エピローグ モンストル・ワールドの〝家族〟
さて、道ならぬ道を歩む旅人たちを、待ち受けるものがあった。
『Ohhhhh……』
『ヒヒヒ……ヒヒヒヒ……』
『魂……命……ヨコセ、ヨコセ……』
屍人、食屍鬼、亡霊――並みいる不死者の群れを前に、よほど彼らに相応しそうな巨大な棺桶を担ぐ青年、アインが呟く。
「ふむ。……次の場所への道すがら、どうやら墓地に迷いこんでしまったようだ。それにしても死してなお、こうも賑やかな様子を見せられると……何だか希望が湧いてくるな。俺たちも、こうありたいものだ。ハハハ」
「アタシさぁ、魔女なのに言わせてもらうのも何だけど、アンデッドを前にして動じもしないアンタに人間味をイマイチ感じないのよねぇ。まあこういう場面で慌てふためかないのは、心強い気もするわね……あ、それはロゼもか――」
「お化けめっちゃ怖いでございます」
「なんか言ってるけど……」
凛として直立する無表情なメイドだが、あまり頼りにはならなそうだ、と仕事をこなしていたロゼが嘆息する。
と、風を置き去りにするほど迅く跳躍したのは――鋭き爪を閃かせ、ニャンと猫の耳を立たせる、ワー・キャットの少女――!
『……! オ、オォ……ォ―――』
「――シャアッ! まったく、呑気に喋ってる場合じゃニャいだろっ。ミーニャが攪乱したげるから、早く片付けてってば。グールとかニャらともかく、ゴーストとか引っ掻けニャいんだからっ!」
「おっと、それもそーね。ごめんごめん、まあ魔法ならアタシに任せなさい――ハロウィン・タウンの魔女娘、ナメてんじゃないわよ三下お化けッ!
そぉ~れっ、トリック・オア・トリート――♡」
魔女娘トゥーナが、カボチャ型の杖を顕現して振るうと――可愛らしい声に反して、南瓜爆弾の大爆発が巻き起こる――!
さて、無尽蔵かと思うほど大量のアンデッドの群れを、しかしそれこそ物の数にもしない旅人たちだが――不意にアインが、一点を真っ直ぐに見抜く。
「……なるほど、この不自然な不死者の発生、屍術師の仕業か。しかもどうやら《叡智の結晶》を使っているな」
「……! アイン、それってホント?」
「ああ、トゥーナ。間違いないさ、俺はこの力を、良く知っているからな。……思いがけず有益なゴミ拾いができそうだ。まあ持ち主は、少しばかり痛い目を見るだろうが……過ぎた力の対価と思えば、仕方ないさ」
言いながらアインが、見据えていた方角へ進もうとする……が、その接近を警戒したのか、一際大きな洋風の墓碑が、地面ごと音を立てて盛り上がる。
『……グ、グ……グファファファ! この偉大なる屍術師の存在を見抜いたまでは見事! だが今、この姿を暴きしこと後悔させてくれようっ……恐れおののけ、これぞ100の屍を繋ぎ合わせて創造せしめた〝百肢屍人〟――かの人間の中の怪物、フランケンの如き偉業、驚いたか――!』
「いや別に。出来の悪さや粗雑な造りになら、驚いてはいるが。《叡智の結晶》を使ってそのザマでは、おまえは創造者ではなさそうだ。どこかで拾ったな?」
『なっ……こ、この若造が、知ったような口を――!』
屍術師の怒りに同調するように、巨大な屍人が無数の腕を振り回して暴れ、周囲の墓碑を粉々にするも――トゥーナが得意げな顔で笑いつつ、アインに促そうとする。
「ふふーんっ、どうやらアンタが誰か、分かってないみたいねーアイツ。ほらアイン、こういう時こそ、アレの出番でしょ? 目には目を、歯には歯を、《叡智の結晶》には《叡智の結晶》を――さあ、ブチかましてやんなさーいっ!」
「ん? ああ、いや、もうないぞ。ほら、ハロウィン・タウンで拾ったやつは、猫又国でミーニャの力を増幅するために使ったから。だからホラ、この通り、容器の中で灰になっている。もう力は無いな、ハハハ」
「えっ。え、ちょ……えええええ!? ど、どーすんのよ、思いがけずピンチじゃない!? 《叡智の結晶》って切り札なんでしょ、それが無いんじゃ――」
「いいのさ、それで」
アインが鉄の容器を逆向けて、もはやただの灰となったものを大地に還すと――フッ、と笑って言う。
