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旅立ち

 宿舎を後にした俺は、クレアとターニャを探しながら村の広場に向かっていた。

 迷いの森に起きた異変の原因が俺にあることをあの二人に正直に話し、どうすればいいのか相談しようと思った。

 あの二人がどう判断するかによって身の振り方を決めよう。

 村人たちに全てを話して森を元に戻せと言われたらそうするし、すみやかに立ち去れと言われれははやり、そうする。


 責任のとり方を他人に一任する様な形になるのは不本意なところだけど、まだこちらの常識に馴染んでない俺では、何がいいのが判らない。


「コスモさーん!」


 考えを巡らせながら広場まで辿り着いたところで声をかけられた。

 この声はターニャだな。

 声が聞こえた方に振り向くと、クレアとターニャがこちらに向かっているのが見えた。ターニャを振っている。


 俺も手を挙げながら二人の方に向う。


「こんにちわ、コスモさん。戻ってきたのですね」

「二人共久しぶり。山賊の捕縛が終わって無事に戻ってきたよ」

「コスモさん、村を出て旅に出るって言ってたから、もう戻ってこないのかと思ってました」


 ハッハ、相変わらずターニャの言葉は突き刺さるなぁ!


「前はちゃんと挨拶する間もなく出発しちゃったからね。ちゃんと別れの挨拶がしたかったんだ。それに、山賊の件も自分で知らせたいと思ったしね」

「そうですか。ですが、戻って来ない方が良かったのかもしれません」


「それって、森の異変の原因だと疑われてるって話?」

「ええ、そうです。コスモさんはそんな事をする人ではないと言っているのですが、聞き入れてもらえなくて……」


 無条件に信頼されている感じが嬉しくもあり、その信頼を裏切ってしまっている事に罪悪感も感じる。複雑だ。


「その件で二人に相談したいことがあるんだ。聞いてもらえる?」

「ええ、構いませんよ」

「私も良いよ」



   §   §   §



「……つまり、皆が言ってたように、森の異変の原因はコスモさんだったってこと?」


 人気のない場所に移動した後、イグランゲーアから聞いた話と、そこから推測した内容を全て話した。


「そういう事になるかな」

「でも、故意で行った訳ではないのですよね?」


「イグランゲーアさんから話を聞くまで、マナがなんのかも判らなかったからね。能力を使っていたのは確かだけど、それでマナが失われてるなんて想像外だった」

「そうですか……」


 目を伏せ、考えこむクレア。


「俺はどうすれば良いのか判断がつかないんだ。村の人達に全てを話して許しを請うのが良いのか、村長が言うように黙って立ち去るべきなのか……。もし、森を元に戻せと言うのならそれに従うつもりだよ」

「元に戻せるのですか?」


 マナがリソースであるのなら、AIを停止させ、開放すれば元に戻る可能性は十分にある。しかしその場合、俺はこの世界の言葉も、折角集めた解析用のデータも失ってしまう。

 一時的に開放して、人気のない場所でロードしなおせばとも思ったけど、恐らく学習データは初期化されてしまう。本来ならHDDに記録され、停止させたところで消えるようなことは無いけれど、この世界でどういう扱いになっているのかは不明だ。リーソースという括りで考えるならHDDに保存されるデータもまたそれに当てはまるので、学習データごと消える可能性は高い。


「ああ。今使っている能力を全て消してしまえば、元に戻せる可能性はあるよ。ただ、それをすると俺はクレアとターニャに初めて合った時と同じ状態に戻る」

「初めて合った時って言うと……山賊に捕まった時?」

「今のコスモさんと違うところ……?」


 初めて合った時のことを思い出そうとする二人。


「ほら、一番はじめに声を掛けたけど通じなかったでしょ? その後話せるようになったのは能力を使っているからなんだ」


 思い出せたのか、納得するように頷く二人。


「そういえば、宿舎でお話した時にそのような事を仰っていましたね。あまりにも自然に話せるのですっかり忘れていました。……森を元に戻してから村を発つのが最も丸く収まる方法だと思ったのですが、コスモさんが言葉を失ってしまうのであればお願いするわけにはいきませんね」

