激戦、最強スキル剣士VS最強魔導騎士!Ⅱ
ネコミミはアトラスとシムルグを召喚し、メリーは例の赤いリザードマン6体を召喚していた。
その上、敵陣には僕が近接戦闘で倒せなかったセレナまでいる。
僕は息を荒くしながら、前方にいる12人の敵を見つめた。
「ごめんなさいね、レン。まさか連れ去られた挙句、敵に寝返ることになるなんてね」
ネコミミは実に申し訳なさそうな様子で言う。
「私も悪いわね、レンくん。本来なら戦うべき相手はそこにいる女天使のはずなのに……」
メリーもどこか申し訳なさそうな様子だ。
「全く、本当にここまでのピンチも年に何回って話だよ」
実際に僕は、今彼女達に追い詰められている状況だ。
本気さえ出してしまえば、形勢逆転は十分に可能だ。
しかし、本気は本気で奥の手として取っておきたい。
出来れば技も何も使わずに、最小限の力で相手に勝つのがベターだ。
僕の実力を必要以上に相手に見せてしまうと、そこから研究されて対策を練られてしまう。
だから、特にこういう対プレイヤー同士の対決においては、必要最小限の力で勝つことに注意しなければならない。
「でもね、レン。申し訳ないという気持ちもあるんだけど、不思議とあなたと全力で戦いたい
という気持ちも心の奥底から涌いてくるのよね。おかしいわよね、こんなの……。自分のミスで捕まって、そのうえ敵に寝返ったのに、味方と全力で戦いなんて……。おかしいに決まっているわ、こんなの。でもね……レン、これが素直な気持ちなのよ、私はあなたと全力で戦って今度こそあなたに勝ちたい。正々堂々の勝負で。だから、レン! あなたも私を今ここで助けたいなら、私との全力の勝負で勝ちなさい。そして、私に負けを認めさせるのよ。そしたら、この気味の悪い魔法も解けるはずよ!」
ネコミミの今にも涙がこぼれ落ちそうな潤んだ瞳を見た僕は心の中でこう決心して叫ぶ。
「分かった! 必ず僕がこの勝負に勝ってお前を取り戻してみせる! だから、そこで待っていてくれ!」
「レンくん。そういえばあなたとの勝負、まだ着いてなかったわね。今この場でどちらが上か決めるわよ! 覚悟はいい? 《獄炎の魔装束》」
メリーはそう言うと、自身の真下に魔封陣を発生させた。
そして、メリーの周囲に紅蓮の炎が渦巻き、彼女を徐々に取り込もうとする。
メリーは紅蓮の炎によって完全に取り込まれてしまい、その姿はもう紅蓮の炎で見えなくなってしまう。
メリーを覆った紅蓮の炎はやがて巨大な球体へと姿を変え、その中のメリーを守るエネルギー殻として機能していた。
もしも、僕がこの間に隙をついて彼女に攻撃を仕掛けていたなら、僕の刀はあの炎の殻によってドロドロに溶かされていたかもしれない。
あれから、数十秒経過すると、その中からメリーが姿を現わす。
彼女は燃えるように赤い紅蓮の鎧を身にまとい、頭には湾曲したヘラジカのような角がついたヘルムを被り、手にはマグマのような色をしたランスが握られていた。
おそらく、あのランス……決して色だけではないはずだ。
僕の直感がそう捕らえた。
あのマグマのような色の通り、ランス自体が実際に炎を纏わせ、燃えたぎっているに違いないのだ。
何て怖ろしい武器だろうと僕は感じた。
いくら僕の刀が最強クラスの武器とは言えど、あれと刃を交えるには躊躇いがあるな。
下手をすれば僕の刀が溶かされかねない。
「まだよ! さらに、6体のリザードマンで《獄炎融合》! 現れなさい! 天地を揺るがす灼熱の化身! 咆哮と共に全てを燃やし尽くすのよ! ヘルフレム・スカーレッド・ドラゴン!」
6体のリザードマンが赤い光と化して、一つの場所に集中すると、そこからは禍々しいオーラを放つ巨大な紅蓮の飛竜が姿を現わすのだった。
その飛竜の体長は16メートル、尾の長さは6メートル前後、翼を広げた時の翼の広さは4メートル程度といったところで、見るからに巨大な竜だ。
敵の数は、一気に12体から7体へと激減したが、そこは喜ぶところではないのは言うまでもない。
「何だ、あの竜は!? まさか、融合してくるなんて思ってもみなかったな。さらに、厄介になりやがった!」
