小学生四年生の女の子たちとくんぐほぐれつ
「はぁっ……はぁっ……」
「ちょっと先生。さえちんにそんな鼻息荒くして近づいてこないでくださいよ」
「し、仕方ないでしょ……そういうゲームなんだから……っ!」
「アハハー。桟先生固すぎー」
施設に来てから三十分後。
僕は、小学四年生の女の子たち三人とくんずほぐれつしていた。
……いや、こう言ってしまうと、なんだかいかがしく聞こえてしまう言い方になってしまったかもしれないが、別にそういうことをしているわけではない。
ただ、僕がしているのは――
「ほらほら先生ー。そこの黄色のマスに足置かないと、負けちゃいますよー? 下はSNSで炎上した炎の嵐なんですからー」
「置けないんだよ……。体が硬いのと、問題が難しすぎて……。ていうか、こういう時に小学生が落ちる場所として想像するのって普通、マグマとか、サメがうようよ泳いでる海とかじゃないの?」
「最近の小学生はそうなんですー。えーっと次の問題は……『こから始まる10文字以上のことわざ』ですか……きわちゃん! 何かある?」
「……ちょっと待ってね、ながよちゃん……えーと、虎穴に入らずんば、虎児を得ず、かな」
「いいねーきわちゃん。それ。私達虎子ならぬ孤児だしー。ねぇながよん?」
「ちょっと何言ってるか分かんないけど、それで! よし、これで、先生がいけそうなマスは、あと一個!」
僕がなんとか足を置けそうだったマスに、『ながよん』こと、快活そうな黒髪ツインテールの女の子、ながよちゃんが、シートの端に立っている桃色髪の内気そうなボブカットの女の子『きわちゃん』に問題の答えをもらって、我先にとそのマスを潰してくる。そしてきわちゃんのアドバイスがお気に召したのか、どこかぼーっとした空気がぬぐえない茶髪くせっ毛の女の子、『さえちん』ことさえちゃんが、そんな、なんとも言えない感想を述べた。
――そう。僕は消えてしまった少女たちも所属していたユニットの、小学四年生の女の子三人とゲームをしていた。
――ツイ○ターゲームに、クイズを足したようなゲームを。
基本的なルールはツイ○ターゲームと変わらないのだが、マス目には一つ一つクイズが書かれていて、それに答えられなければ、そのマスを踏むことはできない。
さっきから『鼻息荒くして近づきすぎ』とか『先生固すぎ』とか言われていたのは、当然ツイスターゲームをやっていたからで、きわちゃんが諺を答えていたのも、そういう問題が書かれていただけのことだ。あと、ちなみに桟『先生』と呼ばれていたのは、あくまで彼女たちがそう呼んでいるだけであって、僕が呼ばせているわけではない。『手伝い』だろうがなんだろうが、ここに所属している生徒たちはよそから来た年上の人間をそう呼ぶことになっているだけだ。
「よし、次はさえちんね! あのマス来いあのマス来い! 来た! さえちん任せた!」
「任されたー。問題の答えはよくわかんないけど、あの青のマスに行って、先生に更に近づいて、逆に先生を変態教師に仕立て上げて炎上させるんだねー」
「よくわかんないけど、それで! 気和ちゃん。『いから始まる物名を一個答えろ』だって! 分かる?」
「うーん。それなら『一夜寝て憂しとらこそは思ひけめ浮き名たつ身ぞわびしかりける』かな」
「よし! よく分かんないけど、それで!」
「流石に高校生と小学生だから、ハンデとして、辞書とかスマホとか使わないカンニングはアリにしたけど、やっぱり無しにしない? それに、何できわちゃんはそんな難しい言葉知ってるの?」
「ふふーん。きわちゃんはとっても頭がいいんですよー! もしかしたらここで一番かも! この前も学力テスト上位でしたし」
「どうだ参ったかー」
「そ、そんなことないよ! わ……うちは、国語が好きなだけで……」
「そ、そういうのは、先に言っておいてよ……あと、何でさえちゃんは自分の手柄みたいに……ってうわ!?」
「キャッ……! ちょっと先生!?」
どんがらがっしゃーん。
実際にはそんな擬音は鳴っていないが、とうとうバランスを崩した僕は、目の前にいたさえちゃんごと巻き込んで倒れてしまった。
――カシャ。
「……あの、京子さん、今何で写真を撮ったんですか?」
「いえ、小さい『女の子』と微笑ましそうにじゃれる桟君を、立花ちゃんにも見せてあげようと思って……っと、早速返信が来たわ。彼女たちの仕事は夜からだから、まだ家で待機して暇だからでしょうね。えっと、どれどれ…………」
「ちょっと京子さん? 何で無言で顔を青ざめさせてるんです? せめて何か言ってくださいよ。いったい立花からどんな返事が来たんですか?」
さえちゃんの無事を確認し、起き上がって僕は問う。
基本的に、というか、ほぼ全てに京子さんは物怖じしない。
その京子さんが、言葉を失ったのだ。あまりにも恐怖過ぎる。
はぁ……というか、僕は一体何故こんなことをしているのだろう?
いきなり事件を解決するためと、児童養護に連れて来られたかと思うと、何故かそこに所属する児童達と遊ばせられている。
ほんと、どうして、こんなことになってるんだっけ?
いや、理由は明確なのだった。
ああ、そうだ。
確か、30分前。
この施設に着いて、『彼女』に出会ってしまったせいで――




