第62話 ダンジョンへの救援②
「けっこう奥まで子供たちは散らばっているね」
「セーフハウスが呑まれたんだもの、仕方ないわよ」
ダンジョンに流れる川を逆行している一行は、足を濡らしながら進んでいた。
民営の半妖孤児院の星明りが突発型ダンジョンに飲み込まれ、二十分が経過しようとしていた。
ユーナとルクスは、幼命探知のスキルを発動している。
「こっちだな」
「そっちに子供の反応はないけど……」
「おそらく、施設の大人だろうね」
マナブレードの大剣を片手に、ネオはしれっと言った。
ピースメーカーたちの多くは、幼命探知を持っている。
「子供より、大人の方が見落とされるからね」
「生命探知は、いい値段するから……」
生命探知のスキルは、探索者にも人気がある。
人探しだけではなく、擬態したモンスターや死角にいるいきものも見えるために、Cクラスでも2千万を超える。
そういう意味では、鑑定・探知スキルの中でもドラゴンアイは最高峰だ。
「あのぅ、川ダンジョンでは肉はとれないですかね……」
いつもと違って、今日は稲葉が調査でついてきている。
私語を慎んでいたルクスだが、今日の仕事でも肉が手に入らないかどうかが気になってしまった。
人食い魚や、電撃ウナギなどを倒して進んでいるが、肉がない。
どれも素材にもならないので拾ってもいないが、ユミエラのためにもタンパク質は欲しかった。
しかしネオは振り返りもせず、ユーナは”余計なことしゃべるな”という怒った視線をよこし、稲葉の呆れたようなため息だけが返ってくる。
五分間の気まずい沈黙ののち、ネオが身構えた。
「リバーサーペントだ。ルクス、たんぱく質がきたよ」
「えっ! やった!」
洞窟を埋めるような、鋭いうろこのついた大蛇が牙を剥いて襲い掛かってきた。
ユーナの糸が、リバーサーペントの頭を瞬時に固定する。
ネオの大刀が、その頭を一瞬で跳ね上げた。
ルクスは、あくまでも稲葉の護衛として前に立っていただけだ。
「毛皮は高く売れるし、肉は鶏肉みたいでうまいらしいぞ」
「中身ならあげるわ。毛皮は事務所の収益よ」
「はーい!!」
ルクスが三メートル以上のリバーサーペントをしまうと、稲葉が少しルクスを見た。
初見の相手には、ルクスのアイテムボックスは目立つ。
「目標まで、距離はあと少しだ」
「走るわよ」
水音がバシャバシャ鳴って、弱弱しい声で「だれか……」と呟く声がする。
全員が、声のするほうに走った。
「ポイズントートだ!!」
毒々しい、しかも一メートルはあるカエルが、兎耳の半妖の女性を二体で囲んでいる。
しかも、女性は腕が毒で変色していた。
「アタシが……!」
以前までなら、毒のあるモンスターには遠距離可能なユーナが担当している。
さすがのネオも、毒耐性はない。
しかし、ルクスは自分から進み出た。
「ミスリルホースなんかに比べたら、こんな雑魚……!」
「ポイズントートは、毒腺だけじゃなく返り血も、猛毒ですよ!」
思わず、といった感じで稲葉が情報をくれた。
実はいいひとなのかもしれない。
しかし、ルクスにはあの力がある。
鬼哭丸を振りかざして、モンスターの心臓を突き刺した。
二体目のポイズントートも、長い舌とともに毒を吐く。
ルクスは避けたが、かすかな飛沫が腕に飛んだ。
「素材を身ぐるみはいでやるーー!!」
毒カエルの液体は、ルクスのシャツを焼いたがそこでこと切れた。
解体を山のようにこなすルクスは、見たことのあるモンスターの弱点を知っている。
ねばねばしたポイズントートの死体を掴んで、アイテムボックスにしまう。
「大丈夫ですか、今毒消し出しますね」
「ありがとうございます……」
毒を浴びた女性にルクスが毒消しを渡していると、うろたえた様子の稲葉がルクスの腕を掴んだ。
「ポイズントートは専用の手袋をして掴まないと、手の皮がべろべろに剝がれるんだ……君も毒消しとポーションを……」
「心配してくれてありがとうございます。でも、俺は毒が効かなくって~」
「毒が……効かない?」
ユーナは、毒消しを飲んだ女性の腕に、癒しの糸を巻く。
ポーションでは治りきるかどうか怪しい怪我だった。
ネオはすぐさま次の取り残された人物を探し始め、ユーナは救助した女性に話しかける。
誰も不思議がっていないことに、稲葉はいよいよ困惑していた。
「詳しくないのですが、そういう種族の方ですか?」
「いえー、単なるヴァンパイアハーフなんですけどぉ、たまたま完全解毒のスキルオーブを手にしちゃって」
「は、はぁ……すばらしいですね、完全解毒……」
ルクスは意図してやっているわけではないが、調査以外で関わるまいと決めた稲葉を翻弄し始めていた。
だが、調査にきたこの男が驚くのは、まだまだこの先も続くのであった。




