〈猫田 音己〉最高の令嬢。(後半_優人視点あり)
俺の趣味は人間観察だ。
誰が何をして何を考え何を思うのか。
一人ひとりが異なる行動をする様は見ていてとても興味深い。
(…さて、この場合はどうするのかねぇ。)
その観察対象の中で最近、特に観察し甲斐のある人物が出来た。
それが今現在、怖い顔をした女子生徒達に問い詰められている小鳥遊 祈である。
彼女は感情が全くと言って良いくらい表情に出ない。
今の状況も内心パニックになっているだろうに無表情で淡々と話しているように見えるのだがら感心する。
それにしても、この3人じゃ全くの役不足だ。
(イノリンに喧嘩を挑むならもっと頭の良い人間じゃなきゃ駄目だ…こんなやつらじゃ話にならない。)
学年首席になるくらい頭が良いイノリンに口で勝てるわけがないのに。
ユウユウの婚約者になったことについてギャーギャー言われているが、それに対して冷静に返答するイノリンは正直超格好良い。
俺を含め、教室にいる他の生徒達も以前とは違う彼女に注目しているのは間違いなかった。
誕生日パーティーの日から人が変わったと噂されているイノリン。
その噂を確かめる為に朝から大胆に体当たり攻撃をしてみたが、結果は正解だった。
「っ、そうよ。貴女が無理矢理、優人様に婚約者になるように言ったのでしょう?」
「優人様はお優しいから承諾したのよ。貴女なんて家柄だけが取り柄じゃない。ふふっ、すぐに捨てられるわ」
「あの方を一人占めするだなんて…身の程を知りなさいな」
皆が見ている教室でここまで言うとは過激派はやっぱり違うねぇ。
優人のファンクラブの会員であろう彼女達の目は嫉妬で染まっている。
それに対してイノリンはどう反応するのかと彼女の顔を見た瞬間に…俺は不覚にもドキリとしてしまった。
(あぁ…!最高に面白くなってきた…!!)
彼女は笑っていたのだ。
それはもう完璧な令嬢としての微笑みで。
「言いたいことはそれで全部でしょうか?無理矢理?家柄だけが取り柄?一人占め?身の程知らず?ふふっーーー…
馬鹿馬鹿しい。貴女達こそ恥ずかしくないのですか?こんな皆様が見ている場で感情だけで動くなんて…幼稚にも程がある」
背筋を真っ直ぐ伸ばし、彼女達を一瞬にして黙らせたイノリンにゾクゾクと体が震える。
なんて美しい令嬢なんだろう。
今朝会った時も思ったが、最も変わったのはその真っ直ぐで強い眼差し。
以前のイノリンも興味深かったが…今のイノリンはもっと面白い。
「何かまだ言いたいことはありますでしょうか?私は全て誠実にお答え致します…が。今のような自らの品位を下げるような内容の質問でしたらお断りです」
その言葉を言い終えたと同時に朝礼を知らせる鐘の音が響き渡る。
3人の令嬢は悔しそうな恥ずかしそうな表情を浮かべながら自分の席へと戻っていった。
イノリンに視線を戻せば、胸に手を当てながら小さく息を吐き出していた。…かと思えば、ギロリと睨まれる。
「口元がニヤついてるっての。面白がってないで少しは友人として助けてよ」
「にゃにゃ?俺が助けなくても、あのくらいの雑魚はイノリン一人で余裕だから大丈夫にゃ」
「雑魚って…ネコさんったら猫を被るのが本当にお上手だ、こ、と」
「にゃししし、怖い笑顔だにゃあ?」
「あんたに言われたくない」
俺が語尾に「にゃあ」なんて付けるのは面倒な人付き合いを極力避ける為だ。
人間観察が趣味なだけであって、人とたくさん関わり合いたいとは微塵も思わない。
傍観者が一番だ。
疲れた様子を見せる祈には悪いが、これからもっと彼女のまわりが面白く変化していくことに期待する。
こんなにも魅力的な彼女を男達が黙って放っておく筈がないからな。
イノリン、君は本当に俺を飽きさせない。
「あの大人っぽいで有名なユウユウも今のイノリンには敵わないにゃ。…くくっ、最っ高に面白いじゃん」
担任が教室に入ってくれば、イノリンやさっきの令嬢達を気にしていた生徒達は徐々にだが前を向き始めた。
これからの愉快な学園生活を想像し、俺はニヤリと口角を上げた。
☆★☆
バタバタと急いで俺の席へと走ってきた友人から聞いた話は驚くには十分な内容だった。
「お前の婚約者、めちゃくちゃ格好良い!俺、最高にあの瞬間シビれたわ!」
「は?」
朝礼が終われば、少し遅刻して教室に入ってきた友人。
その内容は婚約について問い詰められていたらしい祈に関してだった。
(危惧した通り、やっぱり行動を起こしてくる生徒がいたか…。)
何かあればすぐに言って欲しいとは言ったが、こんなに早く問題が起きるとは予想外だった。
だが、そんな焦りもすぐになくなる。
「ーー…って言ったんだぜ?もう相手の女子生徒達、タジタジでさ!流石、小鳥遊財閥の跡取りは違ぇな!」
急いで片手で顔を隠しながら大声で笑いそうになるのを必死で耐える。
祈に早く会いたい。
会って、おもいっきり頭を撫でてやりたい衝動に何故か駆られた。
「優人のそんな表情…初めて見たわ…」
「っ、うっせ」
目を見開く友人の頭を軽く叩きながら、授業が早く終わることを強く願った。
大変お待たせ致しました!
やっと用事が一段落したので書けました…(ノдヽ)