僕はため息混じりに独り言を言うのだった。
「メリー、やっぱりあなたもS級魔法を持っていたのね。さすがは、S級魔導士といったところかしら」
「当然よ、千河。それよりも、私はあなたがS級魔法を持っていることに驚きね。そのアトラスとシムルグを召喚する魔法ってS級魔法でしょ?」
「ええ、その通りよメリー。S級魔法は国内での使用は原則禁止だから、見せるのが初めてみたいね。どう意外でしょ? B級魔導士がS級魔法を持っているなんて」
「それもそうね、まさかS級魔法を持っているなんて思いもよらなかったわ。S級魔法って、S級魔導士ですら修得が困難なのに、よくそんな魔法を持っているわね」
「私がB級魔導士に甘んじているのは、魔力量の問題よ。魔力コントロールの精密さなら、そこらのA級魔導士には負けないつもりよ」
「それはすごいわね、千河。本当によく頑張ったと思うわ。その魔法を修得するのに相当苦労したんじゃない?」
「そうね、軽く2年近くはかかったんじゃないかしら。でも、これだけは修得しておきたかったのよ。これからの戦いのためにもね」
「そうだったわね、千河は魔王を目指していたんだものね」
「そうよ、メリー。魔王の椅子を手に入れるためには、S級魔法の修得は最低条件でしょ。だから、頑張ったのよ」
「千河、あなたとは近々戦うことになるかもしれないわね。魔王の座をかけて」
「そうね、それは分かっているわよメリー。だから、私はS級魔法を出来るだけ誰にも見られないように奥の手として隠しておきたかったのよ」
「それは、私も同じ。まさか、こんなところで使う羽目になるなんて思ってもみなかった。敵に操られているのだから、仕方がないとは言ってもねえ」
「全く、その通りよ。本当についてない」
「ええ、全くね。でも、こうなった以上はもう踏ん切りはつかないわ。用意はいいかしら、レンくん?」
「今から、私達のS級魔法の全力を持ってあなたを倒してあげるわ。覚悟しなさい、レン!」
そして、二人の視線は僕の方に向けられる。
S級魔法……これまたヤバそうなのが着たな。
あの髭天使との戦いですでにHPを半分以上削られているのに、その上、もっとヤバそうなのがセレナにネコミミ、メリーと3人もいる。
だとしたら、このままだと僕の戦いは防戦一方にならざるを得ない。
さて、どうやって攻略してやろうか……。
「もうすでに残りHPが半分を切っている時点で覚悟も何もねえよ! こっちだって全力でやつもりだ!」
そして、奥の手は最後に取っておく。
最後にな。
「ようやく長話も終わり勝負に入りましたね。来ないなら、こちら行きましょう。全員突撃!」
セレナは天使の羽を広げると、空中へと羽ばたいた。
シムルグは以前に僕と戦った時と同じように、その場から姿を消した。
そして、記念すべき第一撃を僕に放ったのは、他でもないメリーの召喚したヘルフレム・スカーレッド・ドラゴンだ。
ヘルフレム・スカーレッド・ドラゴンは大量の空気を口の中に吸い込むと、巨大な熱線《終焉の太陽》を僕に向けて放つ。
口から放たれた《終焉の太陽》はすさまじい威力で、その黒い業火は瞬く間に大地を火の海へと変えた。
それはまさしく、終焉の太陽と言う名にふさわしい一撃だ。
だが、僕はその攻撃を何とかその場から素早く跳躍して、かわしきることが出来た。
しかし、その考えなしのとっさの判断が命取りとなるとは夢にも思わなかった。
何故なら、僕が跳躍したその向こうには、すでにメリーとセレナが待ち構えていたからだ。
どうやら、僕を完全に仕留められるほどの熱線ですら、彼らにとっては陽動の一つにすぎないらしい。
何て怖ろしい考え方だ。
しかし、僕もこのまま相手の攻撃を指をくわえて待っているわけにはいかない。
何しろ、このままセレナとメリーの攻撃をまともにくらえば、僕の残りHPは0になりかねないからな。
だから、ここは少しだけ力を見せてやる。
「かかったわね、レン君。これで私の勝ちは決定ね」
「ええ、これで終わりですよ。レン」
セレナとメリーは僕の頭上から一気に襲い掛かる。
僕と彼らの間合いはほとんど1メートルもなかった。
