何その美味しそうな単語!
「大きく出過ぎだお前!ヒポグリフライダーだろ?ヒポグリフだってギリギリ乗りこなしているクセに!あ、俺はマクナイト。マックでいい。バレンシアの腐れ軍隊の元中佐だ」
「元じゃねーだろ!勝手に辞めんなし!それに、ヒポグリフだってすぐ乗りこなしてみせる!グリフォンもすぐに召喚してみせるからな!そして、俺はいつかドラゴンに乗るんだ!」
トッドは不満そうにしていた。
「最後は私だな。アンジェリーナだ。アンジェリーナでいい」
ツッコミ所が満載だな。
「アンジー、自己紹介になってねーぞ、しかもそんな偉そうな自己紹介は無いぜ!」
ナイス、マック!
「あ、ああ。そうだな。失礼した。ア、アンジー。いやアンジェリーナだ。それはさっき言った、い、言いましたか?り、せ、戦士だ、、です」
アンジーは赤面しつつ、あたふたと答えた。
天然か?
「オズだ!バウンサーだ!そしてシルフィー。俺の嫁だ」
「誰だよ!勝手に加入すんな!」
「お前の事は知っとるわい!」
トッドとカイロスのツッコミが炸裂した。
「い、いや、つい。ノリで」
「ぎゃははは、ウケるー」
とレイナ。
シルフィーはモジモジしていた。
「ふむ。王からの書簡は受け取っているぞ。こっちはこっちで、色々と立て込んでいてな、まあ立ち話もなんじゃ、わしの部屋へ来い」
「わかりました」
アーク達はカイロスに付いて階段を上っていく。
勇者かー。
色々テンプレだなー。
カイロスが立ち止まり、振り向いた。
「何をやっとるんじゃ。お主も来い!」
「へ?」
「お主にも関係のある話じゃ。シルフィーも一緒においでなさい。アミタちゃん。お茶を頼む」
「はーい」
何で俺なんだ?
それに、何だこの違和感?
「と、とりあえず、行く?」
「う?うん。行こか。買い物以外に予定無いやんか。それに奥さんは旦那の隣におらなー」
ニヤニヤとシルフィー。
うわー!言わなきゃ良かった。
「あんた、確実に尻に敷かれる運命だねえ」
ローラの高らかな笑い声が聞こえた気がした。
読んで頂きまして、ありがとうございました。
バラエティーに富んだ勇者ご一行ですね。
そして、甘えるオズ。
シルフィーを嫁呼ばわりしたオズ。
どうなるのか?
次回、ご期待下さい。




