表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/48

突然の襲来Ⅰ

未だ陽光は見えず、夜は深い。


 ひんやりと冷えた肌寒い風が僕の頬を遮り、ただひたすらに足場の悪い雑木林の中を歩いていく。周囲には木の幹に虫型のモンスターが張り付いていたり、蝙蝠のような形をした夜行型のモンスターが徘徊したりと、決して僕達を襲うことはしなかったが、あまりの不気味さに混乱してしまいそうなほどだった。ゲームの世界の昆虫ならばVRと分かっている以上、大して怖くはないが、それが本物となると途端に僕の管轄外になるらしい。


 そんなものに全く目も暮れず、ただ先へと歩み続けるネコミミの後姿はどういうわけか何か勇敢に見えてしまうのだった。


 いや、あなた本当に女の子だよね?


 そして、地獄の雑木林の中を歩くこと数十分、ようやく雑木林の中を抜け出したかと思うと、数百メートル歩いた先にある古びた宮殿を目の前にして、ネコミミは立ち止まり意味深な視線を宮殿に注いだ。


「どうかしたのか?」


 その彼女の奇妙な仕草に、僕は疑問の言葉を掛けずにはいられない。


「……ここが、かつて私が住んでいた家よ」


 ネコミミはどこか悲壮感溢れる寂しげな表情で、僕にそう告げる。


「でも、私はこの家でのけ者だったわ。部屋が与えられなくて、代わりにここから少し歩いた場所にある馬小屋で寝ていたのよ」


 僕は黙って聞いているだけだった。僕は適当な相槌を打って、ネコミミは話を続ける。


「それで、私を除くこの家に住んでいた全員が何者かによって殺されたのよ」


 あまりに悲惨な出来事だ。

 そう心の中で僕は呟く。


「でも、不思議と全然悲しくなかったわ」

 淡々と語るネコミミの姿に、思わず僕は唖然となる。


「いや、さすがにそれはないだろ? もしも、それが僕だったら最低でも欠片くらいの悲しさは感じるぞ」

「……だって、私は全くこの家で両親からは愛されていなかったのだから。私がちょうど物心ついた頃だったかしら……ある時期に入ってから、私は両親から全く相手をしてもらえずに育ったのよ。本当に寂しかったわね、あの時は」


 ……何て、酷い親だ。

 僕は心の中でそう呟く。


「一体何で、お前だけそうされなきゃならなかったんだ? いくら何でも理不尽すぎないか?」


 さすがに、理由なしでここまで酷い境遇に陥れる親などはそういないはずだ。だとしたら、何か合理的な理由があるのかもしれない。馬小屋で寝なければならないほどの、至極合理的な理由が。しかし、現実はそう甘くなかった。


「そう、現実は理不尽なものよ。私には8人近くの兄弟姉妹がいたのだけれど、皆優秀でね。でも、私はそうじゃなかったわ。それは持って生まれた魔力量の差、もっと言ってみれば、生まれつきの能力の違い。私はその中で一人、落ちこぼれていた。だから、私は両親から見放され、馬小屋なんかで寝る羽目になったのよ」


 何という理不尽な事実だろうか……、あまりに理不尽すぎて返す言葉を見失い絶句している僕がそこにいた。


 ネコミミは特に馬小屋に入らなければならないような罪えなど犯していなかったはずだ。それなのに、馬小屋に放り込まれたというのだ。完全にどうかしているとしか思えない。


 馬小屋なんて罰……、本来なら罪人に処されるべきもののはず。それなのに、彼らはネコミミに処罰を与えたというのだ。それはつまり、持って生まれた能力の低さに対する罰とでも言うのだろうか? もしそうだとしよう。それは、あまりにも理不尽すぎる処罰ではないだろうか。持って生まれた能力、いわゆる先天的な才能など後々どうにでもなるようなものではない。例えて言うならば、素手でクマを倒してみろ! とでも言っているようなものだ。


 これはゲームの世界ならば可能だが、現実世界ではまず不可能だ。

 まず、脳天をぶっ裂かれて死ぬのが目に見えている。




 ――仕方なかったんじゃない? 実力がないんじゃあね――



 

 瞬間、何者かの声が周囲にこだまする。

 気付いてみれば、宮殿の屋上。そのひと際高い頂上。


 そこには、月夜に紛れ、巨大な大鎌を携えた少女の姿があった。


 辺りは暗く、そのせいもあって少女の姿が僕にはシルエットにしか見えない。

 すると、その僕の隣で見るからに驚いたように口をポカンと開けているネコミミの姿があった。


 ひょっとしたら、ネコミミは彼女の身元を……正体を何かを知っているのかもしれない。


 次の瞬間、ネコミミの口から信じられないような言葉を耳にする。




「お姉……ちゃん?」




 待て! お姉……ちゃん? も何も確か家族全員が何者かによって殺されたんじゃなかったのか?


 僕がそう突っ込みを入れようとする刹那――、

 ――ネコミミの姿はもうそこにはなかった。


 どこへ行ったのだろう? 


 周囲を見渡して、とっさに僕はあることに気づくのだった。

 さっきまで屋上にいた女が消えている……。


 あり得ない。全く持ってあり得ない。

 それなら、僕がとうにネコミミが攫われていることに気づいているはずだ。


 一体どうなっている?


 僕は何も分からないまま、呆然とその場に立ち尽くしていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