瞬間、僕は《神代の大裁》と《絶代の大裁》の効果を発動させる。
瞬間、セレナは僕に向かってカットラスを振り下ろし、メリーはランスで僕の身体を貫く。これで僕は彼女達にやられ、空中から地面に崩れ落ちる。
……はずだったのだが、
「「き……消えた!?」」
二人は目を丸くして、お互いに顔を見合わせた。
何も消えた訳じゃない。
「違うわ、二人とも! 後ろ!」
気づいたネコミミは叫んだ。
僕は彼らの背後から勢いよく、巨大な刀身の刀を振り下ろす。
彼らは僕の攻撃をまともにくらい、思い切り地面に叩きつけられるのだった。
「余所見はいけないよ」
僕は自分のいた空間とセレナとメリーの背後にあった空間を《絶代の大裁》の能力でつなぎ合わせ、そこから彼らの背後に空間移動して見せたのだ。
そして、空間をつなぎ合わせたところを誰にも見つからないように、神代の大裁で幻覚を張って何も起こらなかったかのようにカモフラージュする。
そうすることによって、彼らには僕がまるで瞬間移動したように見えるわけだ。
すなわち、僕の《神代の大裁》は幻覚を操り、《絶代の大裁》は空間を操る大剣だということだ。
相手からすれば、これほど厄介な敵もいないだろう。
僕の《神代の大裁》は全てを照らし出すようなまばゆい閃光を放つ訳だが、その閃光を見た者は一旦視界が幻覚に犯される。
そして、その閃光を見た者の視界を僕は操ることが出来る。
つまり、今の僕は敵なしということだ。
さて、この能力をどうやって攻略してくれるのか楽しみだ。
セレナとメリーの落下地点からは多量の砂塵が巻き起こっていた。
これでは、彼らの姿が確認出来ない。
だが、あの程度の攻撃で終わるような奴らではないはずだ。
そして、僕にはまだ倒すべき敵がいる。
「どうした? 以前戦った時のように真っ向からかかってこないのか、アトラス?」
僕はそこら周辺で何度も空中で空間移動しながら尋ねる。
アトラスやネコミミの視界からだと、僕があちこちランダムに何度も瞬間移動している姿が確認できるはずだ。
僕の姿が視界から突然消えたり、現れたりといった具合に。
いくら、素早さ自慢のアトラスとは言え、あちこちに瞬間移動するような相手を捕らえる術など持ち合わせていなかったのだ。
アトラスは動揺しきった表情で僕の動きを地上で何度も目で追っているだけだ。
そんな状態の相手に真っ向から攻撃を仕掛けれるはずがない。
そう感じた僕は、一気にアトラスの背後の空間と僕のいる空間をつなぎ合わせ、空中からアトラスの背後に瞬間移動する。
そして、アトラス目掛けて、両手の大剣を交差させながらなぎ払う。
音速を超えた僕の剣の切っ先は、はさみのように両脇からアトラスへと襲い迫る。
しかし、さすがはアトラスだと言えよう。
僕がアトラスの背後へと瞬間移動した瞬間、その時には彼女はすでに僕の姿をその背後から捕らえていたのだ。
そして、アトラスは素早く僕の方へと身体を半回転させて、僕の剣が彼女の身体に到達する前に、その剣を両手で止めにかかる。
何と、愚かな行為だと僕は感じた。
いくら、何でも刀身を素手で止める馬鹿がどこにいると言うのだ。
瞬間、一つの悲鳴が僕の周囲に起こった。
「な……何っ!? か……刀を素手で!?」
それは、驚いたことに悲鳴を発したのは彼女ではない……
――僕の方だったのだ――
アトラスはむしろ、驚く表情の僕に不気味に微笑みかける。
「何だ!? それがどうしたって言うんだ!? まさか、神話の神様であるこの私がこの程度の芸当ができないとでも思ったのか!?」
そして、僕の刀身を握った手にさらなる力を加えた。
すると、僕の《絶代の大裁》と《神代の大裁》がピキピキと音を立てて、大きなヒビを入れてしまう。
僕は背後におびただしいほどの冷や汗の気配を察知した。
僕は何度かゲームでこの武器を使用していたが、使用中の武器にヒビが入るというアクシデントはこれまでで一度たりともなかった。
それだけにこの光景には言葉で言い表せないほどの不安が残った。
一応、ゲーム内では武器の使用頻度に従って武器にダメージが蓄積されるという《リアル・アームドライフ》システムが採用されている。