「いや、俺はそれが最善だって言うなら従うよ。言葉だって能力使わずに自力で覚えることだって出来るはずだし」


 首を振るクレアとそれに同意するように頷くターニャ。


「そんなのダメだよ! 言葉が解らなくなったコスモさんを村から出すなんて、私、出来ないよ!」

「ええ、そうです。森は時間が経てば元に戻ると魔術師様は仰りました。コスモさんがこれ以上能力を使わなければ取り戻せるのです。もし、言葉を失ったコスモさんが村から去った後に何かあれば、それは私たちの負い目になります。そんなことは出来ません」


 たしかに、逆の立場で考えれば後味が悪いな。


「……でも、中にはそんな事お構いなしに元に戻せという人が居るかもしれません。だから、なにも言わずにこっそりと立ち去るのが一番だと思います」


 やはりそうなるのか。

 やらかした事をそのまま放っぽって逃げるようで、それはそれで気持ちが良い事じゃない。

 けど、それは俺個人のけじめを付けたいと思う気持ちだから相手に押し付けるようなものじゃない。


「判った。それじゃあ明日の朝一番に村を出ることにするよ」


 既に日が沈みかけている。

 前回同様、戻って来たその日の夜に出発ってのはなんの為に戻ってきたのかわからなくなる。

 せめて一晩別れを惜しむくらいは許されるはず。



   §   §   §



 深夜。

 俺は一人寝床に横たわっている。

 話し合いが終わった後、クレアの家にお邪魔することになった。

 一応最後の夜って事で、ターニャも同席しささやかなお別れ会というか、ちょっと豪勢な晩餐を楽しんだ。

 とりとめもない話をしたり、ターニャをからかったって遊んだり、この村に居候し始めた頃を思い出して楽しんだ。

 お開きになり、ターニャは自分の家に帰り、俺は宿舎……は、調査団のメンバーで埋まってるので、そのままクレアの家に泊まることとなった。


 そう、いつか言っていたお泊りが実現したのだ。

 そして今、クレアはシャワーを浴びている――訳もなく、隣の部屋で眠っている。

 俺は普段は物置として扱っている部屋を割り当てられ、独り寝と言うわけだ。

 ハードボイルドでアウトローな物語の主人公なら、旅先で現地妻っていうの? ああいうの沢山出来るんだろうけど、魔術の才能が無い魔法使いの称号をほしいままにする俺には不可能な話だ。

 ホント、いらないから誰か貰ってくれないかな。


 さてと。太陽とともに行動する村人はもう全員寝てるだろうし、そろそろ出発しよう。

 明日の朝って言ったけど、折角楽しく過ごせていたのに、いざ別れの時! ってなると、しんみりしそうで嫌だ。それに、ちょっとやりたと事っていうか、試したいこともある。結果次第では派手な事になるかもしれないから人目につかない時間の方が都合がいい。って事で俺はこっそりクレアの家から、そして村かもぬけ出すことにした。






   §   §   §






 今、抜け出したことをとても後悔している。

 夜の森を一人でうろつくのすげー怖い。正直、今から引き返して何事もなかったかのように寝床に潜り込みたい。

 マップがあるから迷うことはないし、何度か夜の森に入り込んでるから大丈夫だと思ったけど、一人で行動するのがこんなに心細いとは思わなかった。

 そういえば、一人で行動するのは霊峰に登って以来だな。

 あの時は明るい内に行動してたし、いざとなったら村に戻れるって保険があったからな。

 それに比べ今は、明かりを持たずに真っ暗闇の森の中をマップを頼りに移動している。村っていう拠り所も失ったし、しっかりせねば。


 目的地は元山賊の塒だったほら穴。

 この世界で初めてAIをロードした場所で、そのAIは今動いている三つのうち一番サイズが大きい。時間経過によりどれくらいマナが戻っているのかは判らないけど、マナ消失のダメージが一番大きな場所だと思う。

