異世界トリップⅩ
「3対1! たかだか3対1で僕が動じるだなんて、それはどうかしていると思わないかネコミミ? 面白い、君はともかくとして他の二人がどこまでやれるか見物だね」
「ふうん、この状況でまだ反則って言わないだなんて、ずいぶんと舐められたものね。それじゃ、少しだけ痛い目を見てもらってもいいかしら?」
ネコミミは怪しげにクスクス笑いながら、彼の方をじろりと見た。
「大丈夫だ、問題ない! 僕には戦闘ダメージ無効のスキルがあるんだ! それなのに、どうやって僕に痛い目見せてくれると言うんだよ? 矛盾している」
言うと、僕は馬鹿にするような大笑いを上げた。
しかし、心の中では少し動揺していた。
何を言ってるんだ?
全く、冗談じゃないぞ。こんなの。
おそらく、序盤は僕が優勢だろうが、後々相手が追い返してくる可能性もある。
いくら、僕が戦闘ダメージ無効スキル持ちとは言え、もしも相手がスキル無効化魔法なんて使ってきたりしたら、一間の終わりだ。
ネコミミだってきっと馬鹿じゃないだろう、僕が戦闘ダメージ無効なのは知っているはずだ。
さて、どうやって僕を攻略するつもりだ?
「戦闘ダメージ無効? そんなものに頼りきっていたら、今にも足元をすくわれるのじゃない?」
ネコミミはニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「そうなると、僕のスキルを無効化できる何かしらの魔法があるというでもいうわけか」
「うふふっ。さあ、どうかしらねえ……」
「そうでもしなければ、勝ち目はないだろ?」
「確かにそれもそうね。あなたの一番厄介なところは、戦闘ダメージを受けないところにあるんだもの。そこさえ抑えてしまえば、後は数で押し切ってしまって何とかなりそうなところね」
「果たしてそう上手くいくかな?」
僕は不敵な笑みを浮かべた。
「上手くいくわよ、だってあなたは油断しきってるじゃない?」
彼女が微笑みを浮かべた次の瞬間、僕の満タンだったHPゲージがわずかに減らされる。
気がつけば、僕の側にいたシムルグはいつの間にか姿を消していた。
何が……起こっている?
僕は怪訝な表情で辺りを見渡した。
現状、僕は今2人の敵に囲まれている。
それはネコミミと褐色の肌をした筋肉質な女の子だ。
「やけにあせった顔をしているわねえ、何かあったの?」
ネコミミは何故か、面白おかしそうにクスクス笑いを始める。
「さっき、僕の体力ゲージが減らされた。見れば分かるだろ?」
「ええ。だって、もうバトルは始まっているのだから!」
彼女が言い終えた次の瞬間、僕はありえない光景に眉をひそめた。
――何もないところから銃弾が!?
空間を覆いつくすほどの大量の銃弾が、急に僕の視界に現れる。
何て数だ! 回避しきれない!
僕は腕でガードして、その場をしのぎきることにした。
一応、戦闘ダメージ無効スキル持ちなので、ダメージ自体は喰らわないはずだ。
なのに、何なんだ? この寒気は。
大量の銃弾が僕の身体を襲う。
その際に、わずかだが僕は戦闘ダメージを負ってしまう。
ダメージを負った?
僕は驚いた表情で自分の体力ゲージを確認する。
確かにダメージを負っている、それは間違いない。
しかし、痛覚もなければ、銃弾が当たった感覚もない。
どうなっている?
いや、そんなことより……。
僕は背後へ振り向いて、入り口の方を確認する。
脱出だ!
まずは、この場から脱出しなければ!
僕は入り口に向かって、全速力で飛びだした。
「させないわ! 行きなさい、アトラス!」
ネコミミは指示すると、褐色の肌をした筋肉質な少女が入り口へ向かって飛び出す。
どうやら、彼女の名前はアトラスという名前のようだ。
速すぎる!
