第106話 ダンジョンの喪失
ダンジョンが光で覆いつくされた時、世界中に広がっていたダンジョンが消えてしまったらしい。
カツン
カツン
カツン
カツン
カツ…。
カ……。
………。
………。
………。
ダンジョン作りの音が消えると、世界の人々の記憶からダンジョンの記憶が失いかけているようであった。
日常の喧騒が世界を覆い尽くそうとしていた。
SNSの情報や、事件、事故などが人々の関心を引く新たな話題に変わっていた。
ただ、ダンジョン配信の映像だけが残されていた。
その映像には1人の少年が映っている。
コメント欄では、彼を「スクイ君」と呼んでいた。
ただ、誰もそのことを覚えていなかった。
いったい、この少年は誰だろうか…。そんなことが話されるようになっていた。
しかし、その答えを誰も知らなかった。
◇ ◇ ◇
ダンジョンが消えてから、1か月が過ぎた頃、沼田君はライブ配信をしようとしていた。
これから、バイクで旅行に出るらしい。
〈ブンブンブンwww〉
〈うぽつ、ぶんぶんーーーー〉
〈bunbunbun……〉
〈ブンーブンブンw〉
いつものようにコメント欄が埋め尽くされていた。
たわいもない世間話をしながら、沼田君はバイクを走らせていた。
山道を走っていた。
気が付くと、バイクがトンネルの中を走っていた。
真っ暗な闇の中を走っていた。
〈うわー、暗いなーーw〉
〈電灯ないのかw〉
〈気を付けて〉
〈石とかあったら、ガチで危険じゃねw〉
その時、我に返ったように、沼田君はバイクを止めていた。
それからカメラに向かって話しかけていた。
「わりぃ、今日の配信はやめることにするわ…」
そう言うと、カメラを消して、学校に向かうことにした。
もう二度と、学校の門をくぐることはないだろうと思っていたが、どうしても確かめなければならないことがあった。
◇ ◇ ◇
学校に到着すると、1人の高校生が花壇の前にいるのに気づいた。
地面に座り込み、何かをじっと見つめていた。
沼田君が声をかけていた。
「スクイ君、何を見ていたの?」
その声を聞いて、男子生徒は立ち上がり、嬉しそうに微笑みを浮かべていた。
「やあ、沼田君、久しぶりだね…」
「いや、何を見てたの?」
沼田君は再び尋ねた。
「アリの巣だよ」男子生徒は答えた。「最近、世界からアリが消えたって言う昆虫学者がいるんだ。だから、調べてみたんだよ。でも、アリがいなくなったら大騒ぎになるよね」
「確かにそうだね…」
「魔法でもない限り、そんなことは起こらないよね。ただ、びっくりして調べてたんだ…」
男子高校生が笑っていた。
すると、沼田君は大きな声を出した。
「スクイ君、君って、ダンジョンでヒーローだったでしょ? いや、変なことを言ってごめん…。そんなことが頭に浮かんだんだよ…」
「ダンジョンって何だっけ?」
「いや、ぼくの動画を見たことない?」
「ちょっと、わからない…」
それを聞いて、沼田君は少し戸惑っていた。
沼田君は頭を掻きながら、
「そっか…。ごめん、スクイ君がぼくのヒーローだったんじゃないかと思ってさ…」
と、返事をしていた。
それを聞いて、スクイ君は笑っていた。
「よくわからないな。ただ、今度、学校に来たらゆっくり話そうよ!」
「そうだね…」
「じゃあ、次の授業が始まるからぼくは行くよ」
スクイ君は学校に向かっていた。
彼が学校に入るのを見ると、沼田君はニヤッと笑っていた。
「バカなことを聞いてしまったな…」
と、沼田君は独り言をつぶやいていた。
そして、カメラの電源を入れた。
「やっぱり、配信始めまーすw」
〈ブンブンブンwww〉
〈うぽつ、ぶんぶんーーーー〉
〈bunbunbun……〉
〈ブンーブンブンw〉
沼田君のバイクが走り出していた。
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