プロローグ
―――つめたい。
―――あつい。
頬を打ち付ける雨が。横たわる土の感触が。水気を含んでまとわりつく衣服が。
ひやりと沁み入っては身体の熱を奪うのに。
胸に広がった灼けるような激痛に、理性などいとも容易く破壊される。容赦の無いそれに、もがき苦しむ。
どうすることも出来ず呻いていたが、次第に喉の奥から迫り上がる血で呼吸もままならなくなった。
(……だれか、)
零れかけ、やめた。
もはやわたしに縋る存在などいなかった。
そうさせたのは、紛れもないわたし自身だ。
どうしてこんなことになってしまったのか。
いったいどこから間違えてしまったのか。
わかってる。どれだけ悔いても、時間は戻らない。
咳込み吐き出した赤黒い血が、雨に溶けてゆく様を眺めて。
それがまるでわたしの中に溜まった穢れのようだと。
こんなふうに…流されて、いつか消えてしまったらよかったのに、と。
(…そんなこと、今だから言えるのね)
気づけば視界も翳んでいた。意識が遠退いているのか、溢れた涙のせいなのか。
もう、どちらでもよかった。
雨音すら、遠くに感じ始めて。
「………ア…! …リリスティア……!!」
(……あれ?
だれかが、よんで、る…?)
微かに響いたその声は聴き慣れたものだった気がして。
わたしは自然と暗闇の中、手を伸ばした。
…きっと、届かないのだと知りながら。
「…ご…めん、ね……」
か細い贖罪の行方もわからぬまま。
わたしの意識は、闇に散った――。




