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逆襲のファムファタル 〜傾城傾国の悪女、(殺)サレ妻に転生する〜  作者: 丹空 舞


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1/3

1 処刑

ひっそり新作書きました。ストック尽きるまで毎日投稿します。

 


 女は――。


 城も国も王までも、根こそぎ崩壊させてしまう、稀代の悪女であった。






 ◇◇◇



 ヴァグダリア王朝は隆盛を極めていた。

 魔力は武力のこの世界で、王は極めて優秀な軍隊を持っていたからだ。


 花の都、ルテティア。

 国中の美しい物は全てルテティアにあると諸外国から噂された。


 飛ぶ鳥を落とす勢いの王、ルートビッヒ12世には正妻がおり、側室も何人もいた。

 子どもは正室の子が5人、他にも次々と産まれて、御代は安泰かと思われた。


 しかしある時、大勝した戦争の降伏相手から献上された女が特大の癖者だった。



 絶世の美女、カミラ=バトリー。



 その美しさたるや、花は恥ずかしさで枯れ、太陽も顔を背けるという程だった。


 王は夢中になり、カミラの言うことは全て叶えた。


 家臣の進言や、他の妃たちのことなどはまるで気にならなかった。


 賢者と称された王は、カミラの瞳を見た瞬間、これ以上無い愚者となったのだ。


 あくびをしたカミラに、

「つまらないわ」

 と言われることが王の一番の恐怖になった。


「庭園の池をワインで満たして」

 と言われれば、国中の酒をかき集めた。


「私以外にディアマンが似合う者がいて?」

 と言われれば、国中の貴族たちから宝石をかき集めた。


 国一番の商人たちの率いるエスター商会が誇る、数千万カラットの首飾りや最高級のブレスレットを、カミラはぞんざいに寝室のフットレストの上に置いた。


 それでも王は怒らなかった。

 予想もつかないカミラの振る舞いに、ますます夢中になった。


 悪女の要求はとどまるところを知らなかった。

 珍しい豪奢なドレス。

 美しい絵画や美術品。


 王がどれだけ金をかけても、カミラは満足しなかった。


 その日はにこりと笑ってみせても、翌日にはむっつりと無表情になる。

 カミラの美しくも冷たい瞳を見る度に、不思議と王はますます夢中になるのだった。



「私、布を破る音って好きだわ」

 と、カミラが言ったときには、王は喜んで国中の絹を集めさせ、使用人たちに破らせた。

 ほつれた綿の服を洗って何度も着ている下女たちは、憎しみを込めながらドレスを引きちぎった。


「本物の兵が見てみたいわ」

 というカミラの一言で、王は軍の全員に招集をかけた。

 もちろん戦など無い。虚言だ。

 右往左往する兵士たちを見て、カミラは晴れやかに笑った。

 王は味をしめて、それからも何度も兵を城に集めた。

 緊急招集される兵士たちはたまったものではない。



 積もり積もった平民の鬱憤は、石炭のように黒く集まり、時代に火を付け爆発させる。


 王制が滅びるのは、自然の摂理というものだった。





 *




 王は革命軍によって殺された。

 王妃や子どもたちは船で逃げ延びたらしいが、外国からはもう帰ってこれないだろう。


 残されたのはカミラだった。




 リッター広場の真ん中に設置された処刑台には、ギロチンが設置されていた。


 怒りに顔を赤くふくらませた国民が、石や卵を投げつけようとつめかける。


 そんな中を、カミラは堂々と歩いていった。


 カミラが壇上に上がると、怒声は最高潮に達した。


 見かねて、処刑人の男が剣を抜いた。

 チリチリと魔法の炎が爆ぜる。

 魔力のある者しか軍部には上がれない。



「静まれ!」



 シンッとなった広場の中央で、劇の主役でもあるかのようにカミラは妖艶に微笑んだ。


 群衆は思わず息をのんだ。

 あまりにも美しい。


 長かった髪はバッサリと首まで切られている。

 これから斬られる首の白さと、凜とした眼差しの揺るぎなさが際立って、凄みのある美しさが白昼露わになっていた。


 数ヶ月幽閉されていた上、簡素な衣装だというのに、貴族の舞踏会にでも来たかのように堂々としている。


「いいのよ、騒がしておいても。あの者たちにはこれが最高の娯楽なのだわ」

 と、まるで他人事のようにカミラは言った。


 処刑人は訝しげにカミラを見た。

 これから死ぬ女の顔ではない。

 普通はもっと、絶望し、憔悴し、感情を失う。

 それがどうだ、この女は最期まで目に光がある。



「あら。ギロチンって斜めに刃がついてるのね。それに、案外高い場所にあるわ。手を貸してくださる?」


 処刑人は少しためらったが、腕を出した。


「つかまれ」


「鍛えている腕ね」


「……無駄口を叩くな。さっさとしろ」


「せっかちね。でも感謝なさい、歴史に残るわよ。この傾国の悪女に、最後に触れた男はあなたなんだから」


 深淵に惹き込まれそうな赤茶色の瞳に見つめられて、処刑人は思わず唾を飲んだ。




 カミラは囁く。




「私の首を持って見せるのは貴方なんでしょう? お願いがあるの。頼むから、山賊みたいに片手でなんて持たないで頂戴ね。神様からの捧げ物みたいに、両手で持って見せて。約束よ」





 処刑人はゆっくりと頷いた。


 魔力をギロチンの刃に当てる。

 鋭利な刃が、より薄くより冷たくなる。

 人間を殺すことに特化した、苦しみを取り去るための魔法だ。


 処刑人に促され、微笑んだ唇の下についている白い首が、素直に板に乗る。






「ああ楽しかった。でも、もう遊び飽きたわ」




 それがカミラの最期の言葉だった。


 女は息絶える瞬間までも、愉悦に満ちて微笑んでいた。






健康診断の初麻酔を記念して処刑モノを書きました。痛みが無いって言っても怖いもんは怖いんだよぉ…

カミラみたいに達観できずにジタバタ過ごしています。

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