第96話 デーモンの国①
「くそっ! 忌々しい半妖め……。この俺様が、どうしてこんなグランディアなんかでこそこそしなきゃならないんだ」
暖炉に薪をくべながら、禍津シュラは毒づいた。
シュラにとって、グランディアは奪うものだった。
そもそも、地球と勝手にくっついてダンジョンを生み出す原因になったのはグランディアだ。
シュラの中では、グランディアは地球の植民地になるべきだった。
それなのに、グランディアの住人たちはふてぶてしくも移住してきて、あまつさえ地球人と結婚する。
シュラがもっと早く生まれて、グランディアと接続された時代に生まれていたら、そんなことを許さなかったのに。
見た目のいいグランディアの民は、どんどん半妖を生み出して地球を汚した。
生まれつき鑑定眼のあるもの、アイテムボックスがあるもの。
地球人でも、グランディア接続のあとは色んなスキル所持者が生まれている。
シュラのネクロマンサーの力もそうだった。
これは、半妖やグランディア出身者にも珍しい力だ。
シュラは、確信した。
自分は、この世界の主人公だ。
「おい! モブ二号! 早く人間のための食べ物を見つけてこい!」
何故、主人公の自分がこんな目にあうのだろう。
ひそひそと隠れて、ネクロマンサーで殺した敵を手ごまにして。
食べ物ひとつ、満足に出来ない。
日本が恋しかった。
何不自由ない生活、お金さえ使えばなにもかもが満足できた日々。
それなのに、何故かシュラは犯罪者のレッテルを張られてもう地球には帰れない。
何度か、日本以外のゲートにも飛んだが手ごまを行かせてもゲートを潜れず。
手ごまだけをいかせても、所有者であるシュラのスキルの何かがセキュリティにひっかかるらしい。
試しては撤退したが、その際に転移石を作るエルフを二体失った。
今あるのは、最後の女エルフ一体とここに来て作った最後の手ごまだ。
姿を隠蔽するオーブが欲しかったが、今の戦力ではヴァシリカに乗り込むのは苦しい。
「あのとき、あんなやつにやられなきゃ……」
残業ダイスキ部とかいうふざけた名前のピースメーカー。
ホームページでは、しっかりFランクと記載されていたヴァンパイア・ハーフ。
それなのに……何故かそんな雑魚に勝てなかった。
正しくは、何をされたのか分からなかった。
ネクロマンサーは、自分が殺した相手の魂を捕まえて魔石で、死後の世界にいくのを防ぐ。
そして、魔石がある限りは何度倒されても戦うことのできる不死の軍。
それが、魔石に封じた魂が一撃で吹き飛ばされた。
「ゴ……シュジンさま……」
「――パンに、水かよ。これが勇者の食い物か?」
手ごま二号がもってきた食べ物を、シュラは汚らしいものを見る目で奪い取る。
本来は触らせたくもないのだが、この国に自分の存在が目立つことを考えると悔しいが諦めるしかない。
「あいつは……テキだ……俺様に逆らうゴミだ……」
シュラは必死に転移して逃げ回っているのに、テキはあちこちで名声をあげはじめた。
これはチャンスだ。
シュラの”正義”の名のものに、テキを罰する機会が生まれたのだ。
「あのクズはくる……ここに」
慌てて日本から逃げることになった時の、財産はあのオーブを買うのに消えた。
それでも、あのスキルであれば絶対に勝てる。
そうなったら、シュラは日本のゲートを実力で突き破って、あらゆる半妖を皆殺しにしようと誓っていた。
あのFランクを詐称するSSランク――自分と張り合えるのだからSではない――さえいなければ。
シュラは、負けたことがなかった。
だから、あの詐称ヴァンパイア・ハーフさえ殺して、魔石で手ごまに変えれば――なにもかもうまくいく。
これは、神からの試練なのだ。
そして勇者は、最後には絶対に勝つ。
シュラの狂った歯車は静かに動き続ける。
誰も直せないほど、外れてしまった歯車に。
「首都、バルグラッド……ここに、やつはくる……」
闇の中、呪詛のようにシュラの声が響く。
もう、誰もシュラを止めるものはいない――。