「《叡智の結晶》なんて、この世に、必要ない――人の邪心を無闇に呼び起こすような、こんなものは、たとえこの世が〝怪物達の世界〟だとて、必要無いんだ。回収したコイツを、さっさと使い切って無力化するのが一番いい。俺は、そのためにも旅をしているのだから……猫又国では、これを使わせてくれたミーニャに感謝だな」
「……そう、ふふっ、そうなのね♪ って話じゃねーのだわっ! 教訓とか後先とかの話じゃなく、今この瞬間! ピンチだって話でしょーが! どーすんのよ!?」
「ああ。……ああ、なるほど、そうだな。さすがトゥーナ、ありがたいツッコミだ。では、うーん、うん……ロゼ?」
呑気に納得していたアインが、自慢の巨大棺桶の側面から、ガシャン、と武器庫のようなものを引き出し――マシンガンやライフルなど、お手製の重火器を美しきメイドに渡す。
「あのデカイ屍人は、無駄に多い肢節の継ぎ目が荒くて脆い。全て落としてきてくれ。可能か?」
「――イエス、マスター・アイン。命令、遂行します――」
「ああ、頼んだ。そうしたら――あとは、任せてくれ」
命令の受諾、から早々に、銀髪の麗しきメイドが物々しい重火器を両手に、軽々と跳躍した。ワン・ツー・スリー、と躍るようなテンポで、モンスターたる巨大な肢を次々と撃ち落としてゆく。
もはや屍術師は何が何やら分からず、呆然とするしかない。
さて、アインが巨大な棺桶を横向きに、軽々と振りかぶると――
「うわ。……ご愁傷様ね」
「アイン、相変わらずトンデモねー力だニャア……」
もはや旅の仲間たちは結末を予測しているのか、身を屈めつつ不憫そうな表情を浮かべた。
ロゼもまた一仕事を終えて、魔女娘とワー・キャットの傍に着地する。
「これで、終わりだ――――フンッ!!!」
まるでそれは、天災の如き勢い。
巨大な屍人も、周囲のアンデッドたちも、肉体なきゴーストさえも風圧で――根こそぎ、吹き飛ばしてしまった――!
……さて、モンスターすらドン引きさせる怪力を揮ったアインが、どうということもない風情で巨大棺桶を担ぎ直した。
「よし。《叡智の結晶》は……あったあった。回収完了、っと」
とんがり帽子のハロウィン・タウンの魔女娘が、呆れたように首を振る。
「ったく、あれだけのことしといて、どうってことない顔して……モンスターに同情するわっ。まあアタシ達の旅を邪魔したんだし、自業自得だけどっ♪」
ワー・キャットの少女、ミーニャはミーニャで、くあ、と欠伸する。
「ふニャア~……ンン、歯ごたえの無い相手だったニャ、噛んでニャいけど。ま、ミーニャの敵じゃニャいしー」
美貌と銀髪のメイドは相変わらずの無表情で、アインを労う――と見せかけて。
「マスター・アイン、お疲れ様でした。では、ロゼは疲れましたので、棺桶に座らせて頂きます。メイド・ジャンプ――ふう」
問答無用で主人を移動手段に使うロゼに、対するアインは〝むしろ当然〟とばかりに頷き、そして……。
「ああ。それじゃ軽い運動も終えたし。旅を続けようか、ロ――……」
ふと。
ふと、気が付いて。
アインは、少しだけ、言い直す。
「……旅を、続けようか。ロゼ、トゥーナ、ミーニャ」
「……イエス、マスター・アイン」
「分かってるってば――アイン!」
「ミーニャを頼れニャ、アイン~」
改めて家族の名を呼び――家族と共に、アインは、歩き始める。
トラブルは当たり前で、出会う人もモンスターも個性的。
普通の街や国など、一つとして無い。
時に恐ろしくもあり、時に脅かされることがあろうとも、それすらも旅の肴とばかりに、変に賑やかに、ばかに騒がしい。
〝ただの人間〟を長とした、モンスターだらけの、珍妙な一家は旅をする。
立ち止まることなど知らぬように、今日も、ゆく。
怪物達の、世界を――
――モンストル・ワールドを、今日もゆく――!
現・最終話までお付き合い頂き、感謝感激です!
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