第三部第24章 高瀬の乾燥機
午前十一時。
コインランドリーの薄暗い店内に、ドラムの回る低い唸りが響いていた。洗剤と湿った布の匂いがこもる狭い空間には、外の曇り空の冷気が入り口のドアから時折すきま風となって忍び込んでくる。
壁際のプラスチックの椅子に腰掛けた高瀬は、足元の黒い革製バッグに手を置いたまま、目の前にある大型の業務用乾燥機のガラス戸を眺めていた。
二番目の乾燥機が、回転するたびにガタガタと少しだけ大きな音を立てて揺れる。中では、数枚のくたびれた作業着と古いバスタオルが混ざり合って転がっていた。
以前から、この二番目の乾燥機は少し調子が悪かった。ボタンを押してスタートさせると、モーターの回転音に混じって、金属が乾いた擦過音を立てる。それでも、途中で止まったことは一度もない。動くには動くが、どこか無理をしているような音がする。
高瀬はポケットに手を入れると指先で、ポケットの底にあった硬貨の縁を無意識に撫でる。
「……ま、まだ回るか」
呟きは、店内に響くドラムの回転音にすっかりかき消された。
高瀬は立ち上がり、乾燥機のガラス戸に手のひらをそっと触れてみた。
ガラス越しに、中の衣類が発する湿った熱がじんわりと伝わってくる。まだ完全に乾いてはいない。サイクルが終わるまでには、あと十分ほどかかる。
高瀬は一度手を離し、再びプラスチックの椅子に戻った。
ポケットからスマートフォンを取り出し、画面をつける。特に新しい通知は来ていない。仕事の連絡網アプリを開くわけでもなく、ただ電波のアンテナマークをぼんやりと眺めてから、画面を消した。
店内の隅にある古い換気扇が、外の冷たい空気を吸い込みながらキイキイと音を立てている。
高瀬は足元の黒いバッグの中身を思い浮かべた。中に入っているのは、数日前に古いアパートの片付けを手伝ったときに出てきた古い作業着だった。バッグの底に押し込んだまま、取り出すこともなかった。
もう一度、乾燥機の中から乾いた擦過音が響いた。ガタッとドラムが大きく一回跳ねるような振動が、床を通して高瀬の足の裏に伝わる。
高瀬は思わず立ち上がりかけたが、乾燥機の表示パネルを確認すると、エラーランプ等は点灯しておらず、緑色の稼働中ランプが単調に点滅しているだけだった。
高瀬はそのまま椅子に座り直した。回転音を聞きながら、表示された残り時間を一度だけ確認する。外では雨が少し強くなり始めていた。