このシステムは武器にダメージが蓄積されると、武器自体の威力が落ちるだけでなく、その蓄積ダメージによって武器が壊れてしまうという現実性を追求したシステムだ。
武器や防具にもプレイヤー同様にHPがあり、作中の鍛冶屋にメンテナンスを行ってもらうことによってHPが最高まで回復するようになっている。
僕はこの世界に来てかなり肝心なことを忘れていたが、この世界には武器を治すための鍛冶屋がいない。だから、僕がこの世界で武器を壊されてしまうと2度とその武器を復元することが出来ないようになっている。
つまり、早い話がこれは大ピンチである。
「刀にヒビまで……何て馬鹿力だ……」
「どうやら、この刀……。馬鹿でかい見た目の割には、結構へなちょこみたいだな」
アトラスは刀を持つ両手にさらに力を加え始める。
僕の《神代の大裁》と《絶代の大裁》はミシミシと悲鳴上げ始める。
このままでは、僕の刀が握り潰されるのも時間の問題だ。
「どうだ? こうやってしまえば、お前の切り札も使い物にならねえだろ?」
アトラスは大胆不敵に僕に微笑みかける。
「くっ……」
僕は舌打ちしながら、しぶしぶ神代の大裁と絶代の大裁を《Weapon》のアイテムリストにしまった。
――はずだったのだが……。
「何だ!? また何か計算違いでも起こしたのか? 顔色が悪いね」
武器が戻せない!
まるでゴキブリでも噛み潰しているかのような深刻そうな顔をしている僕の姿を見て、アトラスはまるでそれを楽しむかのように気味悪くに唇をゆがめた。
何だ、どうなっている?
武器が戻せないぞ!
「そうか……ひょっとしてこのまま武器を転送しようとしていたのか……そうだったのか……」
深刻そうな僕の姿を楽しんでいるようなアトラスの表情には、笑いを静かにこらえているような気配さえ感じられる。
まるで、クククッというかすれた笑い声がのどの奥から込み上げてきそうな勢いだ。
僕は彼女の気味悪い姿に静かに眉をひそめた。
すると、今にも込み上げてきそうな不気味な笑い声が、ついに現実のものとなる瞬間を僕は見た。
――残 念 だ っ た な 火 渡 レ ン !――
瞬間、アトラスは張り裂けそうなくらいに口を大きく開き、悪魔のような凶悪な笑みを浮かべる。
その光景は、まさに顔芸そのものだ。
「何故、お前が武器を戻すことが出来ないか教えてやるよ! 火渡レン! それはだな、私は手に持った相手の武器を奪い取ることが出来るからだ!」
アトラスが耳をつんざくほどの笑い声を上げながらそう言い切った瞬間、僕の手元から《神代の大裁》と《絶代の大裁》が消える。
「さて、お前の切り札は俺のものだ! どうする、火渡レン?」
見れば、僕の《神代の大裁》と《絶代の大裁》は彼女の両手に握られていた。
「~~~~~~~~~~っ!」
それを見た僕は絶句するしかなかった。
確かに、彼女の両手には刀身が10メートルほどの巨大な刀である《神代の大裁》と《絶代の大裁》の握られている。
それでは、それが意味する絶望的な理由とは何か?
それは、彼女のずば抜けた身体能力に、恐るべき神代の《幻覚能力》と絶代の《空間操作能力》が備わることを意味している。
幻覚で相手を惑わす《神代の大裁》と万物を空間ごと切り裂く《絶代の大裁》が彼女に渡った今、僕は崖っぷちに追い込まれていることを目の当たりするのだった。
「よくやってくれました、アトラス。これで火渡レンのメインウェポンはこちらのもの。計算通りです」
「レンくん? この絶望的な状況をどうやって打開してくれるのか楽しみだわ」
気がつけば、アトラスの隣にはセレナとメリーの姿があった。
しかし、それは決して落下地点からゆっくりとアトラスの方まで歩いてきたわけではない。
霧のようにどこからともなく急に現れたような、不自然な現れ方だった。
まるで、最初からそこにいたような、そんな感じの現れ方だ。
どうやら僕は、すでに《神代の大裁》の幻覚に飲まれているらしい。
「全く好き勝手してくれるな」
このかつてない絶望的な状況に無理やり僕は笑ってみせる。




