13
アレク様が重症を負って三日が過ぎた。その間アレク様は一度も目を覚ますことなく眠り続けたまま。気を失ってからずっと高熱が続いていることもあり、時折苦しそうに呻き声を上げられる。
そんなアレク様を側で見守りながら、僕はただ汗を拭くことしかできない。
「アレク様……」
どうして僕を庇ったんですか?どうして僕を探しに来てくれたのですか?どうして……どうして僕を見つけた時、あんなにも嬉しそうだったのですか?
あの時の光景を思い出す度に、アレク様を見ていると聞きたいことが山ほど湧いてくる。
「どうして……」
「んっ……んんっ……シ、リル……?」
「アレク様!今ユリウス様を……っ!」
「行くな……」
目覚めたことを知らせるために立ち上がろうとすると、起き上がったアレク様に腕を捕まれ引き止められる。
「シリル……っ、すまない触れるつもりは……」
ぱっと、掴まれた腕はすぐに離される。
僕はアレク様に触れられたら、嫌悪感が湧きパニックになってしまう。でも、さっき触れられた手に嫌悪感はなく、むしろ―――。
「シリル……?」
「アレク様」
「俺が触れても……平気なのか……?」
「はい。だって、命懸けで僕を守って下さった方の手ですから」
「シリル……」
「アレク様、今まで申し訳ありませんでした」
一度目の人生に捕らわれ、僕は今のアレク様を見なかった。アレク様の好意を、言葉を、信じなかった。
もし、僕がアレク様の好意と言葉を信じていたら、手を握れていたら。僕が攫われることも、アレク様が重症を負うこともなかった。
「申し訳ありません……」
「……謝るのは俺の方だ」
「いえ、僕が悪いのです……僕が……」
「……なら、一つ頼みを聞いてくれるか?」
「はい……」
「手を、握っていてくれ。俺が眠るまでの間だけでいいから……もう少しだけ……」
「はい、いくらでも。アレク様が嫌になるまでこの手を」
「ははっ……ならば一生、このままだな」
ユリウス様に報告しないといけない。
でも―――。
「シリル……」
小さな力で手を握られる。苦しみのない、穏やかな寝息を立てて眠るアレク様を置いては行けない。
手を離したら起きてしまうかもしれない。重症を負った人をまた起こしてしまうのは良くないから、もう少しだけこのままで。
この手がアレク様の安らぎになるなら、僕はいくらでも捧げ……。
「へっ……?」
ぼ、僕いま……なにを思った?いや、アレク様は命の恩人で、そんな人に尽くすのは当然で、だからさっき思ったのもそういう意味で……。
「愛してる……」
「っ!」
『愛してる』の言葉に驚き、咄嗟に離そうとした手を握られ引き止められる。
「大切にする……離れるな……」
起きてしまったかと思ったが、すぐにまた寝息を立てられたので、おそらく寝言だろう。そう分かっているのに、心臓が煩い程に鳴って止まない。顔に沸騰しそうなほどの熱が集まる。
今この姿を誰かに見られたら……僕がアレク殿下の事をどう想っているのか知られてしまう。
「ダメ……」
まだ想ってはいけない。たとえ殿下と同じ気持ちだったとしても、今はまだ……早すぎる。
早まったらダメだ。もう少しだけ気持ちに蓋をしておかないといけない。
人は心変わりするものだから。