僕は目の前の光景に舌打ちする。
何故なら、僕が入り口にたどり着く前に、彼女が入り口の前に立って、とおせんぼうしているからだ。
僕よりも遅れて、走り出したのにも関わらず、彼女の方が先に出口に着いてしまった。
ということは、素早さだけなら僕よりも上ということのようだ。
僕は彼女が入り口を塞いでいることなど構うことなく駆け抜け、そして、そのまま彼女に向かってパンチを繰り出す。
僕の視界には、彼女が僕の攻撃に対して全くの無防備で、そのまま僕のパンチを受けてダウンするかのように見えた。
すると、僕の攻撃が当たる寸前で、突然彼女の姿が視界から消える。
彼女は素早く床に両手をついて逆立ちのような姿勢になると、下から鋭い蹴り上げを僕のあごに命中させるのだった。
僕は思いの寄らないカウンターを受け、見事に宙を舞った。
しかし、彼女の攻撃はこれだけには留まらない。
彼女は両手をついて、身軽に宙返りを決めながら立ち上がると、宙を舞っている俺に追い討ちを掛けようと、両足で跳躍する。
一方で、蹴り上げられた僕は何も出来ない。
何しろ、彼女に蹴り上げられてから、まだ1秒も経っていない出来事だったので、身を立て直すこともできず、追随を許すほかなかったからだ。
彼女は跳躍して、僕の場所までたどり着くと、空気を切り裂くような轟音を立てながら鋭い蹴りを放った。
彼女の蹴りは僕の腹部を大きく凹ませるほどに、深くめり込む。
僕は思わず内臓から運び出された胃液を吐き出し、さらに速いスピードで宙を舞った。
すると、彼女は空中ジャンプを繰り返して、再び僕に追撃する。
まるで、彼女の足元には見えない床でもあるかのように、空中ジャンプしてはその度に彼女の空中での移動速度はたちまち速くなる。
僕は空中で彼女に蹴られては、また蹴られるという最悪の循環を6回ほど繰り返し、そして、トドメに空中で縦回転しながらのカカト落としを喰らうのだった。
僕の身体は超高速で地面に叩きつけられ、耳をつんざくような激しい衝突音
が、聞く者全ての鼓膜を破りつくした。
その衝突で発生した、まるで核爆発のような衝撃波は大気を切り裂き、周囲の窓ガラスを片端から壊し始める。
床は跡形もなくこなごなになって、僕の周囲には壮大な砂煙が立ち込める。
「どうしたの? 大口を叩く割には大したことないじゃない、レン?」
嘲笑するような表情を浮かべ、ネコミミは言う。
「おいおい、あれが次期神様候補だってんなら、聞いて呆れるぜ? 本当にあんなのを連れてきて大丈夫だったのか?」
アトラスはせわしく髪をかきながら、退屈そうな表情でネコミミに尋ねる。
「私としてもその点は不安になります」
すると、姿を消していたシムルグが、急にネコミミの隣に現れる。
どうやら、魔法か何かを使って、今まで姿を消していたようだ。
「まあ、その点に関しては大丈夫じゃないかしら。これでも、私の人を見る目は結構自信があるのよ?」
ネコミミは満面の笑みを浮かべて、彼らに語りかける。
「どうだかな……、この前なんて、遠距離魔法のプロフェッショナル相手に私を召喚して、そのまま負けたこともあったしな……」
「他にも遠距離攻撃無効の相手に私を召喚して、負けたこともありますしね……」
グサリ、グサリと彼女達の言葉が次々とネコミミにささる。
「あらあら……、サーヴァントの分際でご主人様に対して、何て口の利き方なのかしら……」
ネコミミは満面の笑みで手をパキパキ鳴らしながら、彼女達に接近する。
「「う……うわぁぁぁぁ!」」
こうして、アトラスとシムルグの体力ゲージは0になり、ゲームオーバーとなる。
ていうか……、自分で自分の仲間を倒していいのか!?
「はあ、全く厄介な奴らだったな。体力ゲージも残り30%を切っている……、自分で自分の仲間を倒してくれるなんて助かったぜ」
僕は砂煙が立ち込める中、身体中ボロボロになりながら、ゆっくりと身を起こした。
「あら……、何を言っているのレン? 勝負はまだまだこれからじゃない?」
何だ、これは!?