 そして、この前ここを住処にしていた山賊を捕縛したばかりだしまだ無人のはずで、人目もないはず。

 俺なりのけじめを果たすにはうってつけな場所だ。何だかんだと因縁もある気がするし。


 そろそろ付くはずだけど、予想通り人の気配は無い。無人のようだ。

 念のため、ほら穴の内部まで確認したいが、流石に明かりがないと入れないか……。


 山賊が捕縛された時のまま放置されているので焚火の消えカスもそのまま残っている。

 不折おれずの棒きれの先端に炭になってる燃えカスを、パラメータを弄ってスライムのように柔らかくした小石を使って固定する。

 固定した燃えカスのパラメータを弄って温度を上げてやれば発火し、即席松明の完成だ。


 周囲が明るくなって少しホッとする。

 作ったばかりの松明を掲げてほら穴内部を調査する。

 前に捕まっていた時に中の様子は知っているので、不意をつかれるようなこともないし、それ程深くないということも知っているので、本当にさらっと確認するだけだ。


 結果的に中には何もいなかった。

 これならこれから行うことを見られることも、誤って巻き込んでしまうこともない。

 気兼ねなく実験が出来るってもんだ。

 さっそく取り掛かる。

 まず、開発用コンソールからリソースモニターを呼び出す。

 リソースモニターとはその名の通り、現在使用中のリソースを監視するツールだ。この世界でマナ=リソースの図式が成り立つのなら、マナカウンターとして機能するはず。


 そしてこれから行う実験はAIが消費した分のマナを他から補おうというものだ。

 AIが使用しているマナの量はリソースモニターでチェックできる。

 それと同等量のマナを他から奪う。

 イグランゲーア曰く、学者なら『万物を構成する物』答えるという。つまり、目の前のほら穴の天井部分の大岩もまた、マナで構成されているということ。そして、マナ=リソースであるならばそれは正しく、これのパラメータを完全消去すれば、物質としての存在が消え、その分のマナが周囲に満ちる事になる。


 俺がこの場所を選んだ理由は、人目につかないと理由の他にも、村の脅威になり得る物を極力排除するためでもある。

 このほら穴がなくなれば、それだけ山賊が村から遠ざかる。

 この大岩を消去することでどれほどのマナが周囲に満ちるのか、また本当にそうなるのかはやってみないと判らないけど、ここが山賊の塒になることが無くなるのならばやる価値がある。

 これが、俺の考えた俺なりのけじめってやつだ。


 リソースモニターによれば、この大岩は翻訳AIの8割位のサイズであるらしい。

 大岩のパラメータを全選択し、(null)を代入する。

 最初からそこに何もなかったかのようにふっと消え去る。

 大岩に支えられていたり、下敷きになっていた小さめの岩がゴロゴロと崩れる程度の小さな反応。

 もっとこう、大岩が消えた瞬間その場が真空状態になって空気の流入が起きたり……とか想像して身構えてたけど、拍子抜けな感じ。

 まあそんな感想は脇に置いといて、リソースモニターだ。

 モニターが示す増えたマナの量は翻訳AIの約五割、残りの三割は何処行った? 空気になったのか? それとも……。

 たった一回の試行データで検証したって仕方ないか。

 今は物質を消去すればマナを回復できるってことが解っただけで十分。

 思ったよりも少なかったっていうのは誤算だけど……どうする? 地面でも削っとく?

 そう思ってリソースモニターから視線を外すと、何やら光る物が。大岩が無くなったことで、月明かりが差し込み、その明かりを反射しているらしい。


 拾い上げてみる。細い金属製の棒の先端に綺麗に磨かれた石が取り付けられている。

 これは、髪飾りだな。似たようなのをターニャが良く着けていた。

 もしかしたら、山賊に取り上げられたって言ってたやつかもしれない。

 もう村には戻らないから返せないし、見つけちゃったのを捨て置くってのもな……、取り敢えず仕舞っておこう。






 その後、翻訳AIと同等量のマナを得るために地面をくりぬいた。

 ほら穴だった場所はその面影を微塵も残さず、ただの大穴と化した。雨水が貯まればいい釣り堀に成りそうだ。川に繋がってないから魚とか入ってこないけど。

 これで、俺なりのけじめは済んだし憂いも無くなった。心置きなく冒険に出ることが出来る!


 行き先は既に決めている。

 次にたどり着く町は果たしてどんな場所なのか、すごく楽しみだ!








これにて第一章迷いの森編完結です。

ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


活動報告の方に後書きのようなものを載せたいと思いますので、興味のある方はそちらの方もお読み頂けると嬉しく思います。

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