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異世界トリップⅫ

「ねえ、レン? あなたはこれまでで本気で好きになった人と付き合ったことがある?」


 ネコミミは興味深そうな表情で僕に尋ねる。


「残念ながら僕はないよ。二次元なら別としてね」

 気がつけば、恋愛という言葉ほど僕に似合わない言葉はないかもしれない。


「二次元?」

「ああ、ゲームのキャラクターのことだよ」


「それは、変ねえ」

 ネコミミはクスクス笑いをしながら答える。


「僕に恋愛経験の話を吹っかける時点で、何かが間違っているということに気づかなかったのか?」

「ええ。人間は皆、異性と付き合う生き物だと思っていたから」


「それは、酷い偏見だ」

 僕はネコミミの発言に思わず苦笑いをこぼした。


「残念ながら、人は恋愛をする生き物ではあるけれど、その一方で、恋愛を怖れる生き物でもあるんだよ」


「そうなの?」

 ネコミミは不思議そうに両目をパチクリさせる。


「そりゃそうだ。魅力的な異性を好きになることが恋愛ではあるけれど、思いが伝わるかどうかは、また別問題だ。もしも、相手に告白して振られたりでもしたら、せっかく勇気を出して行動したのに惨めな感情だけが心に残ってしまう。だから、たいていは本当に好きな人がいたとしても、片思いで終わってしまうわけだ」

「ふーん、参考にはなりそうね……」

「あまり真に受けないほうがいいぞ、恋愛をしたことのないゲーマーの言うことなんてな」


「それで、レンはどういうタイプが好み?」


「えっ……」

 僕は思わず両目を点にして、彼女の表情を伺った。


 好みって聞かれても、異性にありのままの好みをダイレクトに伝えるのには、さすがに抵抗がある。


「だから、どういうタイプの女の子が好みかって聞いているのよ。あまり同じことを言わせないでくれる?」

 ネコミミは恥ずかしそうに、布団の中に顔を隠しながら尋ねる。


「それは、僕のありのままの好みを伝えればいいんだよな?」

「ええ、それが聞きたかったのよ。遠慮はいらないわ」

「女の子の好みか……。まずはそうだな、胸は大きい方がいいかな……」

「そう……、他には?」


 何故か、嬉しそうな表情になりながらネコミミは尋ねる。

 何か、いいことでもあったのか?


「身長は少し高めの方が良かったり……しなくもないかな」

「ふうん」

 すると、今度はつまらなそうに適当な返事を返した。


「まあ、ざっとこんなもんか……」


「ええっ!? たったそれだけ? 好みの性格とか、料理は上手な方がいいとか、他に何かないの?」

「そう言われてもなあ……、実のところ僕に明確な異性への好みがあるかどうかすら怪しいんだよな……」


「それってどういうこと!?」


「さっきも言ったように、確かに僕は胸が大きい方が好きだし、少し背が高めの女の子の方が足がきれいに見えていいとは思う。でも、それって結局は一般的な男性の好みを投影しただけであって、そこまでそこに深いこだわりがあるわけでもないんだよ。まあ、早い話が可愛ければ誰でもOKっていう側面があってね」


「……浮気の危険性大、要注意ね」


 ネコミミはさりげなく、僕には聞こえないほどの小声でぼそりと呟く。

 何だ、急にネコミミの目が光った気がしたぞ。

 気のせいか?


「だから、可愛ければスタイル関係なく誰でも愛せることが僕の強みだよ」

「何かやけにぼんやりしてるわね……」

「これは、今までに僕が女の子とデートしてきた結果だよ。ゲームの中でね。その結果、分かったことだが、僕がこれまでデートしてきた女の子はみんな可愛くて、きれいな心を持っていた。つまりだ、何が言いたいのかというと、可愛い女の子の心はみんなきれいだということだ!」

「そ……そう……」

 僕の言葉を聞いていたネコミミは、どういうわけか引きつった笑顔を浮かべていた。


 僕の話、どこか間違っているのだろうか?


「それはそうと、僕の恋話なんて聞いて楽しいか? ネコミミ」

 それにしても、何て内容のない恋話なんだろう……。

 思わず話しているこっちが、恥ずかしくなってくるな。

「ええ、楽しかったわ。あなたの恋話」

 ネコミミは満面の笑みを浮かべながら言った。

「そう言ってくれると、助かるよ」

 僕は穏やかに笑いながら言った。

「ところで、少し気になるんだが、何故急に僕の好みの異性のことなんかを聞いてきたんだ?」


「別に……大した理由じゃないわ。ちょっと気になっただけよ」

「ふうん、気になっただけか……」

 僕は彼女の発言に特に興味を示さない様子で呟く。


「それじゃ……明日は朝が早いわけだし、そろそろ寝ましょ。レン」

 ネコミミは何かをごまかすような早口で言うと、さっさと寝てしまおうと急いで目を閉じる。


「そうだ。少し気になったんだが、この世界、エマニドレフだっけか? ここの食事って基本的には人間界と変わらないのか?」

「ああ、そのことね。別に大して変わらないわよ、あなたの世界と。多少は変わったものが出てくるかもしれないけれど、まあ食べれないことはないわ」

「何か、その言い方……。下手したらお腹壊すとか、そういうふうに聞こえるぞ……」

「さあ、どうかしらねえ。私も人がここの世界の食事を取っているところをあまり見たことがないのよ。だから、そこまで詳しくは言えないってことよ。でも、心配はないわ! 8割方のものなら、人間界とはほぼ共通だから」


「なるほど、それは助かるな。とにかく、好き嫌いしないように頑張るよ。ところで、僕はもう人間界には戻れないのか?」

 僕は少し未練がましく尋ねてみた。


 今思い返せば、人間界もそこまで退屈な世界ではない気がしてきたからだ。

 まだ、いくつか続きが気になる週刊誌だってあるし、ゲームの続編の方も気になる。

 案外、僕は自分自身が気づかないうちに人間界を楽しんでいたのだ。

 まさか、今になってようやくそのことに気づされるなんて、不意打ちもいいところだ。


「そうね、当分は無理でしょうね。どうかしたの、レン? あんな大見得切っておいて、まさか元の世界が恋しくなったとか?」

 ネコミミは悪戯っぽい笑みを浮かべ、僕をからかう。

「そんなわけがない! とでも僕が言うと思ったか!?」


「えと……。まさか、そんな返しが来るとは思ってもみなかったわ、レン。でも、それは少し遅すぎよ。一応、あの時に私は忠告したのだから……」


「なるほど。てことは、もうあの世界には戻れないのか?」

 僕は深刻そうな表情を浮かべた。


「いいえ、あと1年後の辛抱ね。レン」


「1年……、ずいぶん先のことだな」

 僕は気の遠くなるような気持ちで、天井を見つめる。


「そんなことはないわよ。1年なんて、神様を目指しているうちにあっという間に過ぎちゃうんだから」

 ネコミミは僕の発言にクスクス笑いを返した。


「まあ、いいや。それなら、気長に待つとするよ。おやすみ、ネコミミ」

「ええ、おやすみ。レン」



 

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