僕は目の前の光景に眉をひそめた。
何故なら、僕の視界にはHPが0で動けないはずのシムルグとアトラスがゆっくりとその場で立ち上がっていたからだ。
彼らの瞳からは、ほとんど生気は感じられなかった。
「まさか、死んだ連中を操れるとでも言うのか……」
僕はあまりに絶望的な状況に苦笑する。
さっき拳を交えたからこそ分かるが、アトラスの接近戦での強さは決して生半可なものではない。素手の僕では、まるで歯が立たないくらいに、その戦闘能力は強大で絶望的だ。
その一方で、シムルグもアトラスに負けず劣らず厄介極まりない敵に違いない。何しろ、姿を消しながら、どこからともなく高速の銃弾を撃ち飛ばしてくるんだ。
姿を消しながら行動できるスナイパーなんて、僕が言うのもなんだがチートだぞ!?
そして、そんな二人がネコミミを倒さなければ、無限に何度でも生き返るという衝撃の真実。
……泣いていい。
こんな絶望的な状況、一般人なら素直に泣いていいと思う。
だが、僕は……
「それにしても、残りHPが30%を切るような、そこそこ絶望的な状況……。久方振りだ」
「ええ、そうでしょう。だって、レン……あなたは、これまで強力なスキルに頼りっぱなしで、これまで難しいクエストをクリアしてきたんだから」
「全くその通りだ。僕はたまたま運よく強力なスキルを持っていたお陰で、これまでのクエストはほとんど無傷だったよ。ある3つのクエストを除いてね」
「ある3つのクエストを除いて?」
ネコミミはキョトンとしながら、首をかしげる。
「それは、とある対人戦のクエストだった。そのクエストは相手プレイヤーの20人勝ち抜きのトーナメント式のクエストでね。たまたま運悪く僕のスキルを無効化してくるプレイヤーと当たってしまった時のことなんだけど、その時は、今とほとんど変わらない状況で、僕のHPは残り30%を切っていてね、それに対して相手のHPはほぼ満タンに近かった。観客は皆、彼の勝利を信じて疑わなかったよ……」
僕はニヤリと、いかにも悪企みしていそうな笑みを浮かべる。
「それで……、あなたは負けたのじゃない?」
ネコミミは僕を煽るように、軽く言った。
しかし、彼女は僕自身からどこか只者ならない気配を感じたのか、少しだけ動揺しているような感じだ。
すると、彼女の動揺はやがて恐怖へと姿を変えた。
「それは違う。これを見た瞬間、彼らの確信はすぐに間違いであることに気づく」
刀身の長さは10メートルを超え、まるで巨人が所有しているような壮大な大剣が二本。
それが僕の両手には握られていた。
一方は全てを照らし出すような眩いばかりの閃光を放ち、もう一方は全てを覆い尽くすような禍々しき混沌を放っている。
「何……これ……?」
ネコミミは刀のあまりの壮大さに言葉を失った。
「これが僕の切り札、神代の大裁と絶代の大裁だ。この剣で僕は逆境を乗り越えたというわけだ。さあ、どうするネコミミ?」
僕はネコミミに向かって、大剣を構えた。
「どうする……ですって? どうせそんな重い刀、ロクに扱えっこないわ。さっきと同じようにアトラスで片付けてしまえば終わりじゃない! 行きなさい、アトラス!」
アトラスは彼女から指示を受けると、全速力で僕に向かって襲い掛かってくる。
僕は10メートルを超える神代の大裁を高速で振りかざし、アトラスを切り刻んだ。
彼女はその場に崩れ落ち、そのまま地面にうつ伏せになって倒れ込むのだった。
ネコミミは大剣のあまりの速さにポカンと口を開けながら、驚いていた。
「ロクに扱えっこないだって? それはないな。ロクに扱えっこないのに、どうやって僕は相手に勝ったって言うんだ? そんなはずがないだろ。さきに言っておくが、もうそこのアトラスは使い物にならないぞ。僕の神代の大裁で魔力の供給源を完全に断ち切った。これで、復帰は不可能だ」
「まだ……、まだよ! 私にはシムルグが……」
ネコミミが言葉を紡ぎだそうとした瞬間、彼女の身体を絶代の大裁が貫く。
「絶代の大裁の効果だ、この剣を見た者は幻覚にとらわれ、身動きが取れなくなってしまう。実を言えば、僕のこの両手の大剣だが、巨大なように見えて、刀身がたったの1メートルしかないんだよ。つまり、この剣を見たときから、お前は幻覚に溺れていたということになる。そんな訳で、今回は僕の勝ちだ」
ネコミミの体力ゲージが0になり、僕達は元いた世界に戻る。
ていうか、ネコミミのサーヴァント。今にも過労死しそうだな。




