第15話 取引
「こっちであります」
海原に案内され、少し大きめの建物の前まで歩いてきた。どうやら港で使う倉庫のようだ。
現在、俺は武装のほとんどを格納し、武器は腰に差した刀とボロモーゼルだけだ。
佐久間、海原、槇原はフル装備である。まあ、余程の事がない限り遅れを取るとこはないか。
「シュタイナー殿。お連れしたぞ」
そう言い、海原は鎧を着た男の前まで歩いていった。
年頃は40代前半ぐらいか。身長は2メートル程あり、顔には古い刀傷がある。ふむ。ガチムチマッチョってな訳でもないがそこそこ引き締まった体をしているようだ。率直に言えば熊だな熊。
「おお、って。誰がミユキ殿だ?」
「ああすまん。俺だ。すぐに名乗り出るべきだったか?」
名乗り出るとシュタイナーの側近らしき騎士達が少し騒ぎ始める。中には「幼いな」「本当に団長なのか?」「お飾りでは?」との声も漏れ聞こえてきた。
しかし、シュタイナーが1度そちらに目をやると側近らしき騎士達はすぐさま押し黙った。ふむ。なかなか練度は高そうだ。
「…その齢でその体運び。気迫は上手く隠しているようだが。なるほど。ただ者ではなさそうだ」
見た目に惑わされず冷静な戦力分析。こいつは敵に回すと厄介だな。
「おっと。それより自己紹介が先だな。俺はシュタイナー・フォン・カールス。クリューガー伯爵家、第2騎士団バナード分遣隊分隊長だ」
「これはご丁寧に。俺は峰岸 深雪だ。姓が峰岸、名が深雪だ。この辺りじゃあ一般的ではないらしいから一応な」
「ミユキ・ミネギシ。なるほど了解だ。ミネギシが姓だったか」
「やはりこの辺では珍しいか。で、用件は?」
「せっかちだなぁ。っと。まずは盗賊の討伐及び住民の避難誘導の件。礼を言う。諸事情により即応が遅れてしまってな。危うくさらに多くの犠牲が出るところだった」
「礼には及ばん。こちらも目的があってやったことだしな」
「ほう?差し支えなければその目的とやらを聞いても?」
俺の言葉に少し警戒度を上げるシュタイナー。まあよくわからん武装勢力が相手なら当然だよな。
「ああ。ひょんなことで拠点が無くなっちまってな。それでこの街を新しい拠点に新生活を始めようと思ってここまで来たわけだ。で、来てみたら盗賊の襲撃にあってたからな。商売場所が無くなるのは困るからやったまでだ」
「なるほどな。確かに話の筋は通ってる…」
シュタイナーはそう言うと少し視線を上にあげ、自分の顎を撫で始めた。
しばらくそのまま撫で続けていると、何かを思い付いたようにこちらに視線を戻す。
「よし。ここは1つ取引しないか?」
「取引?」
「ああ。ミネギシ達はこの街を拠点に新な生活を始める訳だろう?なら新な拠点等は決まってないんじゃないか?」
「まあそうだが」
「ゲオルク」
「はっ!」
シュタイナーが名を呼ぶと、後ろに控えていた騎士の1人が1枚の紙をもってやって来た。
近くに置いてあった机をこっちに運び、その上に紙を引く。それは羊皮紙に書かれたこの辺りの地図だった。
「ここがバナード。で、南城門から南に500メートル行ったところに今は使ってない騎士団の訓練所がある。そこをミネギシ達に貸し出そう」
「ふむ…。そこまでは悪くないが…。変わりに何をさせる気だ?」
「…現在この街の防衛は俺達第2騎士団バナード分遣隊と2個の軍団、少数の自警団からなってる。しかし俺達分遣隊は数が少ない。今回の大規模襲撃の際には手が足りない」
「…それで?」
「でだ。今回のような襲撃等の問題があった時に俺達分遣隊と協力してその問題解決に協力してほしい」
「…ふむ。…すでに2個の軍団と自警団があるんだろ?そいつらは?」
「…まあぶっちゃけて言えば奴らは控え目に言って使い物にならん。己の利益を追求するのは悪いことじゃないが流石にあそこまで行くとな。まあもう1個の方と自警団は割りと真面目だがどちらも手数が少なくてな」
「…なるほどね。で、その街の防衛に参加すると何か街やギルドから何か出るのか?さっき利益を追求するとか言ってたろ」
「よく聞いてるなぁ。こいつは街からの長期依頼って形になる。街からギルドを通して定期的に金が入る訳だ。詳しくはギルドで聞いてみてくれ」
「…なるほどな」
うまい話ではある。俺達は貸し出しではあるが一定の土地と定期的な収入、シュタイナー達には恐らくだが俺達を1ヶ所に固め、監視をしやすくし、なおかつ街に入ってきた際もすぐにわかるようにって訳だ。
「…2、3日時間をくれ。答えはそれからでいいか?」
「ああ。いいぞ。恐らく後片付けやその他もろもろで5日はここに居るからな。それまでに返答をくれ」
「了解した。他に話は?」
「おお、そうだ。礼は及ばんと言ってたがな。それじゃ流石にこっちの面子が立たん。答えが決まるまでは分遣隊の寄宿舎を使ってくれ。幸い部屋は大分余ってるからな」
「了解。それだけか?」
「ああ。いいぞ」
「ではまたな」
そう言い残し、倉庫を出る。PTボートを停めている桟橋まで移動、佐久間達に解散を言い渡し、ジャーキーを取り出す。さてさて、どうすっかな。
ジャーキーをかじっていると再び佐久間が報告に訪れた。
「隊長。シュタイナー分遣隊隊長の遣いだと言う者が来てます。何でも寄宿舎への案内と軽い身の回りの世話を任されたとの事です」
「ああ。恐らく監視だろう。通せ。断って拗れるのは面倒だ」
「はっ!」
佐久間がその騎士を呼ぶ間、無線機を取り出し、マクナイトに繋ぐ。
「マクナイト。応答しろ」
『こちらマクナイト。どうしましたか?』
「地上部隊は地元騎士団の寄宿舎に移動することになった。すまないがボートを見張るためにPTボートクルーは留守番として居残りしてもらえないか?」
『お安いご用です』
「苦労をかける。今度まとまった休みをやるからな。耐えてくれ」
『Yes Sir!』
さて、これで見張りの問題は解決と。はてさて、監視はどんなのが来るかな?




