第19章 組合の帳簿
九月下旬の夕方。
宮崎県の椎茸生産組合にある小さな監査室には、外の黄昏色を遮るように、蛍光灯のくすんだ白い光が落ちていた。
木製の机の上には、高瀬が残した今期の収支帳簿と、過去三年分の厚い監査ファイルが雑然と開かれている。
部屋の隅に置かれた古びたサーキュレーターが、首を振るたびにカチカチと乾いた異音を立てていた。
監査を担当する組合員の一人が、老眼鏡をずらしながら、帳簿の行を目で追っている。
先月の予備費。今月の仮払い。
男の指が、ある一行でピタリと止まる。
今月の消耗品費。そこには、不自然に丸められた金額と、新しく書き加えられたような筆跡があった。男はそれに添えられた領収書を引き抜き、日付と金額を確認する。
「……消耗品か」
隣の席で、別の領収書の束を輪ゴムで留めていた男が、作業の手を止めずに顔を上げた。
「何かあった?」
「今月の消耗品費に入ってるんだが」
「高瀬さんの処理?」
「ああ、そう書いてる」
男はもう一度、帳簿の数字と手元の領収書を見比べた。金額の端数は一致している。だが、品目の内訳がどうにも曖昧だった。
「これ、本当に消耗品か? 先月も似たようなのなかったか」
隣の男は肩をすくめた。
「さあ。あいつも忙しいんだろ。領収書があるなら、形式上は通るんじゃないか」
「そうだな……」
男はもう一度、その行を凝視した。
男は時計を見た。
もう六時を回っている。
隣の男が椅子に背を伸ばし、首を一度回した。
老眼鏡の男は領収書を帳簿の間に戻した。
ボールペンを取り、帳簿の余白に小さく印をつける。
「確認済み」のスタンプを押す。乾いた音が狭い監査室に響いた。
男は分厚い帳簿を両手で閉じ、次のファイルへと手を伸ばした。
「次、進めよう。もう暗くなる」
「そうだな」
サーキュレーターの首が、また小さく鳴った。




