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馴染な男  作者: 孤独
大学3年
23/52

群れ捕手


プロ注目の幸先高次の全国大会、1回戦。

その球場には



「間に合ったみたいだな」

「阪東さん、アイス食うっすか?」

「いらねぇーよ。お前がアイスを大量に買い込むから遅れそうになっただろうが。それと足遅いな」



阪東孝介。他にも、プロ球団のスカウトが何人か現れる。

また、鬼島郁也も観戦しに来ていた。

さらには



「視察しなきゃな。決勝で当たるかもしれない」

「八木は結構知ってるんじゃないの?」



同世代の逸材。八木恭介と海堂整。



「お久しー、鍋島先輩」

「お前の顔をこうして観るのは、残念だったな」


村井一樹。それと今大会には出場できなかったが、同じく全国レベルの捕手。鍋島連も観戦。


客の人数はそう多くはないが、注目選手を観に来る注目選手は揃っていた。

その全てがやはり、幸先をお目当てとしている。



「うおおっ!誰か俺を観に来い!!」



高橋さん。試合前に怒りの素振り。必死のアピールである。


「…………」


一方で名神は、大鳥の球を受けながら相手ベンチ。幸先の様子を観ていた。今日の先発、エースピッチャーの柳本の球を受けながら、2番手井川の状態も確認していた。5人の投手を使うのだから、把握する必要があるのは当然だろう。

大変そうである。


「和!意識し過ぎだ!」

「悪い」

「無理もねぇけど。お前には俺がいる!」



とはいえ、大鳥も気負いを感じさせる。もし、ここで打たれるような事があればと、……。

打者としては初の大物とのぶつかり合いだ。


「幸先に一発はない。ただカットする技術と、ボール球にはまったく手を出さない選球眼、甘い球を確実にヒットにする。出塁率は5割以上は本物だぞ」



先輩からのアドバイス。記録員からの情報でイメージは掴んでいる。

思いっきり勝負ができる打者ではあるが、大鳥が苦手とする出塁率重視の巧打者。三振をくれるだろうか?



◇          ◇




「プレイボール!」


試合が始まった。

先攻、関西学院。後攻、九州国際大学。



3番、幸先。4番、高橋。強力な打者はこの2名であるが……



カーーーーンッ



「打ったーー!1番、若松!レフト前ヒット!」



関西学院の打線は隙がないほど、巧打者揃い。

大物打ちはいないが、穴がないというのはしんどい打線だ。いきなり打たれた事で、わずかに焦るか。

大鳥の投球は、……



「走ったーー!」



関西学院。積極的な盗塁を仕掛ける。が、大鳥のクイック投法は見事であり、



パァンッ



「セカンッ!」



名神の2塁送球も素早く正確。



「アウト!!」

「刺したーー!初回のピンチも難なく抑えたーー!!」


見事なコンビプレイでアウトを頂く。今の一連の動きで、盗塁を封じたと言っていいほど見事なものであった。

続く2番も抑え、2死状態で迎える。



「3番、キャッチャー、幸先」



チャンスの場面で回したくない打者だっただけに、初回の出会いとしては良い。

幸先が打席に立ったとき、いつも以上に打者を観てしまう名神。それに気づいたのか、揺さぶりなのか。幸先から名神に声をかける。



「ええ、送球やったな」

「!」

「投手のクイックも見事や。こりゃ盗塁も、送りバントも、しんどそうや」

「……大鳥はこんなもんじゃないさ」

「期待しとるで」



第一打席、その初球。幸先は必ず。



「ストライク!」


見逃す。

それがど真ん中の絶好球であろうとだ。

とはいえ、本気で投げてくる奴はいない。幸先は相手の力量を測りに来るのだ。事前に相手のデータを把握するが、当日のコンディションによっては微調整が必要である。

3種類のスライダーが中心という情報であるが、シンカーも武器になったとデータにはある。


ここは大人しく、幸先の狙い球は大鳥のストレート!




カーーーンッ



「ファール!」



高めの釣り球に手を出したが、捉えていた。

ストライクゾーンならどこでも運べそうだという実感。読み切れば勝てる。


「………にしても、こいつ」


大鳥は少々、幸先の打撃にムッとしていた。2ストライクは簡単にくれたのであるが、粘りに粘る。

カウント2-2ながら、7球目だ。選球眼は良いと聞いていたが、これは想像以上だろう。

空振りさせるスライダーにもついてくる。

虚を突く形で、決め球にシンカーを持ってくるパターン。幸先の反応は……



パァンッ



「ストライク!バッターアウト!チェンジ!」


幸先、見逃し三振。第一打席を三振に切ったのは大きいが、



「振らなかった。フォーム崩してひっかけると思ったのに」

「狙い球じゃなかったからか?」



注目選手を抑えた大鳥と名神。試合展開は大方の予想通り、投手戦……かに思えたが!



カーーーーンッ



エースの柳本が初回から乱調。四球1つと、2本のヒットを打たれ、2失点。

今大会の九州国際大学。春先の試合で大鳥の好投を無駄にしたあの敗戦から、かなりの打撃強化を行い、打線は強くなっていた。一回戦ともあって、データを上回る成果。



「すまん」

「相手はやりおるのぅ。こー、球が荒れてちゃ、四球も増えるもんや」

「おいおい、正直に言うのか。幸先」


守りのタイムをすぐに使って、柳本を落ち着かせる。


「相手のエースはなかなか良い。そう崩れそうにない。でも、向こうの打線は明らかに打てる奴と打てん奴の差がある。これ以上の失点はもうないで」

「!わ、分かった」


緊張をほぐすため、相手チームの弱いところも告げる。

守りのタイムで落ち着いた柳本は、後続を抑えて初回を2失点で留める。



「おっしゃーー!俺の打席!」


2回表、高橋さんの打席ではあるが……。



「ストライク!バッターアウト!!」

「くそがぁぁっ!!」



大鳥の縦スライダーに空振り三振。

先制点のおかげで初回の固さが抜け、いつもの奪三振を狙った投球が冴え始める。一方で、柳本は辛くも抑える形でイニングを食っていく。



「良い感じかな」



4回表、関西学院の攻撃は2アウトながら



「ボール、フォアボール」



幸先が四球で出塁し



「うがああぁぁっ!!」


4番、高橋がセンターオーバーのツーベースで2塁3塁の同点のチャンスを作るも。

ここで大鳥が踏ん張りを見せて、5番をショートフライに打ち取る。

4回裏。関西学院は柳本を諦め、2番手の井川を投入。7番、名神にヒットを浴びるも、無失点で切り抜ける。


4回まで終わって。

関西学院のヒットは2本。

九州国際大学のヒットは7本。

押しているのは、九州国際大学の方である。

しかし、崩れない。遠い、追加点のホーム。




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