1 処刑
ひっそり新作書きました。ストック尽きるまで毎日投稿します。
女は――。
城も国も王までも、根こそぎ崩壊させてしまう、稀代の悪女であった。
◇◇◇
ヴァグダリア王朝は隆盛を極めていた。
魔力は武力のこの世界で、王は極めて優秀な軍隊を持っていたからだ。
花の都、ルテティア。
国中の美しい物は全てルテティアにあると諸外国から噂された。
飛ぶ鳥を落とす勢いの王、ルートビッヒ12世には正妻がおり、側室も何人もいた。
子どもは正室の子が5人、他にも次々と産まれて、御代は安泰かと思われた。
しかしある時、大勝した戦争の降伏相手から献上された女が特大の癖者だった。
絶世の美女、カミラ=バトリー。
その美しさたるや、花は恥ずかしさで枯れ、太陽も顔を背けるという程だった。
王は夢中になり、カミラの言うことは全て叶えた。
家臣の進言や、他の妃たちのことなどはまるで気にならなかった。
賢者と称された王は、カミラの瞳を見た瞬間、これ以上無い愚者となったのだ。
あくびをしたカミラに、
「つまらないわ」
と言われることが王の一番の恐怖になった。
「庭園の池をワインで満たして」
と言われれば、国中の酒をかき集めた。
「私以外にディアマンが似合う者がいて?」
と言われれば、国中の貴族たちから宝石をかき集めた。
国一番の商人たちの率いるエスター商会が誇る、数千万カラットの首飾りや最高級のブレスレットを、カミラはぞんざいに寝室のフットレストの上に置いた。
それでも王は怒らなかった。
予想もつかないカミラの振る舞いに、ますます夢中になった。
悪女の要求はとどまるところを知らなかった。
珍しい豪奢なドレス。
美しい絵画や美術品。
王がどれだけ金をかけても、カミラは満足しなかった。
その日はにこりと笑ってみせても、翌日にはむっつりと無表情になる。
カミラの美しくも冷たい瞳を見る度に、不思議と王はますます夢中になるのだった。
「私、布を破る音って好きだわ」
と、カミラが言ったときには、王は喜んで国中の絹を集めさせ、使用人たちに破らせた。
ほつれた綿の服を洗って何度も着ている下女たちは、憎しみを込めながらドレスを引きちぎった。
「本物の兵が見てみたいわ」
というカミラの一言で、王は軍の全員に招集をかけた。
もちろん戦など無い。虚言だ。
右往左往する兵士たちを見て、カミラは晴れやかに笑った。
王は味をしめて、それからも何度も兵を城に集めた。
緊急招集される兵士たちはたまったものではない。
積もり積もった平民の鬱憤は、石炭のように黒く集まり、時代に火を付け爆発させる。
王制が滅びるのは、自然の摂理というものだった。
*
王は革命軍によって殺された。
王妃や子どもたちは船で逃げ延びたらしいが、外国からはもう帰ってこれないだろう。
残されたのはカミラだった。
リッター広場の真ん中に設置された処刑台には、ギロチンが設置されていた。
怒りに顔を赤くふくらませた国民が、石や卵を投げつけようとつめかける。
そんな中を、カミラは堂々と歩いていった。
カミラが壇上に上がると、怒声は最高潮に達した。
見かねて、処刑人の男が剣を抜いた。
チリチリと魔法の炎が爆ぜる。
魔力のある者しか軍部には上がれない。
「静まれ!」
シンッとなった広場の中央で、劇の主役でもあるかのようにカミラは妖艶に微笑んだ。
群衆は思わず息をのんだ。
あまりにも美しい。
長かった髪はバッサリと首まで切られている。
これから斬られる首の白さと、凜とした眼差しの揺るぎなさが際立って、凄みのある美しさが白昼露わになっていた。
数ヶ月幽閉されていた上、簡素な衣装だというのに、貴族の舞踏会にでも来たかのように堂々としている。
「いいのよ、騒がしておいても。あの者たちにはこれが最高の娯楽なのだわ」
と、まるで他人事のようにカミラは言った。
処刑人は訝しげにカミラを見た。
これから死ぬ女の顔ではない。
普通はもっと、絶望し、憔悴し、感情を失う。
それがどうだ、この女は最期まで目に光がある。
「あら。ギロチンって斜めに刃がついてるのね。それに、案外高い場所にあるわ。手を貸してくださる?」
処刑人は少しためらったが、腕を出した。
「つかまれ」
「鍛えている腕ね」
「……無駄口を叩くな。さっさとしろ」
「せっかちね。でも感謝なさい、歴史に残るわよ。この傾国の悪女に、最後に触れた男はあなたなんだから」
深淵に惹き込まれそうな赤茶色の瞳に見つめられて、処刑人は思わず唾を飲んだ。
カミラは囁く。
「私の首を持って見せるのは貴方なんでしょう? お願いがあるの。頼むから、山賊みたいに片手でなんて持たないで頂戴ね。神様からの捧げ物みたいに、両手で持って見せて。約束よ」
処刑人はゆっくりと頷いた。
魔力をギロチンの刃に当てる。
鋭利な刃が、より薄くより冷たくなる。
人間を殺すことに特化した、苦しみを取り去るための魔法だ。
処刑人に促され、微笑んだ唇の下についている白い首が、素直に板に乗る。
「ああ楽しかった。でも、もう遊び飽きたわ」
それがカミラの最期の言葉だった。
女は息絶える瞬間までも、愉悦に満ちて微笑んでいた。
健康診断の初麻酔を記念して処刑モノを書きました。痛みが無いって言っても怖いもんは怖いんだよぉ…
カミラみたいに達観できずにジタバタ過ごしています。




