2-11話 飼い主の所在
アインの放った爆弾発言に、かつては同じことを言われたトゥーナが、慌てた様子で訂正を促す。
「ちょちょちょっ……待ちなさいよアイン、違うでしょ!? この子、ミーニャを家に帰してあげるって……前の飼い主を捜してあげる、って話でしょ!?」
「ん? ……ああ、そうだな。もちろん、ミーニャの飼い主だったという人を探す予定だ」
「そ、そうよね? もおっ、変な冗談みたいなこと言わないでよ、ややこしくなっちゃうでしょ――」
「その上で、家族になって欲しいな、と思っている」
「依然、変わりなくややこしい! だからどーゆー意味なのよ!?」
トゥーナの混乱が深まる中、それはそれとばかりに、ミーニャがおずおずと口を挟む。
「あ、あのー、変ニャ妄言は置いといて……ミーニャの飼い主、捜してくれるって? それ……ホント、ニャ?」
「ああ、ミーニャ、そのつもりだ。どうしても、会いたいんだろう?」
「! う……うん! ミーニャ、ワー・キャットにニャる前から、ずっと捜してて……またあの子に会えるニャら、何でもする――!」
「それでその後……キミも、俺の家族にならないか?」
「ニャらねーわ。ニャるわけねーニャろ。話、聞いてたかニャ? ミーニャは飼い主のとこ帰るつってんニャろ! フシャーッ!」
「ああ、そうだな、ケジメは必要だしな。よし……それじゃ、ミーニャの飼い主を探すとしようか。俺なりに、大体の見当は付けているが」
「? ?? よく分からんニンゲンが、よく分からんこと言ってんの気にニャるけど……け、見当が付いてるって、ほんと? そ、それって、どこ!?」
ずい、と身を乗り出したミーニャが、金色の瞳を輝かせると――アインは特に動じることもなく、軽く頷きながら答えた。
「さて、ミーニャの見解も交えて聞くが……ミーニャはこの猫又国で探しつつ、実のところ〝猫又女王が飼い主の所在を知っている〟という当たりをつけているのではないか? 先ほど、女王のおわす御殿から程近い市場に出没したのも、どうにかして女王から情報を得ようとしていたから、では?」
「! ニャッ……ニャんで、分かるの? それは……その通り、ニャけど」
「まあ行動を見ていれば、何となくな。寿命の長いモンスターである猫又女王が〝長い間〟というほどミーニャが迷い続けている、というなら……ミーニャがワー・キャットになりたての頃ならともかく、今もなお闇雲に捜すのは現実的じゃない、些細に見える行動にも何か理由があるはず、と思っただけさ」
「ニャ、ニャ……お、オマエ……何かボケーっとしたニンゲンだと思ってたけど……意外と、鋭いニャア……?」
「おいおいそんな、ボケーッとした人間だなんて……照れるぞ?」
貶しと褒めが半々で、しかも照れるべき部分が違うアインだが、そこで呆れ顔の魔女娘トゥーナが口を挟む。
「まあアインは、こんなんでも博士ってヤツみたいだしね……で、そこまで言うんなら、もしかして飼い主さんの所在って、アインには本当に見当がついてるの?」
「ああ、トゥーナ。猫又国が広いとは言っても、ミーニャが長らく捜し続けて、見つけられないというのはおかしい。ミーニャは恐らく普通の猫だった頃の記憶も頼りに、はぐれたであろう付近を捜しているのだと思うが……」
「う、うん、そうニャの! ずっと昔、この辺をモンスターの大盗賊団が支配して……迷い猫にニャったミーニャがワー・キャットにニャった頃、猫又女王が現れて、盗賊を追い出してから猫又国を作ったんニャけど……以前と風景が様変わりして、だから見つけられニャいのかもって……」
「なるほどな。……モンスターの被害を受けた人間の心情を思えば、モンスターの国では暮らし辛く……かといって外の世界のモンスターから被害を受けたくもないはず。見たところ猫又国は、非常に治安がいい。だから……結論を言えば、恐らく飼い主は、猫又国の庇護をギリギリ受けられる程度の、外れにいるのだろう。だからこそ猫又女王も、ミーニャの飼い主の居場所を把握できている可能性がある……これは憶測だけどな」
アインが最後に補足を加えて話を終えると、ミーニャは少し俯きがちに、ぶつぶつと何やら呟いていた。
「じゃ、じゃあ、あの子は……あの子は、近くにいるかもしれニャい……? 確かに猫又国の外側は、あんまり捜してニャい……い、いかニャくっちゃ!」
「おっと。先ほども言った通り、広い国だ。そんな国の外側を捜すと言っても、単独では大変だろう。幸い、こちらには空から探索できるトゥーナもいる。俺たちも手伝うぞ」
「! あ……ありがとっ! あっ……その、えっと……さっきはお団子、盗んじゃって……ごめんニャさい……」
「ああ。……いいさ、野良生活は、過酷だったのだろう。空腹に耐えがたい気持ちは……俺にも、良く理解できるからな……」
「さすが行き倒れてた旅人だけあって、説得力がハンパないわね……ま、とにかく」
次の行動の方針が固まったところで、トゥーナがツッコミつつ、威勢の良い声を上げようと――
「それじゃ早速、ミーニャの飼い主さんを見つけ出すため、国の外側へ――!」
『『『『ちょーっと待ったニャアーーーッ!』』』』
「――へぁっ?」
――したが、途中で制止が入り、トゥーナは素っ頓狂な声を漏らしてしまう。
果たして、アイン達を遮らんとするのは、何者なのか。




